ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん13…名物アンコウにタコ、カレイ 「地産地消」日立の実力派魚介を求めて

2005年11月29日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 上野から特急「スーパーひたち」でわずか2時間、大甕駅は茨城県日立市の南の玄関口にあたる。駅からクルマに乗って国道245号線に出ると、すぐ右手には日立製作所大甕工場の巨大な建物、そして左手には穏やかな太平洋が広がっているのが見えた。日立のこれまでを支え、今後の日立を担う風景が左右にそれぞれ見られるのが、実に象徴的に思えてしまう。

 日立市と聞いて多くの人が、町の各所に建つ日立や関連会社の事業所群を思い浮かべるだろう。古くから日立製作所の企業城下町として賑わっていただけに「工業の町」のイメージが強いが、茨城県北の太平洋に面し、アンコウをはじめヒラメやタコなど漁業の盛んな町であることは意外に知られていない。近年、日立製作所の事業所が相次いで海外へ移転したため、現在では工業中心から地場産品の活性化に取り組んでいるという。中でも特に力を入れているのが、日立市で水揚げされた魚介を中心とした「地産地消」。今回は地元の方の案内で、地元で評判の直売所や漁港での水揚げ風景、朝市などを訪れ、日立の魚の良さと地元への普及の取り組みについて学ぶこととなった。「学ぶ」というと堅苦しいが、ホントのところのお楽しみはおいしい地魚の食べまくりだ。アンコウをはじめ、この季節の常陸の魚介をしっかり舌で学んで? いくことにしよう。
 
 クルマは大甕駅から10分ほど国道294号線を走り、まずは直売所「日立おさかなセンター」へと立ち寄った。日立で水揚げされた魚介の直売はそもそも、かつて大漁で魚価が落ちたカツオやメジマグロを地元へ安く提供したことがルーツで、その流れをくんで朝市が数年開催された後、直売施設が設置されることになった。土曜の昼前というのに駐車場は結構埋まっており、多くが地元・水戸ナンバーである。ここで扱う魚介は直近の久慈港から直送しているため、那珂湊や大洗など県内のほかの直販所よりも地物の比率が高く、おかげで現在は訪れる人の3割が県内からの客。いわば地元の人が地物を選んで買うことができる「おらが町の魚屋さん」で、この施設ができてから地元で水揚げされた魚が、地元でそれまでの3倍も流通するようになったという。またメヒカリやドンコなど、それまで下魚だった魚種に値がつくことになり、結果として漁業者にとっても消費者にとってもメリットがあったということなのだろう。

 館内には10軒ほどの店が並び、鮮魚店に卸売業者などのほか、地元の漁師が経営する店も2軒ある。そのうちの1軒、組合長が経営する「住吉丸」を訪れてみると、電灯に照らされてツヤツヤ、ピカピカと、見るからに新鮮な魚が店頭からあふれんばかり。この直販所で扱う魚介が揚がる久慈漁港は、県内屈指の沖合底曳き網漁の拠点である。深さ250~300メートルを曳くため深海の海底近くの魚が漁獲され、県内の水揚げの3割を占めるアンコウをはじめ、周辺ではここでしか水揚げされないボタンエビやキンキ、ほかヤナギガレイ、ミズダコ、ツブ貝など、とれる魚種が豊富なのが特徴。この店も自船の底曳き網漁でとった魚が並び、ほとんどに「地物」と品札に書かれているのはすごい。地元で「赤次」と呼ばれる真っ赤で小型のキチジは5匹で1300円、ツブ貝やボタンエビはザルひと盛りで500円と、値段にも驚いてしまう。さらに驚くことにズワイガニや毛ガニも、北海道などからの取り寄せではなくれっきとした地物だ。ともにこの時期からの主要な漁獲で、ズワイガニは北陸のよりやや身の詰まりが悪いが1枚で2000~3000円と、北陸で買うよりゼロがひとつ少ない安さ。しかもメスガニは茨城で水揚げされた物が、シーズンで品不足の北陸へも出荷されるほど漁獲量があるそうである。

 店頭をざっとみてみると、季節柄かヒラメやカレイが並ぶのが目につく。ヒラメは茨城県の魚で「本ヒラメ」と表示され、ひと皿3匹で1000円。カレイは高級魚であるヤナギガレイのほか「沖ヤナギ」というのがあり、品札には地元の呼称「ヒレグロ」と書かれている。店のお姉さんによると久慈のほか、県北の平潟でも漁獲され「普通のヤナギガレイより沖でとれるの。値段もヤナギより安いからお得だよ」。中ぐらいのが5匹で300円は確かにお買い得だ。そしてその並びには、大柄のタコと小柄のがダラリと広がって休憩している。お姉さんによると大きいのは水ダコ、小さくて白っぽい方がヤナギダコとのこと。ミズダコは過去30年の間、日立市が県内で水揚げトップで、通年で水揚げが比較的安定している上に漁獲量が増加傾向と、まさに日立を代表する地魚である。そのため「日立市の魚」に制定され、地元では「サクラダコ」の愛称がつけられているとか。料理レシピ集や販売店料理店マップが作成されたり、「日立さくらまつり」で試食販売が行われるなど、日立の地産地消運動のひとつのシンボルになっているようである。

 これだけのいい魚を見せつけられたら、食べて買っていかない訳にはいかない。まずは2階の食事処「浜膳」で、刺身定食で昼ご飯とする。刺身は水揚げしてすぐなので身がしっとり、うまみがどれも個性的。歯ごたえコリコリで磯の香り鮮烈なツブ、脂がすっきりと雑味のないうまみのブリ、究極に淡泊で歯ごたえを楽しむタコほか、珍しいのは秋のサワラ。皮をあぶってあり、フカフカで柔らかな白身とカツオのたたきのような香ばしさが対照的だ。そして翌日改めて訪れた際に、住吉丸で宅配をお願いすることに。ボタンエビとホタテは生食で、ツブは水からゆでて沸騰してから10分と、食べ方を教わりつつ発送を頼んだら、次に目指すは名物のアンコウだ。店頭に3キロぐらいのが腹を上にして箱に入っているが、さばけっこないので迷わずパックの「アンコウ鍋セット」へ。いくつか並ぶ中から肝が大きく白身の多いのを選び、これもお姉さんに料理のポイントを聞くと「だしかミソを煮立てて沸騰してから、先に身を入れて野菜を入れるの。アンコウからだしが出るので、つゆの味は濃いめにしない方がいいわよ」などとご教授頂いた。「地産地消」の自慢の魚介を、せっかくだからおいしく頂ける料理法と合わせて持ち帰らせて頂くこととしよう。(2005年11月26日食記)