暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

2010-12-25 | あたたかい
鏡をかたどったような水面に、ふと、魚が一匹跳ね上がった。
穏やかなしぶきが大気を打ち、円を描いて波紋は消えていく。
平らな小石を湖に向かい打つ子供。
点々と跡を印す波紋は、やはり、消えていく。
鈍い鉛色の水面は抵抗もなく重力に従い、絶対的な平行を保っている。
魚もまた、いくら跳ね上がろうとも水へ戻っていくように。
小石もまた、水をかき分けて底へ潜っていくように。
雨はかの湖に従属し、溢れもしなければ浮き上がることもない。
たとえ見えない水蒸気となり、大気へのぼってゆこうとも。
水面は鏡に似た絶対的平行を保っている。
それは決して、揺るぐことはない。

疲労感

2010-12-23 | つめたい
あなたが生きていることは不思議でしかたない
わたしがなぜ生きているのかわからないように
遺伝子が継承された結果の
存在という定義を見失っている

何を積み重ねてきたのか
わたしは知らないが
あなたはとても愚かに見える
またとてもしたたかに見える

わたしがなかったことになったとして
ただ空席が増えるだけと同じように
あなたがなかったことになったとしても
わたしの座る席が増えるだけ

ちがう、ちがう、ちがう
子供のように首を振る
あなたはとても、とても
冷たい目をしている

正しく機能することができない、
少なくとも、今この瞬間には
あなたが消え去ってもわたしは笑うだろう
あとから泣くことがあったとしても

冷たい定義の椅子に座っている
体温はそこから奪われる
あなたのための椅子はなんのために、
わたしのための椅子はなんのために

みんな消え去ってしまったなら
きっと椅子もあたたまるはず
くだらない、くだらない、くだらない
くだらなくても今は、
そう思わせてほしい

青痣

2010-12-22 | 錯乱
青痣が できました
どこを打ったわけでもないのに

左腕は しびれるようです
血の塊に圧迫されて

(視線をさまよわせるように、
 血のめぐりもまたまどっているのか、
 私のこころはまよっている、
 たとえ出口がそこにあったとしても)

流れる血を 見ていました
さほど流れたわけでもなく

頭がじんと しびれました
腕がみるみる腫れました

(ぱちんと弾けたように、
 あなたはそうやって広がっていくの、
 すでに死んでいて消え去るのを待っているのね、
 真っ青な顔を見せつけながら)

2010-12-21 01:06:04

2010-12-21 | 心から
人を殺す
それは罪深いこと
強く否定されること
ならば手はいつでも
きれいでいなければならない

洗うのを忘れたでしょう
振りほどくのも忘れたでしょう
恨みの血しぶきが見えている
取り残された中指が
そっと喉に絡んでいる

あなたの心ない一言は
YOUという複数形に変わり
幾日幾月幾年の歳月をかけ
じわりじわりと人を殺す
死に至らしめるのは凶器ではないと
わかったつもりでいるだけで
針は小さな刃と変わり
何度も交わることで立体になり
ばらばらになった死者はそれから
どこへ行くというのでしょう

忘れないで
手を洗い自分を今一度よく見るの
傷は自分にはよく見える
けれど他人にはそれが見えない
きれいな肌に一本の針をためらう人はいない
新雪を踏み荒らしたくなるように
そして血のあとは自分には見えにくくても
他人からはたやすく見える
人殺しはあなただけとは限らない
あなただけが人殺しになるならば
たぶん誰一人として死ぬことはなかっただろうから

