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731部隊おぼえ書き⑦

2023-03-28 19:06:34 | Bibliomania
ジュネーブ条約で、毒ガス兵器に続き、残忍で非人道的であるがゆえに使用を禁止された生物兵器を、中国人捕虜などへの人体実験を重ねて開発した、戦争犯罪人たちの首謀者が陸軍軍医中将石井四郎である。戦争犯罪を裁く東京裁判の陰で、米軍と取引してデータや標本類と引き換えに訴追を免れ、ニュルンベルク裁判で死刑となったナチスドイツ軍医と対照的に戦後の日本を安穏と生きた彼ら。

石井四郎とは特異な人間だったのか? 郷土(千葉県成田空港に近い農村)の英雄であり、京都大学医学部を経て軍医として前例のない中将まで上り詰めた石井をめぐる多くの証言を、ジャーナリスト西浦扶甬子が収集し、オンライン講演会にて報告する(2月22日・抄録)


石井の父、石井桂②は幕末に千葉県山武郡で生まれ、養蚕の繭の仲買人として成功した資金を元に高利貸となり、焦げ付いた借り手から田畑を集めて千代田村の大地主になる。しかしさらなる事業拡大に失敗、学業優秀だった四男・四郎がヨーロッパ留学するための出費で家運はさらに傾き、桂は1933年87歳で死去。③は四郎の京都帝国大学時代。

①石井は家運の傾いた1932年に細菌戦部隊設立のため妻子や兄弟を満洲国ハルビンに呼び寄せ、新宿若松町の自宅には母千代(上田藩の御殿医の娘)と使用人を残すのみだったが、45年3月の東京大空襲の後、千代もハルビンに呼び寄せた。この写真はハルビンの石井邸の庭で、中央の石井の左側に母千代。左端の洋装の女たちは使用人とみられる。


④石井の親戚で同郷の萩原英夫。石井は自己顕示欲と防諜を兼ねてか、獣医の資格を持つ兄2人を731部隊で従事させたのを始め、千葉県の同郷の者を731部隊の直属や軍属に取り立てた。萩原の証言によれば、1938年に彼など20名が満洲へ渡った際に石井は大佐であったが(当時46歳)、42年に少将、45年に中将と、細菌戦部隊を率いた功績により出世し「初代の軍医大将になる」と豪語していたという。

⑤1943年14歳で731部隊の少年隊入隊(二期生)した小笠原昭。「石井四郎は本当にヒットラー以上に悪い。国際法を無視して細菌兵器を開発した。国際法で禁止するようなものだからやった方がいいという考え方だった。まだ元隊員には石井は戦の神様だから神社を建てて祀らにゃいかんということをいうのがおるんですからね」。


⑥朝枝繁春(元陸軍参謀)。敗戦間際には大本営参謀陸軍中佐としてソ連参戦を知り、天皇を守るため独断でハルビンに飛んで石井と会い、細菌戦に関するすべての証拠隠滅を指示した。建物を壊すため工兵隊を手配したり、満鉄総裁を通じて部隊員引揚の特別列車を手配させるなどした。自らは9月にソ連軍の捕虜となり抑留され1949年8月復員。「当時日本の人口は8000万だよ。ソ連は2憶7000万。広大なる国土を持ち油の産地で工業も発達しとる。関東軍の兵力でもって、ソ連が出てきたときに太刀打ちならない。1対15だよ。勝つ目途がないから、細菌戦でやろうと。一番いいのはペストの乾燥菌だ。これを培養して飛行機でばら撒く」「(中国でやっていたのは)石井中将の勝手なの。関東軍司令官の命令なく、関東軍防疫給水部という正式な名前、いい水をつくって飲ますという看板の下にやっておるのとまったく逆の細菌をばら撒くんだね。日本は中国人民に対して土下座で謝らなきゃいかん。絶対に悪い。日本人が今やっていることは詐欺だよ。対してヒトラーのドイツははるかに世界の信用を得とる。今日にいたるまで信用を得られていないのは、この期に及んで世界に向かって陳謝しておらん」。

⑦1958年8月、房友会(石井部隊関係者の戦友会)結成大会でくつろぐ石井四郎。石井は翌59年に喉頭がんのため死去(67歳)。がん闘病中にカトリックの洗礼を受けた。

石井が1928年にヨーロッパ留学したのは、25年にジュネーブ条約により生物兵器の使用禁止が決まった後で、しかし彼は20ヵ国にも及ぶ歴訪で各国の細菌学者・軍医に精力的に取材し、細菌戦の効果は未知数だがワクチンをはじめとする備えを怠ってはならないというのが議論の大勢であると知る。ワクチン研究がより危険な細菌の発見につながることも想定される。石井の父親譲りの事業欲と功名心は、これを湯水のごとく資金供給されるチャンスとみて、細菌兵器などの研究機関の設立計画を参謀本部に持ち込み、1932年の防研=特殊防疫研究所=731部隊などの母体、の設立を実現させる。石井らは最初から過大な、いつまで経っても達成できないような計画を立て、ヒト・モノ・カネをつぎ込んで暴走する。暴走を止めたのは敗戦という他律であり、占領軍参謀2部(G2)によって一種の司法取引が行われ、731部隊の所業が闇に葬られてしまったことから、この問題はなお尾を引いて日本の将来に暗雲を投げかけている─
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