カレーパンは、パン屋の店頭を飾るスタークラスの惣菜パンだ。販売トレイに盛られた、香ばし気なコートをした見た目は、ほかのしっとり系のパンとは一線を画した貫禄を感じさせる。トングが迷わず伸びていき、ひとつ、ついでにもうひとつ。レジで油物用の紙に包まれるのを見たら、もう家に帰るまで待てやしない。
帰路を歩きながらひとつだけ、とガサゴソとり出し、バクリといけば生地はカラリふっくり、そして中からルーがグジュッ。締まり目で具が多めなのは、お母さんの昨日のカレーを思わせる。さらに揚げたてのタイミングに出くわした日には、その食感は一新。カリカリクリスプな生地にホットなルーが、得も言われぬ好タッグを形成し、このひと時だけで一日が幸せに思えてしまう。
にしても、カレーパンはその素性が、実に不思議な食べ物だ。カレーといっても、本国インドには存在しない。パンとはいえ、ヨーロッパにも見られない。そもそも揚げた見た目と食感は、パンというよりはフライのようにも。いわば、カレーに揚げ物にパンが組み合わされた、日本人が好きなものが合体した洋食パン。明治期に生まれた先輩格のあんパンの流れをくむ、ハイブリッドアレンジな日本の食べ物なのである。
ホテルのカレーはうまい、との定説があるが、ホテルのカレーパンもやはりうまい。箱根富士屋ホテルのカレーパンは、メインダイニングのカレーをアレンジした、クラシックなスタイル。ぽってりしたパン生地の食べ応えと、スパイスがひとつひとつ際立ったルーには、まだ日本の食べ物になり切る前の、「洋食」なカレーパンが垣間見えた気がした。(130516)