茨城県と静岡県は、観光地として見た時に似たところがある。首都圏からの距離はどちらも、遠からず近すぎず。自然景観も史跡も、ほどほどの見どころが揃う。海洋性気候のため温暖で一次産業が盛んなので、魚も野菜もおいしい。このようにいいものをいっぱい持っているけれど、今ひとつPRし切れていないのは、少々歯がゆく見えることがある。暮らす上で恵まれた環境のおかげなのか、あまりあくせくしない気質も、どこか共通しているような。
優れた食材に恵まれているということは、素材そのままが一番おいしいことも意味する。そのせいか、両県とも当地に根付いた郷土料理が、意外にパッと出てこない。直感で挙がる味覚が、昼に滞在した水戸では梅にアンコウ鍋に納豆、宿泊する静岡ではお茶に釜揚げシラスにおでんと、確かに素材寄りだ。水戸は強行軍でローカル食を楽しむ時間がなく、新幹線で静岡駅に着いたらその足で、エキナカ食堂街のアスティにある「三久」へ。カツオ刺身にマグロ筋トロ串をアテに、焼酎を緑茶で割る「静岡割り」を爽やかにグッといけば、あとは静岡おでんでしっかり晩飯といきたい。
牛スジ、糸コン、卵など、濃口醤油の煮汁で真っ黒に染みたタネに、青海苔や削り節の粉の「ダシ粉」をかけ、かじって串をグイッ。見た目ほどしょっぱくなく、ダシ粉による日本人の好きな濃い魚味仕上げがうれしい。中でも練り物の食べ応えは抜群で、焼津や清水といった漁業基地を擁するだけに、これぞ水産の町のおでんの醍醐味。名物の黒はんぺんは鮮度のいいイワシが材料だから、素材の豊かさが生きたローカルごはんといえる。
そういえば、水戸も静岡も徳川家ゆかりの地。例えば弘道館と西山荘を訪ねてアンコウ鍋、駿府城に久能山を巡って静岡おでん、と、徳川ベタな旅プラスローカルごはんなんてのも、魅力的な素材の組み合わせで楽しそうだ。好奇心旺盛で学問に尽力した光圀公、件の句で忍耐強さが語られる家康公の気質に倣い、両地とももっと積極的かつ粘り強い、観光への取り組みをしていい気がする。