呼んでいる
ちゃぷちゃぷゆれる水面から
呼んでいる
さらりさらりと手招きをして
呼んでいる
がちゃがちゃ騒ぐ音から逃れ
呼んでいる
そろりそろりと怯えながらも
奪われる熱が心地よく
委ねる浮力が快い
滴り続けた雫は今や
頭のぜんぶを濡らしてやまず
水面の向こうに呼ばれている
手招きをして、呼ばれている
逃げてもいいと呼ばれている
爪先を浸す間も呼ばれつづけ
わたしと名付けた浮袋から、
ゆっくりとゆっくりと空気を抜く、
水面の向こうはごうごうと鳴り、
けれどもまるで胎内のようで、
せめてたゆたう嬰児をもとめて、
ごとりと独りの音がしずむ、
ああ、どうしてわたしは、
臍帯を棄ててしまったのだろう。
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