ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん18…洗練されたニューウェーブトンコツ 博多の名店・一風堂が横浜を席巻

2005年11月23日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 横浜という町は、ラーメン好きにとって実にありがたいところである。ラーメン大本山の新横浜ラーメン博物館を有し、話題の「家系」ご当地ラーメンがしっかり根付いている上、真っ黒なトンコツの「なんつっ亭」や若き天才が仕切る「中村屋」といった「御当人ラーメン」も豊富。最近は全国各地から地元の有名店の進出も見られ、まさに百花繚乱の様相だ。いろいろ選べるありがたみはあるが、人気店は行列がつきものでつい敬遠がち。気軽に行ける「いつもの店」の方が重宝するため、地元なのにかえって他所より新しい店の開拓が進まないものである。

 横浜駅東口の地下街「ポルタ」に、いつ通りかかっても店頭で順番を待つ客の姿を見かけるラーメン店がある。新横浜ラーメン博物館にも出店していることで知られる博多トンコツラーメンの雄「一風堂」だ。横浜駅近くで所用を済ましたついでに近くを通った際、平日の16時過ぎという中途半端な時間だったため店頭に人の姿がない。これは願ってもないチャンス、とありがたく待たずに店内へ入ると、「いらっしゃいませぇ~っ!」と、若いスタッフの元気な声が降りかかってきた。

 八分ほどの入りの客を何となく眺めているうち、女性がほとんどを占めるのに気づく。デパートの紙袋を傍らにいくつか置いた買い物客、ビジネスの合間らしいОLなど、ひとり客が目立つのも興味深い。この店は博多での創業時から「若い女性が気軽に入れる店」を意識しているだけあり、暗めの照明に大きくゆったりしたテーブルとシックな内装で、スタッフのユニフォームもしゃれている。ラーメン屋なのにずい分小ざっぱりした雰囲気なのが奏功しているのだろう。

 メニューによると2種類のスープのラーメンがベースになっており、それに「のせもの」と記された6種のトッピングを組み合わせる仕組みだ。トッピングがどれも魅力的で迷った結果、何と全部が入った「一風堂スペシャル」をドンと豪華にオーダー。テーブルに置かれた食べ放題の、もやしの胡麻油和えをつまんでいると大きな丼が運ばれてきた。チャーシューにネギ、半熟煮玉子、さらにのりに肉味噌と、たっぷりのトッピングは丼から盛り上がるほどである。

 こいつは食べ応えがあるな、と気合を入れてスープからすすると、サラリ、スッキリとした味にやや拍子抜け。トンコツ特有の濃厚な飲み応えと独特の香りが、ほとんどないのである。このスープは「赤丸新味」といい、原点回帰と新しい味への挑戦を意識して、創業10周年の時に開発された。各種野菜をベースにした香油とオリジナルの辛子味噌が味の秘訣とされ、さっぱりした中にコクと深みを出している。ちなみに創業時以来のスープは「白丸元味」と称され、トンコツを強力な火力で一昼夜かけてガンガン煮込んだ、あっさりと舌触りが柔らかな味わい。ともに豚のガラを部位によってふたつの鍋に分けて煮込み、それぞれのスープをお客に出す直前にブレンドして、味に複雑な旨味を引き出しているという。トンコツラーメンといえば、独特のくせと重たい食感が気になるものだが、ここのスープはかなり上品で洗練された仕上がりで、女性客が多い理由は店の雰囲気だけではないようだ。

 スープはあっさりしているものの、トッピングをつまんでいるとさすがに腹にたまってきた。特にどっさり入ったチャーシュー。刻んだのが麺の上のほか、すすると下にもいっぱい埋まっている。バラ肉をじっくり煮込み味が良くしみており、口のなかでほろり、じわっ。やや重い味わいを、九条ネギがさっぱりと打ち消してくれる。レンゲにたっぷりの辛肉味噌はスープに全部溶いてしまったが、さほど辛くなくかえってスープの味が引き立つ感じがする。そして博多ラーメンの麺は、固めの細麺なのが特徴。食事の時間も惜しいほど忙しい博多・長浜魚河岸で働く人向けに、ゆであがるのが早いよう考案されたのがルーツといわれ、ここの麺も極細でパキパキと固い。

 食べ進めてみると結構ボリュームがあったけれど、さっぱり目のスープと食べやすい細麺のおかげで何とか平らげられそうだ。ちなみに細麺はのびるのも早いため、1回の盛りを少なくして後から麺だけをお替りする、「替え玉」という独自のスタイルがある。ここのメニューにも「替え玉」があるが、今日のところはその必要はなさそう。お冷やがわりのルイボスティーを飲み干して店を出ると、店頭には2、3人ほど、早めに夕食をとる客の行列がすでにでき始めていた。(2005年10月13日食記)