暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

わたしだけのかわいいことり

2011-06-24 | -2011
僕たちはみんな最初に鳥をもらう
小さくてピイピイ鳴いているかわいい小鳥
それをかごにしまっておいて
いつだって一緒に連れて歩くんだ

みんな名前をつけていたけれど
僕は名前をつけなかった
小鳥はちっともかわいくなんかなくて
羽を切られなければすぐに飛んでいってしまうし
指を出せば噛まれてしまう
だから僕は名前をつけなかった

かわいいかわいい僕の小鳥
君はちっともかわいくなかったから
他の小鳥はきれいに歌ってえさをもらうのに
僕のだけちっとも鳴かなかった
木の実をえぐる鋭いくちばしで
覗き込む僕の目さえ抉ろうとした
大人は危険だと言って取り上げようとしたけれど
僕は知っていたよ
羽を切られた後にはいつだって
とてもとても悲しそうに歌っていたこと

だから僕は小鳥を肩に乗せ
飛び立つなら飛びたてと言ってみたんだ
けれど小鳥は僕の肩で
うずくまって震えるだけだ
君も結局かごの鳥で
切られた羽を幸せに思っているのかな

だから僕は小鳥を肩に乗せ
いつだって一緒に連れ歩いた
ばかなみんなはそれをまねして
小鳥がたくさん死んでしまった
お利口さんのぼくの鳥だけ
震えていても生き残った
ぼくは、人ってなんてみにくいのかなあと
こっそり震えていたんだよ

次の次のその次も
羽を切らずに生やしてあげる
すっかり飛び方を忘れていても
長い翼に嬉しそう
僕はそのまま肩に乗せた
いつしか小鳥の震えは止んでいた

そうしてその日が訪れたんだ
小鳥は僕の肩を蹴り
翼を広げて飛び立った
やっとかごから放されたと
やっと自由を得られたのだと
喜び勇んで歌いながら
何度も廻って飛んでいた
僕が自分の愚かさに
気づき始める頃のことだ

かごの鳥は不幸じゃない
生まれたことが不幸であっても
決して不幸なんかじゃない
だって媚びれば生きられる
毎日笑っておねだりの芸を見せて
餌がやってくるのを待っている
なんて贅沢な暮らしだろう

外の世界はとても辛い
やさしいかごはもうないよ
自分で捨ててしまったのだから

小鳥のかごは昔に捨てた
なら僕のかごはどこへやったろう
僕は今新しいかごに鳥を入れた
僕のようにばかで愚かじゃない鳥を
そいつは精一杯きれいな声で
えさがほしいとせがんでくる
助けを求めに窓の外では
小鳥がひっそり死んでいた

かなしいでいっぱい

2011-06-07 | -2011
つま先でずっと立っていたの
少しでも大きく見えるように
そうしたら爪が割れてしまって
足先が赤黒くなってしまって
いつもいつも血を流しているの
大人になんてなりたくないって
友達にはそう言うわ
ほんとうのことを言わないのが
大人だって教わったから
ちっともわからないのにコーヒーを飲んで
おとうさんの残したビールをちょっとだけ舐めて
タバコを買いに入って断られて
夜更かしをしようとしてつい寝てしまって
それでも毎日は過ぎていったの
わたしはどの道大人になるのに
どうしてもすぐに大人になりたかったの
友達はわたしのことを大人っぽいって言うけれど
私はぜんぜん大人なんかじゃない
背だってちっとも伸びないし
にきびがずっと減らないし
車にだって乗れやしないわ
お金はおかあさんからもらってる
そんなのとっても恥ずかしい
だから大人になりたかったの
すぐにでも大人になりたかったの
そうして毎日は過ぎていって
気がついたらわたしは大人になっていたの
だけれどちっとも大人じゃないの
焦げくさいコーヒーなんて嫌いだし
お酒はぜんぜん気持ちよくならない
タバコもすっかり忘れてしまった
車はやっぱり乗りたくないし
お金だって貯まらない
こんなのぜんぜん大人じゃない
わたしは大人になりたかったの
わたしの前で笑うあの人たちになりたかったの
決して泣きたかったわけじゃない
だけれどちょっぴり
子供に戻りたいとも思うのよ

つめたい臓器

2011-06-06 | -2011
消しゴムがずいぶんと磨り減ってしまった
外から削れていくはずが
内側から内側から削れていった
まだ四肢は残っている、
まだ内臓も動いている、
なくなってしまったものはもう思い出せない

ずいぶんと磨り減ってしまった
神経が悲鳴をあげることもなくなった
痛いと感じるものはなんだったのか
肌に触れると指先からしか反応はなく
いびつな曲線を撫でると知らない場所がひくりと震える
なくなってしまったのだからもう思い出せない

許すたびに一つ失った
許可を得るたび
一つずつ欲しいものはなくなって
だけれど何をも許さなくなったとしたら
何もかも得られなくなることもわかっている
なくなることがないのなら思い出すこともない

一つずつ、消しゴムを使って
丹念に丹念に消していく
新たな線を書き足す前に
丹念に丹念に消していく
だから何も得られるわけもないのに
私は見返りを求めておのれを削る

書き足すための鉛筆を持たず
いいよと言えば文字を消し
肉体に皮膚が張っただけの肉人形へ変わりつつある
それでも私はまだ笑えるのだ
内側のどこかで反響が聞こえても
それでも私はまだ

内臓の稼動音を聞いている
つめたい臓器のうごめきを
消しゴムはずいぶんと磨り減ってしまった
五体満足のその先が見えず
私こそが許されたいと願っている
なくなったものさえ思い出せないのに

ふつう

2011-06-01 | -2011
時々
目の前の世界が見えなくなる
知らない声が響いてくる
自分の体臭をひどく気に病む
起き上がるのさえ苦痛になる

たまにそうなるだけで
無理をすればいつだって
日常を送ることができる
かけがえのない日常が

時々
気が狂いそうになる
たったそれだけを言えばいい
泣かなくても伝わることば
だけど決して届かないことば
気が狂いそうになる
気が狂いそうになる
気が狂ったのかと疑う
気でも狂いたいと願う

境界線にやはり私は立つ
どちら側に属するべきか
選ぶこともできないまま
無理をすれば日常は送れる
それでもたまに気を狂わせ
絶対に戻ってくる平穏におののく

理解されない理解されないと
言いながら今日も境界線
とても寂しい
いつだって孤独
ひとをあいせないのだから

時々
目の前の世界を忘れてしまう
目先の快楽に身を委ねてしまう
その外側で私が私を見つめ
いちばん内側の私は血を吹き出しのたうち回って悲鳴をあげながら
それでももう何もしなくていいんだよと優しい死刑宣告が下されるのを
心待ちにしている

そう
一時の気の迷い
だけど私はいつだって境界線の上
明日は掃除もできるかもしれない
明後日は腕を噛んでいるかもしれない
明々後日は友達と遊んでいるかも
その次の日は元気なのに仕事を休み
その次の日は叫んで叫んで叫んで
また次の日は孤独をわきまえながら
そして次の日には元通り
その繰り返し
平穏もかりそめならきちがいもかりそめ
涙を流す前に言えばいい
私は中途半端なきちがいですと
時々気が狂いそうになるけれど
私はとても健やかです と