暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

文化的生存の滅び

2018-04-27 | つめたい
強き者なら刃を振るい
蹂躙するのを許される
刃をためらうな、弱き者よ
振るえないのはおまえの恥だ

淘汰されるが自然の摂理
この大地の摂理なのだ
(違う、それは論点が違う)
(こことあそこは環境も違う)

血を流せ、弱き者よ
刃を敵に振るえぬならば
いたずらに始まる児戯にさえ
深い傷を作るのならば

呪うな、妬むな、祝福するのだ
おまえはわたしのために死ね
弱きおまえの肉を糧に
強きわたしは生き残る

死にたくなければ刃を振るえ
敵へ、親へ、隣人へ
くだらぬ誇りを抱き続けるなら
わたしの土壌を肥やすがいい

不完全燃焼

2018-04-24 | 暗い
濡れた髪から雫が滴る
しかし体は冷えることはない

熱い、臓腑が焼けるようだ
肌は寒気がするほど乾いている

雪の融けた清流は
さぞや冷えることだろう

凍み入る水に浸してなお
肌は泡を噴き出している

清い水を食らう魚よ
そう不思議な顔をしないでおくれ

もはやすべては手遅れだ
雨降り止まぬ山を降り

焼けゆく臓腑は熱を増す
燻る煙を吐き出しながら

震えている、体すべてが
耳に障る火打ちの歯軋り

雫が肌に落ちるより先に
白い蒸気と成り果てる

そう不思議な顔をしないでおくれ
なまぬるい臓腑を持った人らよ

皮膚はうっすら黒ばんでいる
奥に小さな光を灯して

私という試験管の中で
一個の炭が燻っている

深い煙を吐き出したなら
胸は大きく膨らむだろう

雨はよくよく降り続く
私の煙に誘われるように

空想上の敵

2018-04-20 | -2018,2019
お酒を飲んでいる時
初めてそいつは現れた
次は煙草を吸った時
いつの間にかそいつがいた

そいつは私の脳に巣食っていて
忘我の境に住んでいる
だからといって仙人ではなく
もちろん高尚なやつでもない

そいつはずっと笑っている
酒に酔いつぶれた私を/煙草に眩む私を
忘我の淵に引っかかった私を
棒でつついて遊ぶ子のように

そいつは次々と問いかけてくる
この前はこう思ったんだろう
でもこの時は逆のことをしたね
なぜ、なぜ、どうしてだと

答えても答えてもそいつはずっと
矛盾を延々と突いては問う
にやにやと笑いながら
私はずっと答え続ける

そいつはついに何でもない時
ふと気を抜けばやって来るようになった
たとえばおまえの島があったとしよう
それが小さくなったのだと言って

また酒を飲むのか
また煙草を吸うのか
非難してはいないよ、ただ
ただ聞いているだけさ

なぜ非難していると思うのか
前に全てやめようとした罪悪感が
お前の中にあるからではないか
なぜ意志が弱いんだ

持って生まれたものだと言うなら
お前はなぜ矛盾を嫌うんだ
お前自身が矛盾だらけじゃないか
知っているとも、忘我の境は

お前の島の隣にある
境界線にいるお前、
なぜ辛いのだろうなぜ苦しいのだろう
それをわかっているだろう

そうだ、その境界線だ
わたしの海は満ちていて
お前の島は小指の先まで小さくなった
そう、お前が立っているそこのように

そいつは私の足元を指す
くだらない話だと私は思っていた
そのはずだったけれど
(疲れているんだ)

わかったかな、いや
最初からわかっているんだろう
何年も何年も苦しんでいるのは
その矛盾があるからだ

そいつはようやく消えてくれた
今日は湯船に使って眠ろう
私の鼻先のほんの少し先で
電車が勢いよく空気を潰した

だから私を褒めてくれ

2018-04-19 | -2018,2019
たとえば君の体に無数の虫がたかっていたとしよう。
君は虫が本能的に嫌いで、恐ろしいと考えているとしよう。
君はどうするだろうか。
まず泣き叫ぶことだろう。
けれど泣き叫ぶだけでは、虫は決して君の体を這うのをやめない。
そのままでは服の裾から入り込み、君の肌の隅々まで、ちくちくとした脚は探索する。
耳の穴に入り込んだり、飛び回ったりもする。
ならば君はそれを阻止したいと願う。
そうすると次は虫を払い落としにかかるはずだ。
泣いているだけでは解決しない。
誰も君を助けてはくれない。
だから君はその手で虫を払い、潰し、叩く。
耳に入り込んだ長い体を掴んでずるりと引き抜く。
大嫌いな虫と触れ合っているが、君は半狂乱だ。
嫌いなものとの接触ほど嫌なことはないし、虫は叩けば死んでしまう。
恒温動物のものとはかけ離れた色の体液や器官を飛び散らせ、外骨格がばらばらと破片になってまとわりつく。
そう、君の肌にだ。
けれども君は虫を殺さずにはおれない。
肌を、髪を、手のひらを血と臓物と肉片に塗り替えながら殺さずにはおれないんだ。
君はますます虫が嫌いになるだろう。

