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『世界幻想文学大全3 幻想小説神髄』 東雅夫・編 ☆☆☆☆
『怪奇小説精華』に続いて『幻想小説真髄』を読了。しかしすごいタイトルだな。
西洋の幻想小説の系譜を辿るという意味では面白いし、特に最初の方に収録されている数編はこういうキリスト教的世界観が幻想物語の源泉にあることを示してくれて、なかなか興味深いものがある。ジャン・パウルの「天堂より神の不在を告げる死せるキリストの言葉」は神不在の世界の恐ろしさと空しさを実感を込めて描き出したもので、無神論というか不可知論の私などからすると、「なるほど、信仰心とはこういうものか」と妙に腑に落ちるものがあるし、またノヴァーリスの「ザイスの学徒」は神秘主義的というか浪漫主義的というか、自然崇拝、自然礼賛、自然大絶賛的な形而上学が思う存分展開される。これはこれですごい。が、やはり私としては後半の、現代の幻想小説の数々の方が面白いのだった。
既読のものも多かったが、既読未読区別せずに面白かったものを言うとリラダン「ヴェラ」、シュオッブ「大地炎上」、マン「衣装戸棚」、ダンセイニ「バブルクンドの崩壊」、アポリネール「月の王」、カフカ「父の気がかり」、シュペルヴィエル「沖の小娘」、シュルツ「クレプシドラ・サナトリウム」、ボルヘス「アレフ」あたりだ。マクラウド「精」もなかなか良かった。しかしこうやって列挙すると壮観で、やっぱりこれは幻想小説神髄かも知れないな。
初読で面白かったのはマンの「衣装戸棚」で、物語が収束せず、突然ゆらりと揺れて消えてしまう曖昧なラストが良かった。それからつくづく堪能したのがダンセイニの「バブルクンドの崩壊」。必読の一篇である。エキゾチズムと幻想美がたっぷりで、複数の旅人からの伝聞という語りの構造も巧みだ。稲垣足穂の「黄漠奇聞」に似ているが、足穂が真似したのだろうな。
掉尾を飾る「クレプシドラ・サナトリウム」「アレフ」の二篇はやはり圧巻だ。「クレプシドラ・サナトリウム」はすさまじい奇想、横溢する夢魔のリアリズム、華麗な文体とどこをとっても強烈かつ濃密な幻想物語で、ある意味カフカを凌駕している。これを書いたシュルツは目覚めながら夢を見る才能を持った稀有な芸術家といわなければならない。それに対し「アレフ」は、アイデア、構成、叙述法、文体などもろもろの要素を組み合わせ見事な効果を演出するボルヘスのバランス感覚、アレンジの才能に感嘆する。要するに知性の強靭さだ。
というわけでなかなか良いアンソロジーだった。しかしもし私が編者だったとしたら、ここにマンディアルグとディーネセンとヴィアンも加えたいところだ。ポーとコルタサルの名前ももちろん幻想文学には欠かせないが、これは『怪奇小説精華』の方に入っているので良しといたしましょう。
『怪奇小説精華』に続いて『幻想小説真髄』を読了。しかしすごいタイトルだな。
西洋の幻想小説の系譜を辿るという意味では面白いし、特に最初の方に収録されている数編はこういうキリスト教的世界観が幻想物語の源泉にあることを示してくれて、なかなか興味深いものがある。ジャン・パウルの「天堂より神の不在を告げる死せるキリストの言葉」は神不在の世界の恐ろしさと空しさを実感を込めて描き出したもので、無神論というか不可知論の私などからすると、「なるほど、信仰心とはこういうものか」と妙に腑に落ちるものがあるし、またノヴァーリスの「ザイスの学徒」は神秘主義的というか浪漫主義的というか、自然崇拝、自然礼賛、自然大絶賛的な形而上学が思う存分展開される。これはこれですごい。が、やはり私としては後半の、現代の幻想小説の数々の方が面白いのだった。
既読のものも多かったが、既読未読区別せずに面白かったものを言うとリラダン「ヴェラ」、シュオッブ「大地炎上」、マン「衣装戸棚」、ダンセイニ「バブルクンドの崩壊」、アポリネール「月の王」、カフカ「父の気がかり」、シュペルヴィエル「沖の小娘」、シュルツ「クレプシドラ・サナトリウム」、ボルヘス「アレフ」あたりだ。マクラウド「精」もなかなか良かった。しかしこうやって列挙すると壮観で、やっぱりこれは幻想小説神髄かも知れないな。
初読で面白かったのはマンの「衣装戸棚」で、物語が収束せず、突然ゆらりと揺れて消えてしまう曖昧なラストが良かった。それからつくづく堪能したのがダンセイニの「バブルクンドの崩壊」。必読の一篇である。エキゾチズムと幻想美がたっぷりで、複数の旅人からの伝聞という語りの構造も巧みだ。稲垣足穂の「黄漠奇聞」に似ているが、足穂が真似したのだろうな。
掉尾を飾る「クレプシドラ・サナトリウム」「アレフ」の二篇はやはり圧巻だ。「クレプシドラ・サナトリウム」はすさまじい奇想、横溢する夢魔のリアリズム、華麗な文体とどこをとっても強烈かつ濃密な幻想物語で、ある意味カフカを凌駕している。これを書いたシュルツは目覚めながら夢を見る才能を持った稀有な芸術家といわなければならない。それに対し「アレフ」は、アイデア、構成、叙述法、文体などもろもろの要素を組み合わせ見事な効果を演出するボルヘスのバランス感覚、アレンジの才能に感嘆する。要するに知性の強靭さだ。
というわけでなかなか良いアンソロジーだった。しかしもし私が編者だったとしたら、ここにマンディアルグとディーネセンとヴィアンも加えたいところだ。ポーとコルタサルの名前ももちろん幻想文学には欠かせないが、これは『怪奇小説精華』の方に入っているので良しといたしましょう。
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