認めなくとも
許さなくとも

許しの罪

2010-12-11 | -2010
許されるために
なんだってしようと

たとえばあなたが
言ったのなら

わたしは 死ねとは
言わないよ

ごめんなさいと
言いなさい

あんなことしてごめんなさいと
こんなことしてごめんなさいと

死ぬときまでずっと
言い続けなさい

ごまかしてごめんなさいと
うそついてごめんなさいと

生きていてごめんなさいと
そばにいてごめんなさいと

わたしはそれでも
許さないけれど

あなたに許すことはない
許すこともないのに

あなたは何に許されたいの
わたしにはわからない

死ぬときまでずっと
言い続けるしかないの

わけもわからずごめんなさいと
納得できずごめんなさいと

あなたは何を求めているの
わたしは許しを求めていない

許しを求めてごめんなさいと
問題ないのにごめんなさいと

あなたがそうして死んだとき
わたしはその罪を許すでしょう

ごめんなさいを言い続けた
あなたのその罪を許すでしょう

孤独

2010-12-10 | -2010
悲しみというにはあまりにも稚拙なものが
薄い胸の内側にしみこんでいく
ひたひたと肺を満たしていく
それは細胞の奥深く
それぞれに根付いた精神にまで深く行き渡り
もしもわたしが息を吐いたとして
ただ窒素が抜けでていくだけ

灰色に染まったひとたちの
何気ない言葉がまたわたしの肺を犯すだろう
それは被害妄想と定義することもできるし
感情がもたらすのであれば真実だと言うこともできる
そのどちらかを否定することで
あのひとたちは灰色へ変わっていったのだろうか

わたしの足先は肌色に見える
それでも肌色ではないのかもしれない

枯れた呼吸がただよって
宙をさまよい迷っている
どこからか辿りついてきた夕飯の香りが
美味しそうだと感じるのであれば
すべての感覚に肯定を示すきっかけになるのだろうか
わたしも、かれらも

確定というひとことがどこかで揺れている
けれど不確定さえもどこかへ隠れてしまった
肺に染み込んだ感情が血管をめぐり
全身に広く深くしみ渡る

わたしは灰色ではない、
わたしは空気の腐敗をかんじている、
わたしは決して灰色ではない、

枯れた呼吸をまた吸い込んだ
枯れない肺の感情はどこからやって来るのだろう
きっとあのひとたちがわたしに送りつけている
(ならば私も?)
双眼鏡をのぞいたようにかれらの目は寒々しい
わたしを見る目は寒々しい
わたしもまたかれらを
解剖されるカエルのようにしらじらしく見ている

かれらの肺にも満たされるものがあるのだろうか
それならばわたしのように
いくら息を吐いても出て行かないのだろうか
それならばわたしのこの気持ちは
どこからあらわれわたしを犯すのだろうか

足先はまだ肌色のままだ
凍えて青白い肌色のままだ
全身をめぐる悲しみは
やがて溶けていくだろう
確定されず、不確定というには確定に近く
わたしはしあわせの匂いを求めて歩く
また新たな悲しみがこの胸を満たすとしても

無関心

2010-12-02 | 
彼女による庇護のもと
ネズミはすくすくと育った
そのつぶらな瞳は
どうにも彼女を苛立たせた

だから、と尋ねられれば
きっと彼女は黙るはずだ

丸々と太り
ふしあわせの何たるかも知らず
ちいさな檻で生きてきたネズミを
ただ、見なくなってしまった

在りし日から変わり果て
痩せこけたネズミは
それでも生きていた
檻の隅で横たわっていても
その瞳が濁りかけていても

どうして、と尋ねられても
彼女に答えることはできないはずだ

ネズミは考えただろうか
どうしてひとり置いていかれたのか
どうして食べ物がもらえないのか
たとい考えたところで
彼女がそれを知るはずもない

ある日彼女はふいに
その生き物のことを思い出した
奇跡的にもそれはまだ
わずかにも脈を打っており
かすかな意識のかなたで
彼女の気配にまぶたを開けた
腐りかけた餌をちらつかせる
果たして彼女の姿は
ネズミにどう映っていたのか
ネズミは彼女の目の前で息絶えた
ごくささやかな吐息を吐いて
食べ物の目の前で息絶えた

それから、と尋ねられたとき
彼女はようやく答えるはずだ
「捨てたわ」

つぶらな瞳を気に入ったはずなのに
ちいさな動物を飼いたかったはずなのに
手に乗せて遊びたかったはずなのに
しかし彼女は忘れている、そのすべてを
そうしてまた檻にネズミが入るはずだ