駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

忘却から想起へ

2011年11月17日 | 小考

     

 還暦まで生きた人間は五十年と言う時間定規を持っている。子供の頃は百年は遠い昔、千年は気の遠くなる昔に感じたのだが、五十年前を振り返ることが出来るようになると百年昔は爺さん婆さんの青春時代でやがて父母の生まれる頃だ。振り返れば、手が届く距離に感じる。

 還暦を過ぎると千年の昔も想像が可能な時間距離に感じる。千年は遠すぎるかも知れないが、百年二百年前の人が何を考えどのように暮らしていたのだろうと想像してみることは、この危うい時代に必須の精神活動と思う。そうした想像だけでなく、五十年前の記憶を辿ることでも大きな効果があろう。

 六十代は指導的立場にあって、知力体力も十分の人も多いはずだ。昔はという懐旧趣味ではなく、今を再評価し本当の豊かさを問うために、手の届く五十年百年前を想起することは、小人跋扈して不善を為す今を省み、恵まれた自由安楽を安逸に貪らないための最良の薬のような気がする。

 日本人は忘却によって変化に素早く適応し、上り坂の難局を乗り切ってきたが、下り坂の難局は歴史を想起することによって凌げる気がする。

 取りあえず婆さんの勿体ないを思い出している。

                                   Photo.R.Ogawa

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする