アブソリュート・エゴ・レビュー

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情婦

2005-07-06 08:26:01 | 映画
『情婦』 ビリー・ワイルダー監督   ☆☆☆☆

 しばらく前に購入したDVDで鑑賞。
 原作はアガサ・クリスティー『検察側の証人』。子供の頃読んだことがあるが内容はほぼ全部忘れていた。映画の印象としてはクリスティーの原作に忠実な、ウェルメイドな知的エンターテインメント。魂を震撼させるような映画じゃないが非常に洒落た愉しい映画である。結末のどんでん返しが有名で、本編後に「結末を人に喋らないで下さい」というテロップが出る。芝居もイギリスで記録的なロングランを続けたそうだが、やはり「結末を喋らないで下さい」と俳優が観客に頼んだそうだ。まあこの映画に関してはそう言いたくなる気持ちは分かる。結末を知っていたら面白さ半減かも知れない。しかし、そこまでどんでん返しに頼る映画って一体どうなんだろう。真の傑作というには躊躇がある。ただ、とてもいい映画であることは間違いない。

 あらすじを簡単に、ネタばれがないように言うと、まず弁護士のところへ男がやってくる。知り合いの婦人を殺害した容疑をかけられていると言う。ここで犯罪の経緯が説明される。男はある婦人と知り合い、友人として家に遊びに行くようになり、ある日自分が帰った直後に婦人が殺される。しかも婦人は男を多額の遺産相続人に指定していた。アリバイを証明できるのは男の妻だけだが、妻のアリバイ証言は法廷では重視されない。男は逮捕される。弁護師は男の妻に会う。妻は奇妙に冷やかな態度を取る。やがて公判が始まる。男に不利な証言が次々となされる。そして男の妻が証言台に立ち、驚くべき証言をする…。ここから先はどんでん返しに次ぐどんでん返し、息つく暇もない。

 法廷シーンというのはそれだけでかなり面白い。「十二人の怒れる男」「推定無罪」「アラバマ物語」そして日本のテレビ番組だが「白い巨塔」。本作も熱い法廷シーンをたっぷり味わえる。しかも怒涛のような展開だ、面白くないわけがない。そしてどんでん返しの連続は判決が出た後まで続く。見終わった後、とことん観客を楽しませようとする映画だなと感心できる。

 緊張感のあるミステリなのだが、同時にユーモラスでもある。弁護士のキャラクターが秀逸。いい味出す役者だなと思ったらこの人がかの有名なチャールズ・ロートンだった。病院帰りでタバコも酒も禁止されているにもかかわらず、やかましい看護婦の目を盗んで吸ったり飲んだり。特にのんびりとスタートする前半はコメディ色が強い。そのコメディが徐々に法廷サスペンス色を増し、しまいにはジェットコースタームービーと化す構成もナイス。

 そして忘れちゃいけないマリーネ・ディートリッヒ。なんとこの時55歳らしい。確かに若い感じじゃないが、これで55歳とは恐れ入る。実にカッコイイ。凛として妖気を漂わせる存在感はただものじゃない。なんかこの酷薄そうな、気位高そうな感じが、魅力的といっていいのかどうかは良く分からないが、とにかく印象的である。でも回想シーンで踊り子姿で男達にもみくちゃにされるところは、さすがにちょっと引いた…。とにかくこの人の演技力、存在感がこの映画の柱であることに間違いはない。

 というわけで、決してどんでん返しばかりの映画というわけではないのだが、逆にあまりに鮮やかでテンポの良いどんでん返しが大盤振る舞いされるため、映画全体からリアリティが失われ、お芝居のようなエンターテインメントとして軽く感じられる結果になっている。公判後の展開にはもう少し時間をかけた方が、どんでん返しのテンポの良さは失われたにしても、ドラマとしてはより濃厚になったと思う。
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ワイルダー (適当に5段階評価)
「情婦」  4点 原作はクリスティのミステリ小説。タイトルが秀逸。この映画でワイルダーの名前を知った。