暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

2009-01-31 | かなしい
私は小さく丸まって
呼ばれる時を待っている

喉に詰まった血の塊を
取る術などは知るはずもない

皮膚はぴいんと張り詰めて
充満していく/肉、肉、肉が

私は小さく丸まるけれど
呼ばれる時が来ることはなく

引きずり出された大きな籠は
喉の異物を溶かしはしない
張り詰めた肉は圧に負けて
私は丸まる/弾けぬようにと
呼び声を待つのは愚かなこと
私は丸まる/喉から弾け窒息するため
冷ややかな籠はまだ早かった

呼吸音

2009-01-30 | -2009
雨は
僕の
皮膚を
溶かしに来たよ。
ざあざあ鳴るから
おうちに逃げ込んで
雨が
止むのを待って
いるんだよ。

一緒に、いようね
いつまでも、って
誰もいない。
誰もいない。
雨は
すぐ
そばまで
きているのに。

こまかなしぶきが
少しずつ
僕を溶かすよ。
誰もいない。
塊になるなら、
赦されたい
のに。

ばたばた
落ちる
雨の音。
僕は無駄でも
逃げ込むだけ。
誰もいない。
誰もいない。

詩じゃない

2009-01-29 | 明るい
もう自覚するのはやめろ
不可視のお前を隠してしまえ
さらけ出して何になろうか
どうせ後悔するのは自分というのに

人は生きれば排泄物を撒き散らす
けれど死ねば死んだで撒き散らす
清らかに生きるなど無機物の特権なのだと知るがいい
みずからの汚物をわざわざ見遣れば何か変わるか
垢は続くが肉こそ腐る

不可知は不可知がよろしかろう
知れば人は後悔せずにはいられない
辛い生き方を選択したのは希望からか
それともくだらなくおやさしい罪悪感か
みずからの汚物は蓋をし流す
みながしているならば罪ではない
そう歌う声は聞こえるだろう

忘れろ
見るな
考えるな
人は人だが獣でもある
お前の望みは知っている
自覚をするな
私を箱にしまい込め

被加虐心

2009-01-28 | -2009
だれかどうか

わたしのめを

つぶしてください

なきさけびたいのです

ほうきするこうじつは

できるだけたにんであれば

それいじょうのさいわいは

ありません

きっとわたしのがらすたいは

くろくふはいしているでしょう

けれどどこだって

かまいやしません

わたしのなにかをだれか

つぶしてください

ただわたしは

なきさけびたいのです

Birthtime

2009-01-26 | つめたい
雛が孵った
みどりいろの卵を食い破って
鳴き声をあげる
存在をつなぎとめて
これから先細胞を
空間に見出す許可を
得るために

雛が孵った
真黒におおきな瞳をかくした
薄いまぶたをきつく閉じて
皮膚の色を通して見える
世界におそれをなす
次に目を開くときには
黒と白は判るだろう

祝福の音色も聞こえない
雛が孵って鳴き声をあげる
ただ生まれてきたという当然の先には
みずからで成長させる課を背負う
最初に卵の殻を食い破り
あたたかい粘膜に身をうずめ
ひとつの細胞から分裂し姿を得た
幾憶の双子たちから勝ち取った業は
特権と変化を遂げる
次には餌を飲み込み呼吸をし
さらに細胞を刻んで自らで立たねばならない
鳴く雛から涙がこぼれることはなく
ただ皺だらけのうすい皮膜を揺らして
誕生の苦痛に耐えている

シャラップ

2009-01-15 | あたたかい
私の居場所はないなんて
とんだ贅沢を言うものだわ
居場所がない、と感じられるほど
あなたは幸せを知っているのよ
あなたを許す場所なんて
星の数ほど存在するの
もしも居場所がなかったのなら
今ここにあなたはいない
居場所がないと錯覚するほど
あなたは幸せを知っているのよ
比較するのはおやめなさい
そこにいるのは事実だから
わめきたてる暇があるなら
他の場所をあたればいいわね

石化

2009-01-14 | 錯乱
内臓が生きるあかし
鼓動:巡り:栓
蓋をする蓋をもたない
軋む叫びを無視すれば
生きるために他を捨てる
細胞にすらならない死骸

「細胞を食べれば細胞になる」
「ならば岩を食え」
「何万年ほど生きるのだろう」
「肉を殺すのに疲れたのなら」
「お前は排泄物でも食らうがいい」
「嘔吐さえおこがましい」
「痩せ行き流れて岩となれ」

