暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

許しの罪

2010-12-11 | -2010
許されるために
なんだってしようと

たとえばあなたが
言ったのなら

わたしは 死ねとは
言わないよ

ごめんなさいと
言いなさい

あんなことしてごめんなさいと
こんなことしてごめんなさいと

死ぬときまでずっと
言い続けなさい

ごまかしてごめんなさいと
うそついてごめんなさいと

生きていてごめんなさいと
そばにいてごめんなさいと

わたしはそれでも
許さないけれど

あなたに許すことはない
許すこともないのに

あなたは何に許されたいの
わたしにはわからない

死ぬときまでずっと
言い続けるしかないの

わけもわからずごめんなさいと
納得できずごめんなさいと

あなたは何を求めているの
わたしは許しを求めていない

許しを求めてごめんなさいと
問題ないのにごめんなさいと

あなたがそうして死んだとき
わたしはその罪を許すでしょう

ごめんなさいを言い続けた
あなたのその罪を許すでしょう

孤独

2010-12-10 | -2010
悲しみというにはあまりにも稚拙なものが
薄い胸の内側にしみこんでいく
ひたひたと肺を満たしていく
それは細胞の奥深く
それぞれに根付いた精神にまで深く行き渡り
もしもわたしが息を吐いたとして
ただ窒素が抜けでていくだけ

灰色に染まったひとたちの
何気ない言葉がまたわたしの肺を犯すだろう
それは被害妄想と定義することもできるし
感情がもたらすのであれば真実だと言うこともできる
そのどちらかを否定することで
あのひとたちは灰色へ変わっていったのだろうか

わたしの足先は肌色に見える
それでも肌色ではないのかもしれない

枯れた呼吸がただよって
宙をさまよい迷っている
どこからか辿りついてきた夕飯の香りが
美味しそうだと感じるのであれば
すべての感覚に肯定を示すきっかけになるのだろうか
わたしも、かれらも

確定というひとことがどこかで揺れている
けれど不確定さえもどこかへ隠れてしまった
肺に染み込んだ感情が血管をめぐり
全身に広く深くしみ渡る

わたしは灰色ではない、
わたしは空気の腐敗をかんじている、
わたしは決して灰色ではない、

枯れた呼吸をまた吸い込んだ
枯れない肺の感情はどこからやって来るのだろう
きっとあのひとたちがわたしに送りつけている
(ならば私も?)
双眼鏡をのぞいたようにかれらの目は寒々しい
わたしを見る目は寒々しい
わたしもまたかれらを
解剖されるカエルのようにしらじらしく見ている

かれらの肺にも満たされるものがあるのだろうか
それならばわたしのように
いくら息を吐いても出て行かないのだろうか
それならばわたしのこの気持ちは
どこからあらわれわたしを犯すのだろうか

足先はまだ肌色のままだ
凍えて青白い肌色のままだ
全身をめぐる悲しみは
やがて溶けていくだろう
確定されず、不確定というには確定に近く
わたしはしあわせの匂いを求めて歩く
また新たな悲しみがこの胸を満たすとしても

消滅

2010-11-23 | -2010
わたしにとってとても大切なひとであるあなたが消滅することは、あなた以外の何か一つ、たとえばゴミ捨て場に放置された椅子一つが消滅することと、なんの変わりもないかもしれない。
価値はわたしが決めるというからわたしにとって何が価値のあるものでどれが無価値なのか考えてみたのだけれど、結局のところあなたが存在することでわたしの得られるものは楽しいだけのものだった。
それならば椅子は、わたしが見たこともない椅子は、わたしに不可解や想像を与えてくれるのだから、決して無価値なわけではなく、時にはあなたよりも楽しさを教えてくれるものでもある。

