暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

冬の昼下がり

2015-11-27 | 錯乱
耳を塞いで
粒子と粒子の間を行く
感覚器の狂ったぼくには
街は錯視にすぎないのだ

なぜ耳を塞ぐのか、
それは凍えているからだ
(落ちそうなほどに)
冷えた電極が脳に響く

コンセントを貸してはくれないか
電気の神による指令がなければ
ぼくはぼくにさえ動かせない
乱視がいっそうひどくなる

削ぎ落ちた耳に電極をさし
ぼくは錯視の街を行く
粒子は絶えず振動を続ける
電波は絶えず波動を伝える

びりびりと冷える、流れてゆく
三半規管もぶち抜いて
壁も天井もぼくの足元
なぜ耳を塞ぐのか、

なぜ耳を塞ぐのか
錯視はいっそうひどくなり
ぼくは電極をさした血袋
電気の神からの指令が欲しい

隙間風

2015-11-24 | 暗い
窓際から忍び寄る冷たい風に
私の体の熱は奪われ
凍えているのだ、骨の髄から
たとえここが安寧の地でも
凍えている、足先から
爪の剥がれる音が聞こえる

(電気あんかをつけてくれたあのひと)
(熱いお湯に浸かり体を擦ってくれたあのひと)
(かの手のひらはわたしより冷たかったが)
(暖かな今のほうがよほど)

ハエのように手足を擦り
ミノムシのように体を隠し
前蛹のように身を縮こまらせ
血流がどくどくとしみわたる、末端まで
血流にじわじわとしのびよる、寒気
爪はとうに全て落ち
窓には白い筋がいくつも走る

循環し平均化された体温はいずれ
外気と同じように下がりゆく
(手のひらをつつんでくれたあのひと)
おのれの肩を抱いたところで
窓の蛇は私の頭を呑んでいる

花束

2015-11-21 | かなしい
わたしの隣にいるきみへ花束を贈ろう
きみの黒い髪によく映える
真っ白で小さな花束を

わたしの前で眠るきみへ花束を贈ろう
きみの白い肌を更に彩る
黄色やピンクの花束を

わたしの後ろに座るきみへ花束を贈ろう
きみに落ちる影を払うような
凛とした葉茎のついた花束を

今日もわたしは花束を贈る
あらゆるところにいるきみへ
くまなくわたしの想いが届くようにと
決して色あせぬわたしの決意を
飽きるほど繰り返し伝えたい

きみの溶けるせせらぎには花弁を散らし
きみの舞う空には綿毛を飛ばす
わたしの隣できみは嬉しそうにはにかみ
眠りから覚めるきみは呆れたように笑い
後ろでうずくまっているきみは泣き笑いをし
きみの沈む土には花壇を作った
きみの住まう心には今まで贈った花のすべてが

きみのことは
一分一秒たりとも忘れたことはない
いつでもきみを想っている
いつまでもきみを想っている
わたしはいくら呆れられたっていい
これできみへの想いが通じるのならば

きみへ、あらゆるきみへ花束を贈ろう
だから帰ってきてほしい
きみへ、ありとあらゆる花束を贈ろう
だから帰ってきてほしい
あらゆるところへ散ったきみは
わたしの隣にももちろんいる
それでもわたしにできることは
花束を贈ることだけで
帰ってきてほしかった
花束など要らないともしも言うのなら
帰ってきてほしかった