鼓動の心臓に蓋をする
筋肉の痙攣さえも
すこやかに塊となるためのフロイディテ
海を思い起こす
自我は風化を望んでいるか

2009-01-13 | 
歩くのでも、笑うのでも
食べるのでも、寝るときさえも
骨に刺さった長い釘は
忘れはすまいと痛みをよこす
すでに腐食し錆びた鉄片
細胞を病ませ孕ませて
骨ごと体を揺さぶりかける

ただの道具と割り切っていたそれ
それらの中のたった一本
無機のかけらは意志もないのに
今は骨を貫いている

血も流さず痛みは訴え
灼熱に耐えきれず横たわる
歩くのでも、笑うのでも
食べるのでも、寝るときさえも
永続する痛みに本能を失い
(あるいは長らえるための本能を保ち)
歩くのをやめ、笑いもせず
食べず飲まず、横たわろうと眠りはしない
彼らは横たわる姿を怠惰と笑う
次には病と四方八方手を尽くし
満足すればそれと見なす
釘は誰にも見つからないまま
肉の隙間であざ笑う
生き物のように体を揺らす

有機であろうが、生きていようが
私は私の意味をなくせば
ただのそれと見なされる
生きるばかりの屍とさえ評されない
釘は私の罰を残酷に笑う
人として踏みにじられながら
できるだけ苦しんで死ぬがいいと

焼け付く痛みが寒さに変われば
きっとお前も笑っていられなくなるだろう
私は苦し紛れに笑った

COMA

2009-01-11 | -2009
私は保身のために嘘をつく
そう自覚することで救われるふりをし
有害な粘液を土に残したまま
私は私を守るためだけに嘘をつく

優しいと有害は対義にならず
他の首に縄をかけながら
私は自分の首は手で絞める
ただ足を引けば周囲は苦しむ
ただ手を緩めれば私だけは楽になる
素敵な笑顔をあなたに捧げようと
それがたとえ本心であろうとも
私は保身のために
誰に対してでも嘘をつくことができる

偽りはまた真実にしかならない
私を内包する真実は私にしか伝わらず
逆に私もまた他のすべてが黒い箱に見える
ならば何もかも嘘をついていると
私は自分にあてはめて安心しながら嘘をつく
私の真実でなくともそれ以外にとってはあらゆるものが真実だ
ならば私もまた真実だと信じるだけでいい

私は保身のために嘘をつかない
信じる、信じられる、最初からその通り
本心は多重化し
すべてがおそらく真実になるだろう

目をそむけ嘘をつきながら
自分に優しい暗示をかける
誰のものでもない中心から
うっ血した人の口に伝う涎
痙攣し眠るのは私ではない
私は保身のために嘘をつく
血の足りない脳は少しずつ
委縮し細胞が消えていくが
首の手は簡単に緩められる

有害さの残滓は湯気となりたちのぼり
やはり遅効性の毒素としてはたらく
疑わない人間は愚かとしか言いようがない
私は嘘をつくと告白し
また嘘をつかないと主張し
そうして多重化する意識を確認しては
また足にかけた縄と粘液を増やしていく

何も書けない

2009-01-08 | -2009
わたしは猫です。
家猫なのです。
けれど同時に家畜でもあります。
愛玩する程度にしか価値をもらえない
けれどそんなことを知る由もなくただ生きる
制約があることやいずれ殺されることを予感している
けれどそんなことを知る由もなくただ生きる
ちっぽけで図太い家畜なのです。
人権を与えてくれるというのならば、
心優しいひとよ、もしもわたしが
ひとであると証明してくれるのであれば、
その前に隣人の証明と人権を与えてください。
わたしは猫、家猫、家畜、
人間様の与えられる権利などその程度でしかないのです。
それを自覚しているからこそ
たとえ人間様のなりをしていようがそう名乗っているのです。
わたしをどうかあなたと一緒にしないでください。
あなたがたの権利を与えられることで
わたしには不可能な義務を課せられることがこわいのです。
わたしには義務を果たせるだけの能力を持ちません。
人権を与えられるための最低限の義務を果たすことができません。
本来ならば家畜ですらないのです。
本来ならば愛玩すらいとわしいのです。
わたしは泥となってしまいたいほどに人間を忘れてゆきます。
わたしは猫です。家猫です。
けれど猫よりももっと悪いことにわたしはあくまでも人間です。
どうかわたしを泥にさせてください。
苦しむあの家畜は人の子です。
わたしの生きるすべての素材を隣人に与えてください。
けれどわたしはどうしたって人間、人間様のかたちをしているのです。
どうかわたしという生き物の
生き物たる証明をつぶし泥とさせてください。
わたしは家にもいらぬ畜生です。
親家族や友人とあつかましく笑う畜生です。