朝一番のバスで訪れた日本最東端の岬、納沙布岬からは、ロシアとの国境の穏やかな海上に浮かぶ平べったい島が2~3つほど見えた。北方領土の歯舞群島の貝殻島や水晶島で、隣国の領土が肉眼で見られるのは島国である日本では珍しい。近海はちょうど大平洋とオホーツク海の分かれ目で、周辺には好漁場も展開している。国境ならではの物々しい雰囲気が漂う海面の下は、激しい潮流と流氷が運ぶ栄養分が豊かな魚介の宝庫というのも何だか面白い。
周辺には展望台がある平和の塔や、北方領土関連の資料を展示する北方館などの見どころもあるが、まだ早朝でやっておらず、「花咲ガニ」「北海シマエビ」の看板を掲げた周辺の売店も閉まっている。海の眺めを堪能したらほかにすることもないので、折り返しのバスに乗って根室駅前に戻った。駅周辺もまだ閑散としているだろうと思ったら、駅前通りを右に入った路地で数軒の店が開店準備中の様子。カニを扱う店が10軒ほど並ぶ「駅前かに市場」と呼ばれる一画で、覗いて歩くと道内各地でおなじみの毛ガニ、タラバガニほか、根室特産の花咲ガニが目をひく。昨晩「釜丁」で食べたのはほぐし身だったので姿は分からなかったが、タラバガニよりやや小柄でトゲだらけのずんぐりしたカニだ。店のうちの1軒「斉藤商店」の店先には大柄なタラバガニと一緒に、様々な大きさの花咲ガニがずらりと並んでいる。
店頭を覗いていると店のおじさんが出てきたので今が旬ですか、と尋ねたら、9月から秋にかけてがおいしいとのこと。花咲ガニがとれるのは、浜中湾から根室にかけての太平洋側と、根室半島付近のオホーツク海に限られており、いわば根室を代表する地魚である。といっても主に水揚げされるのは根室漁港ではなく、郊外で半島南岸の花咲漁港。花咲半島に近い花咲湾が好漁場であることに加え、オホーツク側で漁をした漁船も根室港より近いので花咲港へ水揚げするという。根室と花咲は近くても天候が全然違うことがあり、根室が霧でも花咲は快晴のこともあるとか。それで花咲ガニという名前かと思ったら、それもあるがゆでると花が咲いたような色になるから、という説もあるとおじさん。ほら、と勧められて水槽を覗くと、活けの花咲ガニが数匹泳いでいる。どす黒いのと薄茶色でどちらも地味だが、ゆでると鮮やかな紅色の花が咲くという訳だ。
店頭に並ぶカニはいずれも、前日に水揚げされたのを浜ゆでしたもので、冷凍加工をしていないから味はほとんど落ちていないよ、とおじさんの言葉に力が入る。水揚げ港に近い地の利を生かして鮮度と味に定評があるこの市場のなかでも、この店は特に評判が高く、道外からの取り寄せの注文も多いという。毛ガニやタラバガニに比べて値段が手頃なので、少しおみやげに送ることにして値段交渉にかかる。1~2キロぐらいで1500~2000円、2キロを越えるとやや値段が上がるよう。「2、3キロになるのは珍しく、大柄のよりも1~2キロぐらいのが、味が濃くうまいよ」とのアドバイスに従い、2000円ちょっとの中型のを選んだ。すると「じゃあ、これもつけたら? 安くするよ」と、小柄なのが7~8匹ビニール袋に詰まって1200円のお得品も勧めてもらい、送料込み4000円ほどで10匹近いカニを買うことができた。温める場合はゆでると旨味が出てしまうので、電子レンジを使うように、と食べ方のアドバイスも頂いて店を後にした。