ではなぜ君は虫が嫌いなのだろうか。
あるいは周りが嫌っているから刷り込まれた可能性もある。
人間という哺乳類と節足動物にある遠い隔たりが嫌悪をもたらしているのかもしれない。
だがそんな「君でさえ知りえない」内因などどうでもいいんだ。
嫌いだから嫌い、そう、嫌いであることに理由はない。

私もそうなんだよ。
私もとてもとても嫌いでね。
理由なんかないさ、ただただ嫌いなんだ。
叩き潰せる君はどれだけ幸せだろうね。
半狂乱になるならなればいい、手の汚れだって君の生存本能の勲章だ。
私の嫌いなものは叩き潰せないんだ。
耳に入り込んでも、視界いっぱいに映っても、肌と肌が重なっても。
叩き潰してはいけないものらしいんだ。
こんなに不快で気持ち悪いと感じているのにね。
半狂乱になるならなればいい。
いっそ君も無抵抗を貫いて、脳まで全部食われてしまえばいいんだ。
そうすれば私は大助かりだからね。
嫌いなものは一つでも減ってほしい。
君もそう思うから、虫を潰したんだろう。

監禁

2018-04-18 | 狂おしい
君の小さな胸は大きく上下している
こちらから見てもわかるほど
緊張しているんだね
それとも怯えているのかな

力を抜いて
怖くなんてないんだ
空に飛ぶような楽しい時間が
待っているから

君は浴槽にうずくまっている
見なくともわかるさ
君のことはよく知っている
その通りだろう?

なんて可愛い予定調和の君
僕の頭はじんと痺れる
連れ出してあげよう、
この狭い狭い箱から

広い場所が怖いのかい
それともここが閉じきった部屋で
真っ暗で誰もいない
僕と君だけだから?

言ったじゃないか
君のことは何でもわかる

震えているね
とても愛おしい君よ
本当はずっと眺めていたいけれど
「停滞はすべての敵」だから

わかっているとも
君は僕を恐れている
だけれどそれが何の問題になるだろう
だって君と僕はここにいる

僕にとって君というものは
とても可愛いものなんだよ
わかってくれるとは思わない
逃げるのをやめるんだ

力を抜いて
怖くなんてないんだ
空を飛ぶような楽しい時間が
待っているから

僕は前に進まなくちゃならない
僕と君の関係性もそうさ
追いかけっこはおしまいだ
君は鬼にはなれないけどね

人混みが嫌い

2018-04-17 | 錯乱
私の袖に触れるなら
私の足を踏まないで
すれ違いざまに爪を振るう
こちらにそんな意図はなくても

ただただ息が詰まりそう
吸って吐いてを意識して
かさぶたから流れ出る空気を
感じながら

まるで人は弾幕のよう
ぶつかっても死ぬことはない
ただこちらがよろめいて
形が吹き飛んでしまうだけ

既に息は詰まっていた
喉を掻きむしっても穴はなく
望まない場所からひゅうひゅうと
中身は漏れ出ていくばかり

私の袖に触れるなら
私の足を踏まないで
あと一度の爪さえあれば
私は楽になれるだろうか

±

2018-04-12 | かなしい
一番星にお祈りをする
どうかささやかでもいい
幸せが訪れますようにと
願わくば私にかかわる
すべての人もそうあればと

祈りは果たして届けられ
私と私にかかわる人は
ささやかにささやかに幸せを得た
ご飯に出ればおいしい店に当たるとか
悪い人とのかかわりがなくなるとか
そういった幸せが

得られたプラスの均衡は
それ以外でつりあわされる

遠い知り合いが怪我をして
心ない人は殺されていき
やさしい動物は不利益の果てに
どうにも殺処分されねばならず
一番星は笑っている
願いは届けられたじゃないかと

治癒

2018-04-10 | 
ぼくはめざめる。

そこにはおねえちゃんがいた
むねにおはなのぶろーちをつけた
みたこともないかぞくでもない
やさしいおねえちゃんが。

かんごしさんでもないのに
おねえちゃんはうごけないぼくを
いっしょうけんめいせわしてくれた
いろんなはなしをしてくれた。

ぼくがまばたきをするだけで
ゆびをすこしうごかすだけで
うろんなことばをしゃべるだけで
とてもうれしそうにほめてくれた。

あたらしいおねえちゃんは
ぼくにはとてもたいせつだった
おとうさんもおかあさんも
どこかへいってしまったから。

ぼくはゆっくりと立つようになった
したもほんのすこし回るようになった
おねえちゃんにおれいをいうと
おねえちゃんはすこしないた。

おねえちゃんはなぜかきゅうに
こなくなった。

かんごしさんがいっていた
おねえちゃんはとてもすばらしい子で
しゃ会ふくしのためにじん力していて
はんざいしゃがきたときも
じぶんから人じちになって
そうしてばくはつにまきこまれた。