蟋蟀

2015-11-19 | -2014,2015
生首と生脚を集めるのが私の仕事です
最初こそせめて綺麗にと考えていましたが
仕事となってからは効率が第一になり
生きた彼らを見ても
首をもいでなおもがく姿を見ても
無残に引きちぎられた首と胴体を
しぶとく繋ぐ消化器官がずるりと出ても
いつしか特にこれといった感情らしき感情を
持たなくなっていきました
まず脚を折るのです
逃げないように
手だけを使い逃げる彼らの首をつかまえ
強引にねじ切ってしまう
思い切りさえあればかんたんなことで
最初は彼らの体にさえ
触れられないほどの罪悪感に苛まれ
終わったあとには手のひらが
冷たく震えることさえありましたが
いまはごくごくかんたんなこと
よく逃げる彼らがめんどうだなと
そう考えてはおのれに悪寒も走ります
最近はそれすら麻痺してしまいました
大義名分と慣れさえあれば
人は何だってこなせるようです
そうでなければ争いなど
どうやって生まれるというのでしょう
集めた首と脚を積み重ねた肉山から
蛆も大量に生まれていますが
消費された彼らの生命というものは
蛆に還元されるなどとは思えません
それらは濁った目をこちらへ向け
きっと呪っているのだろうと
およそ非科学的なことを考えます
けれども死体を食うことで
魂が還元されるなどと考えるよりはまだ
少なくともわたしの行為は罪深い
いくら慣れたといったところで
漏れでた消化器官を打ち捨てるなど
およそ許されるべきでもない
いくら彼らを人ではないと言い聞かせても
二本の脚に生首を載せて
私を食い尽くすであろうという妄想は
きっと消えることなどないのです

最近ひきこもりです

2015-11-17 | 錯乱
下水の臭いに吐きそうだ
胃の痙攣を舌で押し戻せば
よりいっそうの吐き気がやってくる
粘ついた唾液が下水に流れ
更に吐き気は増していく
おのれの体液が腐る錯覚は
おのれの死体を見る不快感に近い

私はまるで
停滞して腐敗した下水のようだ
同族嫌悪でまた加速
私の時計の針は反比例し
清流との乖離は日増しに強く
(きっと岩魚がここへ来たなら、
 数秒もたず死ぬのかもしれない)
淀んでいく私ははたして本当に
彼らと同じ水なのだろうか

下水の臭いに嘔吐する
出てくるのは胃酸ばかり
流れよ、流れよ、パイプの中で
腐敗物を溶かしてしまえ
いくらか綺麗になったところで
行き着く奈落は不浄の坩堝

口の端を手でぬぐい、
私は私に言い聞かせるのだ
いずれ水は循環すると
トラップに溜まる気の毒な腐敗水も
いずれは森の奥から湧き出てくると
狂った時計に視線を下ろし
乖離の差におそれおののく

いっそ粗大ゴミとしてでいい

2015-11-15 | -2014,2015
オレンジ色の薄あかりのなか
液晶はたしかに目に刺さる
カバー越しの柔らかな電球の投げかける光
濁った水面を仰ぐ魚のよう

肺のなかをひんやりつめたい水で満たし
ものいわぬ石のように沈んでいく
濁った水ではいくばくかののち
まっくらい水底にたどりつく

砂と泥が舞い上がるそこは
このベッドよりいくらか柔らかく
砂利でいささか居心地が悪いのだろう
あるはずのない切れ込みを探す

これは豆電球にすぎず
人は魚どころか猿にもなれず
ここは安寧のベッドの上
濁っていることだけは変わりない

私は魚になりたかった、
いっそ命のない石でもよかった、
汚濁する河でもかまわなかった、
水底に沈むなにものかになれるのなら

灯るアーチの電灯は、
湖底からのぞむ水面のようで、
これから生まれゆく兄弟の卵にも似ていた、
ただほろびるだけの肉体だというのに

憧憬は日に日に現実味をなくし、
汚濁した疲労が末端から痺れを生み出し、
現実味のない現実は汚濁をさらに加速させ、
歯車の歯が欠けていく ぼろぼろと

魚になりたい
石でもいい
水底から水面を見上げ
かれらの映像を楽しむのだ

馬鹿

2015-11-13 | 狂おしい
こうくんはこねこをひろいました。
こねこはちいさくて、ぼろぼろでした。
あんまりかわいくないな、こうくんはそうおもいましたが、
まわりにいたひとが「けががなおったら、こねこはきっとびじんになる。」というので、つれてかえることにしたのです。
こううんなことに、こねこのけがはひどくありませんでした。
いちにちがたつたび、こねこはかわいくなりました。
こうくんもせいいっぱいこねこをせわしました。
こねこはにんげんにひどいめにあわされたのでした。
なかなかこころをひらいてくれませんでしたが、じゅういさんも、
「じかんはかかるだろうけど、きっとしんじてくれるときがくる」といってくれたのです。
こうくんはそれをしんじて、