花咲ガニは根室でしか水揚げされないため、ほとんどが地元で消費されるそうで、北海道「三大ガニ」の中でも道内の各地で食べられる他の2つに比べてプレミアム品だ。本場の味を求めるなら、遠路はるばる根室まで行かなければならず、この遠さも値打ちを上げているのかも知れない。自分も東京から列車に揺られること一昼夜、最果ての国境の街で食べたカニの味はひとしお、といったところか。(2005年10月28日食記)
周辺には展望台がある平和の塔や、北方領土関連の資料を展示する北方館などの見どころもあるが、まだ早朝でやっておらず、「花咲ガニ」「北海シマエビ」の看板を掲げた周辺の売店も閉まっている。海の眺めを堪能したらほかにすることもないので、折り返しのバスに乗って根室駅前に戻った。駅周辺もまだ閑散としているだろうと思ったら、駅前通りを右に入った路地で数軒の店が開店準備中の様子。カニを扱う店が10軒ほど並ぶ「駅前かに市場」と呼ばれる一画で、覗いて歩くと道内各地でおなじみの毛ガニ、タラバガニほか、根室特産の花咲ガニが目をひく。昨晩「釜丁」で食べたのはほぐし身だったので姿は分からなかったが、タラバガニよりやや小柄でトゲだらけのずんぐりしたカニだ。店のうちの1軒「斉藤商店」の店先には大柄なタラバガニと一緒に、様々な大きさの花咲ガニがずらりと並んでいる。
店頭を覗いていると店のおじさんが出てきたので今が旬ですか、と尋ねたら、9月から秋にかけてがおいしいとのこと。花咲ガニがとれるのは、浜中湾から根室にかけての太平洋側と、根室半島付近のオホーツク海に限られており、いわば根室を代表する地魚である。といっても主に水揚げされるのは根室漁港ではなく、郊外で半島南岸の花咲漁港。花咲半島に近い花咲湾が好漁場であることに加え、オホーツク側で漁をした漁船も根室港より近いので花咲港へ水揚げするという。根室と花咲は近くても天候が全然違うことがあり、根室が霧でも花咲は快晴のこともあるとか。それで花咲ガニという名前かと思ったら、それもあるがゆでると花が咲いたような色になるから、という説もあるとおじさん。ほら、と勧められて水槽を覗くと、活けの花咲ガニが数匹泳いでいる。どす黒いのと薄茶色でどちらも地味だが、ゆでると鮮やかな紅色の花が咲くという訳だ。
店頭に並ぶカニはいずれも、前日に水揚げされたのを浜ゆでしたもので、冷凍加工をしていないから味はほとんど落ちていないよ、とおじさんの言葉に力が入る。水揚げ港に近い地の利を生かして鮮度と味に定評があるこの市場のなかでも、この店は特に評判が高く、道外からの取り寄せの注文も多いという。毛ガニやタラバガニに比べて値段が手頃なので、少しおみやげに送ることにして値段交渉にかかる。1~2キロぐらいで1500~2000円、2キロを越えるとやや値段が上がるよう。「2、3キロになるのは珍しく、大柄のよりも1~2キロぐらいのが、味が濃くうまいよ」とのアドバイスに従い、2000円ちょっとの中型のを選んだ。すると「じゃあ、これもつけたら? 安くするよ」と、小柄なのが7~8匹ビニール袋に詰まって1200円のお得品も勧めてもらい、送料込み4000円ほどで10匹近いカニを買うことができた。温める場合はゆでると旨味が出てしまうので、電子レンジを使うように、と食べ方のアドバイスも頂いて店を後にした。
花咲ガニは根室でしか水揚げされないため、ほとんどが地元で消費されるそうで、北海道「三大ガニ」の中でも道内の各地で食べられる他の2つに比べてプレミアム品だ。本場の味を求めるなら、遠路はるばる根室まで行かなければならず、この遠さも値打ちを上げているのかも知れない。自分も東京から列車に揺られること一昼夜、最果ての国境の街で食べたカニの味はひとしお、といったところか。(2005年10月28日食記)