レストランのメニューにある「ヘルシー」の文字に、女性は敏感だ。低カロリー低脂肪、コラーゲンや食物繊維が豊富などの能書き。それは健康への配慮に加え、遠慮なく食べても「『ヘルシー』だから」とのエクスキューズ、免罪符的な解釈もあるようだ。肉食女子にとって、そこを追求するなら馬肉がいちばん。不飽和脂肪酸の含有量が多く、カロリーは鶏肉並み。さらに鉄分やミネラル、グリコーゲンが豊富で貧血、便秘、冷え性にも効果が。「免罪符」のみならず体質改善にも役立つ、優れものの食肉といえる。
松本では古くから、馬肉は地元の人たち常食のローカルミートである。冬の寒さが厳しいため、体を温める効果が好まれたともいわれる。市街には専門店も多く、松本駅近くの「みよし」は入口すぐにある重厚な帳場が、歴史を物語る老舗だ。一品目の馬串は脂か澄んだスープのタテガミ、柔らかく肉汁たっぷりのカルビ、シャキシャキで臭みのないハツ、味がグッと濃いあばらと、各部位の個性がよく分かる。諏訪の酒「御湖鶴」は超辛口で、力強い肉の風味をスパッと切り替え、食欲が増す。
そして馬肉の真価を味わうならやはり、生肉とモツに限る。赤身ユッケは大振りに切った肉が柔らかく、あっさりと食べやすい。味噌とおろしリンゴをからめる、信州的味付けが地元テイストで、ニンニクチップをのせれば鼻息が荒くなる力強さか。長い腸をたぐりながら下処理することから、「おたぐり」と呼ばれる煮込みは、外はシャキシャキとやや弾力があり、内側はトロトロに柔らか。信州白味噌の甘さがよく染みており、こちらは荒ぶる気性が穏やかに落ち着く優しさである。
ちなみに松本の馬肉が全国区になったのは、昭和40年代の国鉄のキャンペーン「ディスカバージャパン」に端を発する観光ブームという。女性旅行者に馬刺しが注目され、女性誌の旅特集でも取り上げられるようになったとか。松本のヘルシーな馬肉料理に再び女性に注目してもらうには、かつての「アンノン族」的女子、今でいうなら「旅ガール」に期待したいところだ。(130614)