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731部隊おぼえ書き④

2022-10-04 17:02:44 | Bibliomania
岡本晃明/京都帝大医学部の人骨収集と体質
細菌戦部隊・関東軍防疫給水部七三一部隊(以下731部隊)の実像を追う多くの人たちの努力によって、日本や米国、ロシアや中国に眠る一次資料が発見されてきた。しかし戦後70年以上が経過する中で、関係者の新証言を得ることが厳しくなっている。さまざまな分野で記憶の継承が叫ばれつつ、記録の散逸や遺品廃棄が進む。筆者は2017年に、731部隊に医学者たちを送り込んだ京都帝国大医学部が、広島の被爆者を解剖した標本を米軍に持ち去られたこと、アイヌ民族や沖縄の墓地で遺骨を収集したことを一連の流れとして取材し、京都新聞に連載「帝国の骨」として掲載した。違うテーマとして扱われる資料を突き合わせることで、幾つか新事実を浮き彫りにできた。

(中略)本稿では、731部隊長だった石井四郎・陸軍軍医中将(京都帝大医学部卒)の恩師であり、京都大学が今も保管している多数のアイヌ遺骨の発掘者でもある病理学教授清野謙次(1885~1955)を縦軸に、現代も未解決の遺骨収集問題、医療倫理に関係した京都帝大の人脈を、点描する。

清野謙次の教え子たちは医学者として栄達した。ある弟子は細菌部隊を創設し、ある弟子はハンセン病患者隔離施設で陸軍の軍事研究を行い、ハンセン病患者の骨格標本をつくった。またある弟子は被爆地で収集した胎児標本を、秘密裏にアメリカの軍事研究に提供した。日本統治下の広大な「外地」に研究対象を拡大し、遺骨を発掘した。清野自身が南樺太でアイヌ民族らの遺骨を、弟子たちは沖縄や奄美で、京大医学部の仲間が朝鮮や満州、台湾などで少数民族らの遺骨を多数収集し、人骨コレクションのネットワークを築いた。

(中略)清野謙次は京都帝大医学部を卒業し、病理学者として20代のドイツ留学中に生体染色研究で高い評価を得た。京都帝大に戻った30代の研究生活を、帝国日本が世界に勃興していく大正時代に送った。一方、各地で発掘を行い、多数の古人骨計測データを統計処理する当時としては斬新な手法で「津雲石器時代人はアイヌ人なりや」(1926) を発表、昭和の人類学界に颯爽と登場 した。文芸春秋など当時メジャーだった雑誌で、清野は多数の随筆を書いている。清野は古代に「原日本人」がおり、北方諸民族と混血したグループがアイヌ民族へ、本州などでは大陸から渡来した人と混血を通じ現代日本人へと枝分かれしたとの新説を唱えた。清野の「混血説」は、多民族が「皇民」として統合される時代に、「ルーツ」は同じとの言説を用意し、社会に歓迎された。

(中略)清野が樺太で遺骨を収集した1924(大正13) 年は、日本の南樺太領有(1905年)に伴い樺太アイヌ民族が9カ所に強制移住させられてから、約10年しか経過していない。強制移住政策でアイヌの村が廃村になったことを清野自身も書き留めている。京大が現在も保管している遺体は、発掘当時葬られて数年の遺体を含んでおり、墓地として機能していた蓋然性が高い。移住を強いられても、父母が眠る先祖代々の墓地を廃棄したわけではなかったと考える方が自然だろう。京都大学の2012年アイヌ遺骨報告書と清野の著作を照合すると、京大はアイヌの子どもの遺体と副葬品「明治44年印刷の日本製絵本」を今も保管している。カタカナで書かれた「花咲ぢい」の絵本である。樺太アイヌの人たちは当時、戸籍法の対象外であり、「土人」として管理され、北海道のアイヌ民族を統制した「旧土人法」とも異なる法的扱いを受けていた。

(中略)清野謙次の人類学上の師は、京都帝大解剖学第二講座教授だった足立文太郎という。江戸時代末の1865 (慶応元)年生まれ、東京帝国大(当時は医科大学)卒。足立は、清野謙次の父勇(大阪大学医学部の前身である大阪医学校校長)、東京帝大医学部教授の人類学者小金井良精、陸軍軍医総監まで昇進した森鴎外と同世代で、幕末に生まれ、明治時代にドイツ留学した近代日本医学草創期の学者だ。足立文太郎と小金井良精は、清野からみて人類学の老大家であり、清野父、足立、小金井の3人は親友だった。

SF作家の星新一の「祖父・小金井良精の記」にも足立が描かれている。アイヌ人骨を収集した祖父小金井良精の日記を用いており、「明治30年8月18日 足立文太郎氏、台湾蕃人を測定す」などと、足立がたびたび登場する。小金井良精はドイツ留学時代に軍医森鴎外と知り合い、鴎外の妹と結婚。森鴎外の長男(小金井にとっては甥)森於兎が台北帝国大解剖学教授に就 任した経緯など、明治期に留学した医学者が姻戚関係も含めていかに親密で、ごく少数のエリートで帝大のポストを占めていたかがうかがえる。

日本占領1年目の1946年、連合国軍総司令部(GHQ)民間情報教育局 (CIE)の世論調査課長が、人口政策と優生政策に関するレポートを作成している。ここに京都帝大名誉教授足立が、「まさにナチスと比すべき」日本の人種差別主義や民族主義、超国家主義を支え、広範な影響を与えた学者の代表例として引用されている。 ─(吉中丈志編/七三一部隊と大学/京都大学学術出版会2022)

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