あなたはわたしにとって特別と言うのなら、どうして消滅してしまえたのか、再生して弁明をしてみなさい。
わたしは既に、それが真実かわたしの本心かには関係せず、あなたがその他大勢と同価値、つまり等しく無価値であると認識してしまった。
だからあなたはわたしの知覚あるいは世界から消滅してしまった。
けれどわたしはあなたのことを覚えているから、ほんとうは消滅していないのかもしれない。
現在のあなたが消滅したということは、現在のあなたは無価値ということになるのだろうか。
あなたはなぜわたしにとって無価値なのか、無価値と呼ばれ消滅させられたことに対する怒りすら消滅してしまったのか、そもそも消滅したということはあなた自身でさえわたしの世界が生んだ単なる椅子、想像の賜なのだろうか。
そのようなことを考えるのはわたしではなくあなたの仕事ではないのか。
わたしはわたしの世界が望むものになるよう努力をしている。
あなたは障害物にすぎなかったのか、それならばわたしはなぜこんなにもあなたの消滅を思い返しているのだろう。
わからない。

わからない。

あなたの世界でもしもわたしが消滅していないのなら、今頃のあなたはきっとわたしを殴っているだろう。
けれどわたしの世界ではあなたは消滅しているから、わたしの頬は決して痛くならないし、痣もできない。
だからわたしが泣いたところであなたがそれを見ることはないし、消滅してしまったものは再生することもない、あなたがわたしの涙を見ていたとしても。
椅子と同価値だというわたしの考えはまだ変わりはしないけれど、違和感に近い感覚が後悔ということは知っている。
わたしの世界はすべてを統括したものであるべきだから、あなたでさえ椅子でさえ消滅してはいけなかった。
そのようなわたしの思いに関係なく、あなたの立っていた位置にはまっしろな空白が残っている。
埋まらないそれを見ては、おそらくあなたの世界で存在しわたしの世界では消滅したあなたのことを思い出す。

遺伝子

2010-10-29 | -2010
私の茎は寒々しく萎れている
私の根は苦しげに縮こまり
私の葉は黄ばんで垂れている
実りを知るには花を咲かせねば
葉のすきまから覗く蕾の芽は
ずっと胎動を止めている

たった一束の草が枯れても
営みは休むことなく活動する
体系をつなぐ線はまるで
土と水をめぐる血流のよう
私は細胞をもつ細胞であり
ただ芽吹いていただけ
活動を続けたがそれは終わりを見せ始め
脈々と受け継がれていくはずの遺伝子は
ひっそりと途絶えようとしている

花はつまり生存の意志
なぜ子を産まずに生きているのか
萎れた茎はそれでも
根から水と養分を吸い上げ葉に送る
おおきな役割を果たしながらも
ちいさな役割が捨てられて
私は酸素を呼吸している

解放のために学ぶこと

2010-10-14 | -2010
たまになにもかも壊したくなるなあと思うときがあって
それはたぶんたまにというほど間隔のひらいたものではない
かといってこれこそがわたくしの特異性ですと
声高に言うほど年若くもなくなってしまい
だから幼さに縛られたわたくしの愚かしさを
ただ嘆いては結局じぶんの体さえ傷つけることはできずに
枕になまぬるい染みをつくりながら
毎夜毎夜疲れて眠るしかできないでいる
なぜこんな思いになるのだろう
恨みもなく妬みもなく
わたくしの疑問は一応知的好奇心に色づいているはず
かたわらで妬みと後悔を膨らませながら
持ち前の臆病さがそれを撒き散らすことに了承しない
(餓鬼さながら膨らんだ腹)

垂れ流した、排便した、その催しがあったから、わたくしは、あなたがたのちからによって、情けをかけられかけられながら、ようやく、生きさらばえて、いる、だから、わたくしはただこわく、こわさをおぼえない、あなたがたのよきかおが、ひたすらに、ねたましい。
なぜならば、わたくしがくちにいれる、米野菜肉魚そのほかのすべて、いのちとよべるそれら、あなたがたはそれをころすごうをみずからにない、このわたくしにそれらをあたえてくれる、けれど、それは、わたくしへのやさしさではなく、わたくしへかけられる、なさけによってもたらされた、りえきというもののためにうまれでた、ひやりと、ああ、ひやりとつめたい、あしさきがひどくつめたい、わたくしはひとりではないのに、どうして、こんなにもひえるのだろう。
にくのなかに、わたくしのにくのなかに、あなたがたのしんけいが、からみついてくる。
わたくしのけんおはいまさらだれに理解されるものでもなく仮に理解されるとしてももはやわたくしは望んではおらず今やわたくし自身さえ預かり知らぬいや計りきれぬ膨張性を孕み破裂させてしまおうと防衛本能が千切れんばかりに叫んでもわたくしに食い込んだあなたがたのつめたい善意がわたくしを戒め、いや、わたくしを戒めたがるようわたくしが命令しているにせよ、だれも誰も知らぬのだ、わたくしでさえ、知らぬのだ。

