暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

善良の矛

2023-07-13 | つめたい
空から光が差し込んだ
雲間のほんのちいさな切れ目から
覗く光は浅ましい
いくら隠れようともそれは必ずついて回る
こちらが望まないにもかかわらず
ただしき光を天より高く振りかざすのだ
お前のつくる影とも知らずに

去勢の遺伝子

2023-03-29 | つめたい
私の可愛い可愛い蜥蜴は
澄んだ目をした綺麗な子だった
産まれてすぐに流行病で
呆気なく死んでしまったわ

とてもとても悲しかった
それから薬を作ったの
どんな病にも負けない薬を
二匹目の蜥蜴は百年生きた

私の可愛い可愛い蜥蜴は
長い指をした綺麗な子だった
産まれてしばらく元気だったけど
大きな馬に踏み潰されたわ

とてもとても苦しかった
だから箱庭を作ったの
危険なものは全部外へ追いやって
四匹目の蜥蜴は百匹産んだ

弱い子もみんなすくい取った
病も怪我もいなくなったわ
本当は生まれてすぐ死ぬはずの運命も
全部ねじ曲げられる蜥蜴の箱庭

今や八十億の子供たちが生きているの
どれもかけがえのない命だから
みんな百歳まで生きているわ
末永く幸せに暮らしているわ

そうしてみんな幸せになって
弱い子さえも子供を百匹産んでいった
強い子と弱い子が混じりあって
出来た子は子供を五十匹産んだ

もちろんどれも生きているわ
百億の子がひしめいているわ
たとえ一匹も子を成せなくたって
たとえ最初の子とかけ離れた姿でも

みんなが生きられる蜥蜴の箱庭
たとえ滅びに向かうとしても
みんなが生きられる蜥蜴の楽園
次は百足にしようかしら

言葉通りです。

2022-10-21 | つめたい
新しい一日が始まる
お気に入りの紅茶をじっくりと淹れて
カーテンを開ければ若い青空
ミュージックはゆったりとしたスローテンポで
こんがり焼いたトーストを食べる

何気ない日常を丁寧に
私の世界を平和で満たす
ウェアラブルデバイスをチェックしたなら
何時間もかけて選んだ
ランニングシューズに履き替えて
アクティビティに出かけよう

一日がやって来るたびに
生まれ変わったつもりで過ごす
気持ちをざわつかせるラジオはオフ
数百年前のナンバーを流そう
心を乱す映像はオフ
爽やかなグリーンバックを映し出そう

目を開けて
世界は新しく生まれ変わる
目を閉じて
世界は新しく生まれ変わる
目を開けて
私は前よりもっと素敵に
目を閉じて
私は前よりもっと素敵に

変わらず見える丁寧な暮らし
過去よりいちばん若い今を生きる
目を閉じても開いても
若い青空はいつも四角い窓の向こう

不合理な合理性

2022-10-02 | つめたい
ここにごみがある
人間が社会的生活を営むにあたり
必然的に発生するごみだ
生物とは廃棄物を生産する
廃棄物とは本来還元可能な物質だ
しかるにこのごみも何らかの手段により
還元、分解が理論上可能でもある
しかしながら還元するための労力は有限であり
分解者の有する分解能力を
人間の社会生活は上回ってしまっている
わたしはこれをごみと呼ぶ
たとえ自然の分解者が還元可能な
有機化合物で生成されていようとも

人間が社会的生活を営むにあたり
必然的に発生したごみくずだ
生物として累代的に活動した結果
遺伝的に、あるいは環境的に
あるいはその双方の要因により発生したごみだ
人はこれを捨てられぬと保管した
その結果ごみくずは蔓延した
どうしたら捨てられると思う?
整然と並べられたごみくずなら
廃棄してもらえるのか
路地裏に不法投棄したなら
誰かが有効活用するかもしれない
しかしわたしはこのごみを
確実に処分してしまいたい
たとえ土が腐り落ちても
いずれ分解は完了される

今そうするべきだと思わないか?
このごみくずは大量に溢れている
恐らくきみたちがそれと認識しない間に
ここは廃棄物に埋め尽くされている
種の総称であるヒトを前に
人格、感情、倫理は無益と言うよりない
必要ならば整然と並べてみせよう
良心の呵責に苛まれるのなら
あらかじめ動かぬようにしておこう
並べたごみくずが溢れても
これは未来への投資となる
だから捨ててはくれないだろうか
列の末端にわたしは横たわっておくから

