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ISS拡大撮影(L+RGB編)その5

2022年06月09日 | ISS(国際宇宙ステーション)
 最近、ISS通過がある日は晴れないという天気めぐりになってるようで…デュアル拡大撮影システムのテストが全くできない状態です。…ということで、今回はデュアル拡大システムで撮影した場合、ISSはどこまで写るのかまじめに考えてみました。

天体望遠鏡の光学性能の表し方として分解能がありますが、これとは別に遮断空間周波数というものがあります。今回はこの遮断空間周波数を用いて現在使用している拡大撮影システムで400km上空を飛行するISSはどこまで解像できるのか探ってみたいと思います。

〈分解能〉
 分解能には、よく知られているドーズの分解能(ε=115″.8 / D)と回析理論の分解能(ε=251575″ × λ / D)があります。この式で30cmドブの分解能を計算すると
 ドーズの分解能 ε=115″.8 / 300 =0.386″
 回析理論の分解能 ε=251575″ × λ / 300 = 0.425″(λ = 507nmの時)
 回析理論の分解能 ε=251575″ × λ / 300 = 0.551″(λ = 685nmの時) となります。
*507nmは暗所での視感度が高い波長、 685nmはモノクロカメラに装着しているIR Pass フィルターの透過波長
*天文年鑑には 30cmの分解能は ドーズも 回析理論も 0.4″と記載されてます。

〈遮断空間周波数〉
 遮断空間周波数(Vb)は天体望遠鏡が見分けられる明暗模様の細かさの限界を表しており、Vb=1 /(λF)=D/(λf)の式で求めることができます。(有口径D、焦点距離f,FナンバーF、波長λ)

 この式を用いてデュアル拡大撮影システム(D=300mm、f=3450mm、F=11.5)の遮断空間周波数を計算すると、Vb=1 /(0.000588×11.5)=300/(0.000588×3450)= 1/147(147の-1乗)になります。
*波長によって遮断空間周波数は変わるのでここでは光学計算で使われるd線の波長588nm(0.000588mm)で計算しています

 遮断空間周波数が1/147であることは、この望遠鏡が1mmあたり147組の明暗線を見分けられるということを表しています。モノクロカメラに装着しているIRフィルターは685nmなので計算すると 1/126(126の-1乗)になり、1mmあたり126組の明暗線を解像できるということになります。

 これを比較すると、カラーカメラの方が解像度がいいぞ~ と思いがちですが、空間周波数が高くなるとコントラストは低下するので数値だけでは判断できないところもあります。ここまでは望遠鏡のFナンバーで決まる望遠鏡そのものの解像限界値ですが、使用するカメラのイメージセンサーにも解像限界があります。こんどはそちらを計算してみることにしましょう。

〈ナイキスト周波数〉
 ナイキスト周波数Vnはイメージセンサーの解像力の限界を表しており、この解像力は敷き詰められたセルの間隔(画素ピッチ)で決まります。画素ピッチは小さい方が高い解像力を得ることができます。記録できる像の明暗の細かさは画素ピッチをdとして次の式で求められます。Vn = 1 / (2d)

 では、デュアル拡大撮影で使用しているASI290MCの画素ピッチを計算してみましょう。ASI290MCの受光面サイズは縦3.2mm×横5.6mmで画素数は縦1096×横1936なので、縦の画素ピッチは3.2 / 1096= 0.0029mm で約0.003mmです。(横で計算しても当然ですが同じです)よって、d=0.003となるのでナイキスト周波数を計算すると、Vn = 1 / (2×0.003)= 1/166(166の-1乗)となります。

 つまりASI290MCは(サイズが同じASI290MMも)1mmあたり166組の細かさの明暗まで記録できるということになります。現在の撮影システムではカラーが1mmあたり147組の明暗線を、モノクロは1mmあたり126組の明暗線を解像できるので、ASI290は望遠鏡が結ぶ像の明暗をすべて記録できるということになります。
*イメージセンサーのナイキスト周波数Vn ≧ 望遠鏡の遮断空間周波数Vbであることが重要です。

〈ISS像の大きさ〉
 では次に今のシステム(D=300mm、f=3450mm、F=11.5)で撮影するとイメージセンサー上に写るISSの大きさはどれくらいか調べてみましょう。

 像の大きさを2y、焦点距離をf、対象天体の視半径ω、とすると y=f tanω の式が成り立ちます。400km上空のISSの視直径を60秒とすると視半径は30秒で、ω=30/3600=0.0083° となります。計算すると、y = 3450 tan0.0083 ≓ 0.499 となるので、2y=2×0.499 ≓1mm でイメージセンサー上では約1mmの大きさでISSが写っていることになります。

 実際の撮影画像で確かめてみましょう。
ASI290MM

 これを見るとたしかにセンサー上で約1mmの大きさに写っていることが分かります。
 カラーカメラの遮断空間周波数が1/147なので理論上は122m / 147 で、ISS上では83cmが解像の限界となります。モノクロカメラでは 122m / 126 で97cmが解像限界値です。

 もしASI290のナイキスト周波数を最大限活用できるとすると 122m / 166 =73cm のものまで写ることになります。単純に分解能で計算しても口径300mmの分解能は0.4″なのでISSが視直径60″で見えた場合は81cmまで解像できることになります。理論上は… 理論上は… 理論上は…

 そーなんです。悲しいことにこれらはすべて理論上のことで、実際のところは机上の空論なのです。
なぜなら、日本の上空にはジェット気流が流れているからです。トホホ…

〈日本におけるシーイングの平均値の目安(秒角)〉
・気流の悪いときのシーイング:2.5″  *2.5″=口径4.6cmの望遠鏡の分解能
・1年を通じて平均的なシーイング:1.5″  *1.5″=口径7.7cmの望遠鏡の分解能
・最高シーイング(年に数日):0.7″   *0.7″=口径16.5cmの望遠鏡の分解能
*ちなみにシーイング0.7″はマウナケア天文台の平均的なシーイングだそうです。うらやましい~

 なので、いくら大型望遠鏡を引っ張り出してきたとしてもシーイングが悪ければ口径5cmの望遠鏡で撮影したのと分解能上は同じですよ!…という結果になるということです。(_ _)

 むか~し、天文エキスパートのKさんが「日本ではせいぜい20cmまでだな~」とつぶやいていた意味がよーく分かりました。

〈結論〉
 デュアル拡大撮影システムではシーイングが 0″ になった時にISS上の83cmのモノまで解像することができる。 が、シーイングが2.5″まで悪化したときには解像度が5mまで低下する。

 うひょ~、ISSの居住棟の直径は約4.5mですからそれすらも解像しなくなるということですね~。こりゃキビシイわけだ~。しごくナットクです! ま、年間数日とはいえ好シーイングの日は毎年あるので、幸運の神様の前髪を掴みに行く勢いでチャレンジすることにしましょう。


 月でテスト撮影をしている様子… 最近ISSを撮れてないので… (^^ゞ

まだ梅雨入りもしていませんが、梅雨明けが待ち遠しい天気が仙台では続いています。