ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん15<北海道編>…生ラムの煙が漂う「のざわ」で、札幌庶民派ジンギスカン

2005年11月19日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 根室からこの日も列車に長時間乗り続け、札幌には17時過ぎに到着。延々5時間以上列車に揺られたため、さすがに少々ばててしまった。旅も3日目、ここらでひとつスタミナのつく料理を食べて元気を出さなければいけない。元気の出る料理といえば肉料理、そして北海道で肉料理といえばジンギスカンだ。サッポロビール園のように大規模なビヤホールが人気だがこれはいわば観光客向け。ホテルを後にしてすすき野の裏路地を歩いていると、まるで赤提灯や炉端焼きといった風情の小ぢんまりしたジンギスカン店を見かけ、どこもサラリーマンなど地元の人でかなりの賑わいを見せている。

 お目当ての「生ラム炭火焼きのざわ」もそんな一軒で、まるで民家のような素朴な建物の扉をくぐり、もうもうと煙がたちこめる店内へ。ここは野沢さん一家でやっているアットホームな店で、フロアは若い兄さんとお姉さんがフル回転で接客している。カウンター席へ落ち着くと最初はお決まりらしく「生ラムですね」と勧められ、すぐに目の前の七輪の備長炭に火がおこされ、その上にジンギスカン用のドーム型の鍋が据えられた。あとは肉の登場を待つばかりである。

 北海道でジンギスカンが広まったのは、大正期に綿羊の飼育が盛んだったことに関係がある。当時から食用にと考案され、戦後の食糧難の時代に肉が安価だったため普及、そして昭和30年代に北海道独自の郷土料理として定着したといわれている。当時から花見や行事といったイベント時の定番料理だけに、確かにこの店内にも親子連れやグループなど地元の常連が多い様子。小奇麗で観光客が集まるビール園とは違った、庶民的雰囲気が漂っている。

 鍋が温まってきた頃に、お姉さんが肉の皿を運んできた。1人前630円は100グラムの肉と玉ネギ、ネギにコンニャク付きが珍しい。肉は注文ごとに手切りで、奥でおばさんがまな板に向かってていねいに切っている様子が見える。アドバイスに従って脂身を鍋にしっかり塗ってから、まずは肉と野菜をいくつかのせる。焼き加減を聞くと「好みですが、まだ赤いぐらいでもおいしいですよ」とのこと。特注品の鍋に渦のように入った切れ目のおかげで、炭火が肉に直に当たるため脂が落ち、焦げ目が程良くつく寸法だ。外にパリッとこげ目がついたところでひと切れ頂くと、一瞬生焼けかと思うほどジューシーな肉汁があふれ、臭みがなく旨味も強すぎずあっさりしている。一般的に羊肉は、生後1年未満の子羊「ラム」と2年以上の「マトン」があり、ジンギスカンには甘味があり柔らかなラムを使うのが主流。この店では脂が程良くのったオーストラリア産生ラムの肩ロースを使用しており、ふんわり柔らかく生でも食べられるほどとか。

 そしてジンギスカンに欠かせないのが、程良く酸味の効いたタレ。おかげで腹にたまった気がせずどんどん入る。ジンギスカンのタレは一般的に主に醤油をベースに、肉を柔らかくするリンゴやレモンなど酸味のある果物、臭みをとるニンニクやショウガを加えてある。ちなみに道内では地域によって、焼く前にタレに肉を漬け込む「味付けジンギスカン」と、焼いたあとに漬ける「生ジンギスカン」の2種のスタイルがあり、この店のように札幌は「生」が主流だとか。さらにお姉さんに勧められ、タレと一緒に薬味のニンニクと一味をつけて頂くと、2切れ、3切れと止まらない。ニンニクは肉の旨味がぐっと出てダイナマイト、一味唐辛子はたっぷりいくと爽やかな辛みが食欲をよりそそってくれる。

 ひとり焼肉はペースが早く、あっという間に生ラム2皿、3皿と追加だ。追加からは肉だけとなり、赤身が多くゴロゴロと厚手になる。やや長く焼いても柔らかく、まるでラムステーキのような味わいだ。さらにシメジとアスパラの焼き野菜にキムチ、そして焼肉にはやっぱり白いご飯が欲しくなる。野菜は脂がたまった鍋の淵に入れると焦げないそうで、甘味が際立ちまるで脂で素揚げにしたよう。タレと薬味につけた肉をご飯とガツガツ、合間にキムチをガバッ。焦げないように焼いてはのせ、のせては食べとピッチがどんどん早くなる。時折七輪から煙がバッと上がり、見渡すと店内が霞んで見える。

 最後は地元のスタイルにのっとって、残ったタレをご飯にかけてお茶漬け風にして締めくくった。店によっては熱いお茶を足して、スープにして飲むところもあるという。合計でラム肉を300グラム食べたけれどまだまだ食べられそうだな、と店を出ると、通りの向こうにきらびやかに光るすすき野のネオン街。すっかり取り戻した元気の使い道は食べ歩きか、はしご酒かそれとも…?(2005年10月29日食記)

※北海道編もいよいよ大詰め。明日の最終日は札幌新名物となった例のカレー、その前に札幌の「観光客御用達」市場も攻める…。あと2回!