おねえちゃんは死んでしまった
ぼくのようなはんぱじゃなくて
かんぜんに死んでしまった。

ぼくはリはびリをつづけた
少しずついろんなことをおもいだした
少しずついろんなところをうごかした
前よりもっといろんなことが
出きるようになった。

ぼくははん人をころしたい
だっておねえちゃんがすきだったから
いなくなってしまうのは
さみしかったから。

む中であまりおぼえていないけれど
ぼくはうまくやった
ぼくはとても上手くやった
とても晴れやかなきもちだった。

びょういんの外へ散歩に出かける
よく晴れた春の一日
車いすをひいてもらいながら
若葉がそよぐさまを見ていた。

公えんの広場が遠くに見えた
ぼくは車いすを下りて
夢中でそこへかけて行った
おねえちゃんのつけていたブローチと
同じ花が見えたから。

それは大きな植え込みだった
花の形に整えられていた
おねえちゃんはそこにいた
僕は坂を駆け下りて
草と泥だらけになっていた
それでもぼくは出来る限り
走っていた。

おねえちゃんはここにいた
大きな大きな花となって
ぼくにまた会いに来てくれた
違う、今度はぼくが
ぼくが会いに行くんだ
おねえちゃんに会いに行くんだ
おねえちゃんがぼくに
何日も何日もそうしてくれたように。

自殺未遂

2018-04-10 | 
ぼくのくびをしめたのはおねえちゃん
ひゅうひゅういってもいくらないても
ずっとくびをしめていた。

ぼくはそれからよくわからなくなって
みんなはほとんどしんでいるといった
あんなにりはつなこだったのにと
きんじょのおばさんもないてくれた。

おねえちゃんはうまくやったので
かぞくはうまくいっていた
ただぼくはめをあけてこきゅうをする
なんでもないものになっただけ。

ぼくはがんばることにした
まずあたまのなかでいっぱいかんがえた
いっぱいかんがえると
のうみそのおくのほうがちりちりした。

だいぶかんがえられるようになって
はいはいでうごくようになった
でもこれはだれにもないしょ
ぼくはみじめでないていた。

ぼくはものをつくるのがすきだった
だからのうにでんきをさして
ものをうごかせるようにした
ぼくのてあしができた。

しんとしずかなまよなかに
ぼくはけっこうをすることにした
おねえちゃんはさいごには
ぼくをころすつもりだったから
おねえちゃんのくびをしめた。

おねえちゃんはしんでしまった
ぼくのようにすこしもいきてはいない
かんぜんにしんでしまった。

ぼくはてあしをつかって
なわをこていして
しぬことにした。

ぼくをころしたのはおねえちゃんです
おねえちゃんをころしたのはぼくです
ぼくはいきているとはいえないから
しにます

てがみをかいた。

くびがひゅうひゅうなって
いきがひゅうひゅうなって
とてもくるしかった
だけれどぼくはまんぞくしていた
みじめさもすこしははれていた
だけれどのうのでんきしんごうが
とまりかけるとぼくのてあしは
ぱたりとおちた。

不幸せに酔う

2018-04-07 | 暗い
何も持っていないことは
けして不幸なんかじゃない
新たに持つことができるんだ、
これからを見据えればいいんだと
僕は毎日毎夜祈りを捧げる

その身に燃える静かな炎も
(ああ、なんて幸せそう)
深く沈んだ水底の石も
(心臓が早鐘を打っている)
ざわめく樹々の葉の音も
(君は高い空を知っている鳥)
淀んだ空気を汚す泥も
(僕にはそこがお似合いかもしれない)

持っている、誰しもが、
かけがえのないものを持っていて
僕はこの身ひとつきり
大嫌いな歌を歌って
すぐに息を乱すような

祈りは神様に届いているかな
或いは誰かに届いているかな
窓枠に手をかけて空を見つめる、
そんな夢はもう終わった
柔い身体はそれでも少しずつ
少しずつ枝を伸ばしている
声さえ失えば僕は
何を持っていると言えるだろう