1)
まず、はやくげんきになってもらおう。
こうくんはこねこにごはんをあげます。
それもとっておきのフルコース。
なまハムとしゃきしゃきのたまねぎのサラダ。
ねこのスープに、ぎゅうにゅうをまぜたもの。
たっぷりソースをかけたぶあついステーキ。
しあげは、ココアをまぜたホイップクリーム。
こねこはよろこんでたべました。
そのあとすぐにしんでしまいました。
こうくんは、なにもしらなかったのです。
じゅういさんにひどくおこられました。
でもこうくんは、げんきになってほしかったのです。
こねこはしんでしまいました。

2)
いっしょうけんめいおせわをしました。
いっしゅうかん、にしゅうかん。いっかげつ。
こねこはひにひによくなりました。
それでも、こうくんにこころをひらいてくれません。
しんぼうづよく、しんぼうづよく。
えがおではなしかけるこうくんを、こねこがばかにしているようにもみえました。
こねこのためにたくさんのおかねをつかったのに。
まいにちまいにち、ごきげんをとっているのに。
にんげんをしんじてほしいのに、こねこはしんじてくれません。
だんだん、こうくんも、しんじられなくなってきました。
じゅういさんのことばは、ほんとうなのだろうか。
こねこはかなりおおきくなりました。それでもまだ、こうくんをいかくします。
それでも、まだ、こうくんはこねこをあいしてはいました。
なのに、こねこはこうくんをあいしてくれないのです。
あいしてくれるかどうかわからないのです。
そうして、あるひ、こねこがうっかりこうくんをひっかいてしまい、
たまたまふかくささったつめは、こうくんのうでをばっくりときりさきました。
しまった、とこねこがうごきをとめました。
こうくんはこねこをめったうちにしてころしてしまいました。
しまった、とこうくんがきづいたのは、もうこねこがしんでしまったあとでした。

いずれにしろこうくんはなきます。
こねこはいずれにしろたすかりませんでした。
どのみちこうくんは、じぶんのせいでこねこをころすのです。
かわいいこねこ。ほかのひとといればいきられたんだろうか。

こうくんはごじつ、ぼろぼろのこいぬをひろいました。
こんどこそは、とスペシャルメニューでげんきにさせます。
にんげんをしんじなくなったこいぬのこころのきずがなおることをしんじます。
もえるごみのひをまちながら。

いつ死ぬかな?

2015-11-12 | -2014,2015
明日にはきっと
明日には、
そうかみさまに願い続けた

だけれどわたしの見初めたかみさまは
善き神だなんて言わなかったのに
明日が経てば経つほどに
わたしは一心不乱で祈る

そうしてふと気がついたとき
わたしの築いてきたものは
祈りの時間、ただそれだけ
培った経験もなければ
あたたかい家族もなく
あるとすれば増えたしわ
不幸も日増しに積み重なった

わたしのかみさまは穏やかな微笑をうかべ
毎日わたしを見下ろしていた
きっと救ってくださる
これだけ祈っているのだから
かみさまはこんなにもお優しそうなのだから

これだけ心配しているのだからと
かつて同じことを言ったひとに
わたしは泥を投げつけたというのに
かみさまなら救けてくださると
かみさまはひとならざるものだからと

かみさまはわたしを救けてはくださらなかった
かみさまはひとならざるものだから
ひとなど1匹の虫にすぎず
そう、わたしがかつて
瓶の中に入れた蜂を餓死させたときのように、
かみさまはにやにやと笑っていただけ

けれどわたしは
瓶詰めなどではなかった
わたしの意志で祈りを捧げた
祈りだけを捧げてきた
学校をやめ、仕事をやめ、ひとづきあいをやめ
いっそ楽になりたいと思っても
絞首台さえも見えてこない
見えるのは
見えるのはあのかみさまの
かみさまの微笑だけ