憧れは裏返さなくても妬みが混じりこんでいる
はじめから、はじめから
わたくしの排泄はあなたがたへの裏切り
かえって喜ばしいはずの排泄も疎ましく恐ろしく感じるのは
きっと妬みの成分がどこに属するかによるのだろう
何も食べなければいい
何も触れなければいい
何も受け入れなければいい
けれどそれではいけない
わたくしのおそれは既に発生し膨張を続けている
だからそれではいけないのだ
手を振り上げるべきかさえわからないが
何もかもそれではいけないのだ

ゲロにすら満たないもやもやの塊ともいえない半液体で個体にもなりそうなもの

2010-09-28 | -2010
たとえばあんまりくさっちゃってるものだから、本当に腐ってみてはどうだろう。
排水口からの臭いはすさまじくて、あぶらむしの鼻について思いを馳せられたなら生きる。
きっと生きるだろう。

なんだかあんまり前が見えないものだから、ちょっと泣いてみよう。
優しいあの子がなぐさめてくれても、おなかがふくれるわけじゃないから生きらんない。
それは死んでしまうかな。

まっくらなようでひかりにみちあふれた、
曖昧でぼんやりとした精神世界の、
たぶん真ん中じゃなくてほんのすみっこ、
球状じゃなくて平らなくらい小さな世界、
なんとなく爪先立ちをして、
それでもなんとなく浮いているよう。
空っぽをあざわらうこともない、本当に空っぽの精神世界。
浮いているようで立っているよう、きっと答えを決めたくない。
本当に空っぽならこんな広さだっていらないのに、真ん中のほうは息苦しいくらい風が通る。

そこにいるような気がしても、いまは物がたくさんで球状のところに二本足でべた踏んでいる。
重力に息苦しさを感じたらそれはきっと杞憂。
汚れたとか汚れてないとか、そんなのはもううんざりなんだ。
うんざりなんだ。
ただ層の重なった皮を丁寧にめくれば、小さな核なんてものしかないどころか存在するかもわからないってことさ。
気持ちが入り混じったらパレットを洗ってしまいたいのに、いつも忘れてこびりついてしまう。

ひとは単一にしか見えないようになってきたのは、パレットのせい。
だからぜんぶぜんぶやり直すか、もうやり直さなくていいからやめてしまおうかな。
腐っていなくてもくさっているし、涙はべつにきらきらしていない。
何色かもわからないがらんどうの精神世界で汚いとか汚くないとか言われたり思われたりしたのを受けて考えたり悔しかったり嬉しかったり、そんなのはもううんざりなんだ。
うんざりなんだったら。

