アメリカ人のティムさんから、日本語と仏教について学ぶ友人の勉強の手助けをしてほしい、とメールがありました。
この友人は、白隠慧鶴(はくいんえかく)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E9%9A%A0%E6%85%A7%E9%B6%B4という江戸中期の禅僧に興味を持っていて、彼が書いた、書や絵に興味を持っているということです。
今回彼女が知りたいというのは、白隠の『布袋烏賊図(布袋様が凧になっていて、小さな人達がこの凧を揚げている絵と詩)』のなかの俳句の漢字とひらがな。ティムさんはその絵と、本で見つけたというローマ字と英訳を貼り付けてきました。
Romaji:
Unu ga mama ni
yarunu ga ika no
inochi kana
English:
You can't just do
anything you want -
it's a squid's life
「ローマ字では『うぬがままに やるぬがいかの いのちかな』って書いてあるけど、『うぬ』って何?『やるぬ』というのは『やらぬ』の間違いだろうけど・・・『いか』というのは英訳ではsquidになっているから『イカ(烏賊)の命』?凧からタコ(蛸)っていうならわかるけど、なぜイカ?」
と、まずイカに絞って調べてみると、面白いことを発見。
『たこ(凧)上げ』というのは、明治初期まで関西地方では『いか(紙鳶)のぼり』と言っていたらしいのです。
と、ここまで調べたものの、私はギブアップして、〝歩く百科事典″こと、友人Tにティムさんのメールを転送。
流石物知りT、即座に、
「『己が儘に遣らぬが烏賊の命かな』かな。字から見てyarunuはyaranuの誤記でしょう。」
と返事をくれました。
(なお、『己』という文字は『おのれ』と読むとき自分のことを差しますが、これが『うぬ』となると、『自分』という意味のほかに、『きさま、てめえ、おまえ』という、べらんめえ口調の二人称として使われるということもあるようです。)
なるほど、それでこの俳句の英訳はこうなっているわけです。
You can't just do anything you want -
it's a squid's life
「なんでも思い通りにはできないよ。イカもすきにやるさ。」って感じでしょうか。
こうして友人Tの回答をティムさんに送り、一件落着。
外国人の友人達の質問、いつもながら新しい発見をさせてくれます。
さて、イカに話を戻せば、白隠は静岡生まれなので、彼が日常的に凧上げのことを『いかのぼり』と呼んでいたか、『たこ上げ』と呼んでいたかはわかりません。
が、この句に『たこ上げ』ではピンとこなかったのは確かでしょう。
Tにもお礼のメールをしながら、
「『たこ(凧)上げ』と『いか(紙鳶)のぼり』。
後者の方が自主性があってよいですね。
タコ(蛸)は地底に潜っていけど、イカ(烏賊)は水中を泳ぎまわったりするから、それぞれ末尾が「上げ」「昇り」と違うのか・・。
ま、私は『イカ』になります。」
と、追伸に入れておいたら、
「イカはいわばジェット噴射で遊泳するからね。
大きいものは海中では無敵の存在でしょう。」
と返事が。
うーん、無敵じゃなくてもよいんですけど。