だって醜いもの

2021-10-25 | つめたい
誰にだってなりたくない
誰でもない何かでいたい
路傍の小石にでもなって
人知れず風化していたい

今日も人波はさざめいて
右に、左に、右に、左に
心許なくゆらゆら揺れる
風もないのに揺れている

ぼんやり上げた眼差しに
映らぬ誰かでいてほしい
少しでも揺らがないよう
じっと耐えしのんでいる

おおきな生き物の細胞に
なるくらいならわたしは
小石になりたい、路傍の
変哲もない石くれがいい

クソみてえなムードだな

2021-09-03 | つめたい
ああ今日も素晴らしき生活
基本的人権を謳いながら悪しき人を殺し
善き者だけで暮らしていきましょう
差別なんてもってのほか

差別する者は人にあらず
殺してしまおう、社会的に、精神的に、
完膚なきまで
電子の海は今日もあかるく燃えています

女の非力さを訴えるそばで美しい女を刺し殺し
可愛い動物を愛でて自立の脚をもぎましょう
無力なのはぜんぶぜんぶ国が悪い
わたしはひとつも悪くない

そう悪いのは蔑み貶め嘲る人々
ああ今日も素晴らしき一日
声ばかり大きな魔王は魑魅魍魎のごとく
次から次から生えてきます

わたしはしあわせです
わたしはしあわせです
わたしはしあわせです
わたしはしあわせです

不満などひとつもありません
だって不満をこぼしたのなら
明日はここが燃え盛るから
善くありましょう、善くありましょう

だから今日も素晴らしき世界
みんな笑顔で罵詈雑言
一日一殺気に食わなければ踏みにじれ
あなたの右は私の左

液状化

2020-06-24 | つめたい
ああなんて美しい景色だろう
呟いた足元では
鯢が腹を膨らましている
足跡、足跡、いくつもの
草木は芽吹くことを諦めた
そうだね、とても美しい
一本の紐があるだけで
星から落ちた天の雫を
いくつまで数えていられるだろう
足跡、足跡、途絶えた頃には
ぼくらがあなたの足元にいる

電車はクソ

2019-11-05 | つめたい
塵と芥が喚いておるわい
耳を貸すなど無為なこと
あれらをさも生きているなど
思う輩は阿呆なものよ

蟹の泡とも言うてやろうか
多少なりとは心地よかろう
いくら言葉に尽くそうとても
そこらでびゅうびゅう舞っておるよの

声などちいとも聞こえやせんよ
鳴っておるのは風の音じゃろ
足音などもひとつもなかろう
響いておるのは塵の重みじゃ

しかし邪魔っけのする芥じゃ
どがあに押してもびくともせん
そうと思いやわさわさ散って
まるで雲じゃの蜘蛛の子じゃの

塵も芥もなしてこがいに
開けたところでぷかぷかしとる
どうでもええよのどうだってええ
あれらは生きちゃあおらんのじゃ

愛とは与えるもの

2019-09-02 | つめたい
私の穴を埋めてくれ
大きく開いたこの風穴を
元のように綺麗さっぱり
一切の隙間もなしに埋めてくれ

ひゅうひゅう抜ける穴を見て
あなたは小さな人形をくれた
その心臓は私の穴へ
宛てがうのには小さすぎた

腕いっぱいのお菓子をくれた
隙間なく詰めたそのはしから
砂糖はぼろぼろ崩れて落ちた
トンネルは未だ続いている

あなたはあなた
たとえどんな姿でも
優しい腕で抱きしめてくれた
空洞をまるで避けるように

代わりのものなどありはしない
詰めたはしからぽろぽろ落ちて
風が体を突き抜ける
あなたを嘲笑うかのように

「心臓を肺を失くしたのなら、
人は生きてはゆけぬでしょう。
代わりのものなどありはしない、
元の臓腑を戻したとしても。」

私の穴を埋めてくれ
私の肉を返してくれ
私の肉を元の通りに
私の穴を返してくれ

ひゅうひゅう抜ける穴を見て
こぼれて落ちる菓子を見て
その腕でどうかこれに触れて
あなたが後ろに持っている

私の肉を返しておくれ
他のものなど要らないから
あなたは微笑んでやってくる
大きな大きな 愛を連れて