不必要に生きた

2010-09-26 | -2010
脳が腐る夢を見た
いちばんはじめは痒みをおぼえ
体のはじから痺れがでてきて
歩くたびに頭蓋の中がちゃぷちゃぷ言った

脳が腐る夢を見た
実はいまだに覚めていない
腐りきってかわいた脳が
へばりついて気持ちが悪い

脳が腐ってわかったことは
わたしは脳では生きていないということだった
意識はずいぶんおぼろげでも
心臓は動いている、うごいている

どくんどくんと からだの音を聞いてみた
すべてが覆されたようで
それでも生きることは普遍的
頭がずいぶん軽くなったと思うだけ

脳が腐り落ちる夢を見た
現実はたぶん夢の向こうに落ち込んだ
判断するための臓器がないなら
これが夢でも現実でも

わたしはそれでも生きている
この世から遊離したまどろみの中で
わたしはそれでも生きている
いっそ空間から遊離したいと考えながら

わたしはそれでも生きている
けれどもたったそれだけになった
どうして夢かもわからないのに、
それでもわたしは、生きている

考える葦

2010-09-14 | -2010
死んでいく雛鳥
羽毛もはえそろっていない
無垢な死の向こう側に
濡れそぼった死を見ている
あれはカラスという
さっきぼくが殴った
あれはすぐに死んでしまった
死んでいく暇も残さず
あれがありついていただろう
生きるための糧を得ようとしていたところに
ぼくが殴って殺してしまった
死んでいく雛
おまえはミミズを食べたろうか
ぼくはミミズを食べない
雛も食べないが重要なのは
ぼくがカラスを食べないということ
肌色の雛
こちらを見ているのか
見えているのか
何を思うのか
助けてほしいのか
ぼくはおまえを既に助けた
ぼくにそのつもりはなかった
それでも
ぼくはおまえを既に助けた
事実だ
おまえはぼくを助けなければならない
天秤はもう傾いている
ぼくのほうへ傾いている
頭の二分の一を黒い目で覆う雛
あまりにも小さい
カラスだってあまりにも小さい
ぼくからしたらどちらも同じ
雛の方が小さい
だからおまえは何もできないのか
雛は小さく鳴いた
「助けを求めているようだった」
そんなはずはない
たぶんぼくは敵だ

むきだしの肌を土に傷つけられ
苦痛にのたうち回ることも許されない
それを
ひと思いに踏み潰すのは
それとも
そっとすくいあげて家に連れ帰り
粟玉を食わせて飛び立つ日まで見守るのは
善行の天秤にかけるべき
皿がどんどんと増えていく
どれが当たりかわからないのなら
それらすべてに違いがない
もうぼくの善行は果たされた

カラス
足のねじれた死体
虫や鼠がやってくる
あれを食べてしまう
ぼくの代わりに
ぼくは見下ろす
すぐにでも死んでいきそうな雛
おまえもやがて骨だけになる
「なぜ助けたのかと言いたげな目で」
見ているはずはない
助けた理由
無垢な死は善
捕食者の死は悪
それらがほんとうなのか
どちらともに意味はない
意味はないとわかった
カラスの死は無駄だ
ぼくがいたずらに殺したせい
おまえの死は無駄だ
カラスに食べられはしなかった
不運な摂理がある
どれだけ無駄でも
ちいさなちいさな生き物たち
かれらの餌食になるという
無駄では ない
ただ善悪が無駄にする

ただなんでもないぼく
ぼくという人間
雛を見下ろす
ぼくによって
ぼくにとって無駄になった
おまえは何を考えているのか
わかるはずがない
何かをぼくにもたらせないなら、
そのまま死んでいきなさい

食彩館

2010-08-24 | -2010
ぴんく色なら腸の色
き色の汁を吐き出しながら
黙って蠢く腸の色

きみどり色なら皮膚の色
殴られ蹴られて砕かれて
それでも生きているなら皮膚の色

まっちゃ色なら肝の色
潰れて元に戻らない
きっと美味しい美味しくないの肝の色

やまぶき色なら舌の色
食べるも食べられるも任せなさい
縮んで汚れた舌の色

色の世界はとっても不思議
いろんな色が潜んでいても
いろんな色は無いなんて
人の体に潜むいろいろ
体の具合で変わるいろいろ
鼻の先からお尻の穴まで
いろんな色を覗かせて
いろんな色を教えてよ
きっといろんな色がある
いろんな色はないけれど
色の世界はとっても不思議

友人の裏

2010-08-24 | -2010
ポールが横へすべるように
金網が透き通り横縞をえがくように
やがて、を知る前に消えていくもの
見えるだけのほとんどが知る頃には忘れるが
過ぎ去るものは不動だとは限らない

(見えざる手と目前に見えるものとの対比)
私はあなたをおそれていた
まぶたの裏ではまだあなたが、
朽ちた影法師がちらちらと光をよこしながら、
歪んだ残像のままこちらを見ている
あなたは私をおそれていただろうか
私はそんなことで
そんなにも細やかなことで
あなたへのおそれを騙している