暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

幸せな檻

2012-07-27 | -2012
紫色の体液が
どろり
どろりと
飛び散った

ああ、
汚れてしまった
わたしはそれを拭くでもなく
眺めていた

泣くのは誰なのか
わからない
知らない
わたしではない

それはあなた
紫色の体液が
どろり
どろり

泣くのはあなたでもなく
ならば誰が
涙は透明で
つまらないと思う

溢れる体液も
いずれ止まってしまう
どろりとした濡れたそれも
いずれからからに乾く

泣いている
飛び散った紫色が
すこしだけ潤う
また汚れてしまった

なんて悪い子
なんて汚い子
泣くのはあなたではなく
なら他に誰がいるのか

飛び散った体液と
向こう側の手足
どろり
どろり

簡単なことだよ
泣いているのは
わたしではない
わたしではない

あなたは悪い子
あなたは汚い子
また汚れてしまった
嬉しい

うれしい
あなたがまるで
わたしの世界を
包んでいるかのよう

わたしに謝っているんだね
償ってくれている
だけどもういいんだ
どろり

どろり
紫色の体液は
もうからからに乾いてしまった
いくら泣いてもだめなくらいに

くっつけても
あなたはどうせ悪い子のまま
悲しいけれど
わたしはそれを乗り越えよう

あなたの死を無駄にはしない
いろんな色の絵の具がある
どろり
どろり

悪い子
汚い子
それはだれだ
だあれだ

わたしではない
泣いている子
それはとても悪いこと
だから

わたしではない
わたしではない
わたしではない
絶対にわたしではない

たくさんの人に守られて
わたしはなんてしあわせなんだろう
虹の最後の一色は
いちばん大切な色にしよう

おやすみなさい

2012-07-05 | 心から
時計が動かなくなった
わたしの中でだけ
針は止まってしまった
たくさんの人や獣や虫たちは
さざめいてなめらかに呼吸している
見送るわたしは
まるで色褪せた写真のよう

後悔が時を止め
そして時がまた
針を動かすことも知っている
止まってしまった時間
流れないこころ
残酷に過ぎていくからだ

針は止まってはいないことも知っている
あのときを思い返しては
ぐるりと逆に回すから
そんなことをしても
景色は逆には流れないのに

たったひとりで
何をすればいいのだろう

そう考えるわたしは
なんて幸せで愚かなのか
時計が回る、また戻す
回って、戻して、また戻す
飽きるまで続ける間にも
優しい彼らは先へ行く
わたしを置いて、時を置いて

(止まってしまったのはわたしではない)
わかっているよ
(幸せにいきることが何よりの望み)
わかっているよ
(もう後悔はしないと決めた)
わかっているよ
わかっているよ
わかっているけど

朝が沈んで
夜がまとわりついてくる
いくら針を戻しても
わたしの細胞はうごめいて
それがまた吐きそうになる
わかっているよ
何にもならないことくらい

だけれど
いずれ針は戻らなくなる
わたしが忘れてしまうから
ひどくこわい、吐きそうなほど
わたしもいずれ写真を見る側になる
いずれ語らう側になる

だけれど
心だけでも戻したなら
柔らかい声を聞くことができて
細胞もきっと動き続けていて
それはとても甘やかな味
涙はひどく苦くても

すぐにわたしは
時計のことさえ忘れてしまう
だから今は回って戻して
愚かな後悔の帳で声を聞こう
忘れてしまうまでは
あなたと一緒に色褪せた写真の中
柔毛をゆっくり撫でてやろう
わかっているよ
みおくることもできないことは