暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

漂泳生物

2023-08-23 | 暗い
まるで海のさなかにいるようです
水面でもなく底でもない
ちょうど光の届かなくなった海中で
ゆらゆら、ゆらゆら漂っている

肺にはまだいくらかの空気が残っていて
今なら水面にのぼれるはず
肺から空気をぜんぶ抜けば
底へ沈んでもゆけるはず

あかるい水面の向こうがわから
こちらに手が伸びています
溺れていると思ったのですね
なんと優しい指先でしょう

くらい水底の終着点から
こちらを呼ぶ声がします
ひとりぽっちと思ったのですね
なんと寂しがりな声でしょう

あなたがどちらかにいたのなら
きっとどちらかを選べていた
けれどもあなたはどこにもいない
どこへ行けども わたしのなかには

肺の空気は残りすくなく
海は暗さを増していきます
けれども目の前はちかちかと眩しく
上がっているのか 下がっているのか

だから目を閉じ 耳を鬱いで
わたしはわたしを隠しました
のぼっていく気泡の優しさに
寂しくなってしまわぬように