暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

眠れず

2016-08-09 | 自動筆記
僕には月が見えます
真っ黒な月です
茜色の空から
たくさんのイワシが落ちていきます
四角い音を立てながら
臓腑がぶちまけられていきます

あなたには花が見えるそうです
それはあなたの頭を呑もうとしています
あなたには鉄塔が見えるそうです
それはあなたの舌を刺していきます

おそろしい
なんておそろしい世界

臓腑にまみれた傘を畳み
僕は月を見上げます
ぽっかりと穴の空いたような月からは
かわいい猫がこちらを覗いています

おまえの口にキスをして
内蔵をすすってやると言います

そんなかわいい猫をあなたは抱き上げます
猫の爪はキャップがはめられているので
安心だねとキスをします

まるで炎天下の道路にこびりついた
甲虫の死骸のようにおまえは死ぬ

花とかわいい猫を抱え
甲虫の死骸のようにおまえは死ぬ

かわいい猫は月越しに
舌なめずりをしています
ああなんておそろしい
おそろしい世界、

へばりついたあなたが見えます
とてもきれいな白い色をして
空は祝福に青く光ります
イワシなんて降るはずもありません

臓腑にまみれたおまえの肉を
生きたままに食ってやる

なんてうまそうな舌、
なんてうまそうな舌だ

怪物

2016-08-08 | 
お腹が空いたとその子は言うので
腕に抱えきれないパンを与える
すぐさま彼は食べ尽くしてしまい
お腹が空いたと訴える

四六時中その子は食べ続ける
まるで獣のようだと噂される彼を案じ
家に帰ればたくさん食べさせてあげるから
人前での食事を禁じるよう躾をした

お腹が空いたといつしか言わなくなり
外に出れば礼儀正しく振舞うその子は
みずからの腕を噛んで飢えをしのいだ
咀嚼の真似事で空腹をまぎらわせた

夥しい噛み痕の残る腕も
長袖を着ればまったく目立つことはない
彼は飢えを律したと喜んで
腕を噛み続けるその子の頭を撫でる

腕いっぱいに抱えきれないほどのパンを与える
色とりどりの果物を与える
盆が重みにたわむほどの肉を
店を開けるほどの野菜を

家での彼はまさに怪物そのもので
おそろしいほどの食物をたちまち平らげる
お腹が空いたといつしか家でも言わなくなる
それでも腕の噛み痕はまったく消えはしない

案じるより先に喜んで彼の頭を撫でる
この子は普通の子になった、
外に出ても恥ずかしくない子になったと
欲求を律した彼は素晴らしい人になると

噛み痕からいつしか血が滲む
食事の量はますます増えていく
一心不乱に食べ続ける
一心不乱に腕を噛み続ける