暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

脳海に沈む

2008-09-30 | -2008
大切なことが書いてある紙をわたしはいつもすぐになくしてしまう
知らないあいだにどこかへ置いてそのままにしてしまう
紙は人知れず(わたしのあずかり知らぬところで)風化して
大切なことも期限が切れて役立たずになる
大切なことを覚えていられないわたしの頭は最初からお飾りだ
だから紙にしたためていつでも見られるようにしていたはずだった
直接肌に刻みつけてしまえとののしられたこともある
だが刻みつける大切な道具もまたいつの間にかどこかへやってしまう
そして大切なことは肌に刻みつけてしまうこと、と刻まれないわたしの脳は
そのことを紙にしたためるので精一杯なのだ

いつもいつも疑問符ばかりを並べたてている
疑問符はいつだって何度も繰り返された古い情報だ
それでもその場でどうしても思い出せなくなる
いちど解決した疑問なのだということも忘れてしまう
なにが、なぜ、いつ、どこへ、どうやって、と
どちらかを選ぶのならばわたしはどちらともを選んできた
分岐される平行宇宙はいつだってすべてわたしのものだった
ちいさな箱庭にあった花はいつの間にか枯れてしまうことを知らなかった
だからわたしは骨の柔らかかった肢体をこわばらせ成長し人間になる
人間にできないことをしていたのならば それができなくなるだけだ
それだけならばよかったのかもしれない

光もなければ影もない
どちらかが成立しないならばそれはただがらんどうの闇が続くだけだ
いつだってわたしの頭はひどく重く首もうまく据わらない
だのに眼球の奥を叩いたらひどくむなしい反響音がただ響く
大切なことがなんだったのか大切なものがあったのか思い出せない
大切なことをわたしは知っていたのか持っていたのか望んでいたのか思い出せない
大切なことは事実なのか真実なのか虚偽であるのか虚構にすぎないのか思い出せない
大切なことにわたしはどのような姿勢であったのか思い出すことができない
なぜならいつも書いておいた紙をどこかへやってしまうから

2008-09-24 | 錯乱
何もほしくはないのなら
ゆっくり沈めばいいだけだ
行進して途切れる水路にも
きっと蛆は湧くだろう

別れを告げなければならない、ひと、寄り道を禁止され
揺れる草は鼻歌交じりに燃え盛る
わたしの目の前とは軸がない
だから草は燃えないを否定して炭となる

首筋にちいさな蛇の噛み痕
夢はすでに崖を降りようとしている
燃える野に酸素がないのならば
沈みゆく魚になればいい

だべつ

2008-09-21 | -2008
水を張った穴の中にはよどんだ塊が浮いている。
もともとひどい悪臭をはなっていたが、目で見ることでことさらに嫌悪した。
しかし決め手にはならず、おれは舌根を撫でる。
数度、横隔膜が痙攣する。どうしようもないきもちのわるさが胃袋を押し上げ、なぜだか肛門のあたりがむずむずとゆるんだ。
勝手に声をもらしながら、内臓に吸収される予定だったものがぬるりと食道をさかのぼってきた。
汚物にかさなるのはまた汚物だ。酸味のきいたどす黒い臭気にまた、えづく。指は口の中から出ない。
吐いても吐いても中にわだかまるそれは、毒素といっても間違いではなかった。
喉がひりつき、粘ついた涙がしたたり、おれの生み出したものに口づけるように首部が垂れる。
また指を口に入れたとき、酸味もあったがなぜか変に甘かった。

きみはまだちいさいのだから、きみは

2008-09-20 | -2008
上手く伝えられない幼稚なわたしの頭をひとつ撫で
見えない笑顔をくれたあのひとは優しかった
あのころのわたしでは優しい彼は背が高すぎて
顔もおぼろげにさえ思い出せない
また会いたいから覚えていたかったわけではなく
ただ彼と交わらない視線がもどかしかった

田園を眺めながらわたしは加速する
ひとひとり満足に歩みもできぬまま
少しつめたい手の彼に何も届いた気はしない
おぼろげな彼の顎の先から
冷たくぬるいしずくが落ちて
たった一滴の雨になりわたしの髪を濡らした
傷つくひとを知ることはできず
身勝手に自分ばかりが傷つくばかり
巡るさきはわたしの中からわたしの中へ
循環してばかみたいとあざけることも
たったひとりでなぐさめることも

彼に会いたいとは思わない
二度と会えないのはわかっているから
頭を撫でる手は何よりも大きく
少し曲がる肘は何よりも遠く
頭と頭の距離はそのままに
わたしはあのころのもどかしさを抱えたまま
頭を撫でる手を待っている

はかない彼もまた稚拙なひとだったことを
知れたころには彼はもうすべてを遠く離していた
涙の意味を知ることはない
ひょろりと高い彼の顔は
きちんとゆがんでいたのかも思い出せないのだから
わたしはいまだ成長を止めて
脳のまぼろしでも彼が頭を撫でてくれることをのぞんでいる

ノバディ

2008-09-19 | 心から
建物をつくる材料はそろい
あとは人手だけとなった
技能ではない、必要なのは
それでは何が足りないのか
集中すれば融通のきかない壁も
ひとつちいさなひびが入る
射る隙もない城壁はないが
建物をつくる材料はしつらえた
問題はだれかがこの素材でもって
槌をうち鋸をひき作り上げねばならない
必要なのは技能ではない
異様なほどに人は転がる
材料を揃えるのは一苦労だが
人は歩けば蹴躓くほど簡単に見つかる
だが人材はわからない
なにが足りずなにを正せば良いのか
目下、ひろがる平野には
くさった目玉がみなこちらを向いている
目下、ひろがる水面を覗けば
目玉すらない窟がこちらを睨む
何も住まない胸に聞こうが
ただむなしい反響がこだまする
すべての材料はそろった
あとは人手を揃えるだけだ

2008-09-12 | 
否定
否定
否定
肯定

「はい、そうです」
「ほんとうですか」
「いいえ、ちがいます」
「どちらなのでしょう」
「どちらでもありません」

おねむりなさい
ふかく、ふかく
おっぽをきられた
とかげはもう
あなたのもとへは
かえらないから

(ゆうらりと揺れる、
水面の上をぼくは眠り、
目覚めてつまさきで水をわたった。
霧のかかった石の森では、
ぽつぽつとぶらさがる骸骨が、
やわらかい風になでられてゆれていた。
すこしぬめる土を踏みしめて、
はだしであることがひどく恥ずかしかった。
歩けば歩くほど体は動かしづらくなり、
ぼくはなんだか眠くなり始めた。)

そうだよ
ううん、ちがうよ
こっくりこっくり
そうだよ
そうだね
みんなそうだ

仮死状態のたましいに
肉体を入れることはできない
できる
できる
できない

KLSK

2008-09-11 | つめたい
あなたは私が愛した最後の無言
むつごとを交わすことなく首を絞めて終わる
いっそ一人で達することができたならどれほど幸せでしょう
あなたに出会い私は私によって
たかく高いプライドを砕くことを知った
もっと罵ってもっと痛めつけて
気持ち良くもないということはひどく気持ちいいの
誰もいないということがどれほど苦しいか
それを享受する自分のどれほどいとおしいか
あなたは私に何も教えてくれなかった
だから私はすべてを自分で知ることができる
精一杯の虐待をありがとう
けれどあなたなんて人は最初から存在しないと
あなたはきっと微笑みながらささやくのでしょうね
無言を破るのはついにその時
私もずっと昔からあったことばをありったけ
あなたにぶつけてから破裂しようと思うの
頭の中でささやいたところで声が出ているわけじゃない
あなたはささやいたところでどこまでも無言でしかない
まるで喧嘩をおさめたいがために黙り続ける子供みたいに
あなたは私のように脳内で誰かを犯し殺し引きずりまわす
私にだけはわかっているから
ひとりじゃないことがわかって安心したでしょう
私はちっとも安心できていやしない
枕もとに銃を置いて眠るようなおばかさんではないけれど
私はちっとも安心できていやしない
自尊心を自分で砕くなんてまるで逆説みたいなおはなしね
あなたが私の首を絞めて声を発するときを待っているの
待ちに待った復讐はその時に始まってすぐに終わる

I!

2008-09-10 | つめたい
いいか、貴様らは
縁日屋台の型と同じだ
どれもひとしく細胞を持ち
社会のなかで生かされる
私そして貴様らは
どれもすべて人なのだ
それ以外に何が要る?
個人個人を選別しようと
躍起になるのがそもそも間違い
隣人に気付かれれば良い話
勝手な欲を分散し
公害を撒き散らしたところで
いいか、貴様らはしょせん
ただケモノのヒトでしかなく
目覚めるのも寝るのも自由だと約束されるかたわら
細胞にすべてを操られるのみ

誰がどうあがこうと
ヒトはヒト以外にはならない
それ以上にもそれ以下にも
ならばただ社会に内包され
細胞となり一生を終えるがいい
自律するのも当然の結果
貴様は貴様らにはなれないのだ

どうしょもない

2008-09-09 | つめたい
朝起きて日光を拒み
血の絡んだ痰を吐く
薔薇色に鮮やかな景色を見ることもなく
閉鎖した空気を循環させて
いやな臭いの尿を流す
今日こそはと思い立ち
ぼんやりと爪で頭を掻いたなら
挟まるのは雲脂ばかり
内臓が痛い

テレビの毒電波ならば
この部屋に届かぬ箇所はない