暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

箱詰め

2012-12-28 | -2012
ゆうらりのぼる煙の色は
遠目で見ればきれいな気がする
だけれど煙は粒子の群れ
吸い込めば死ぬし放っておけば拡散する

音波がいつまでも途切れないなら
音は固体と液体と気体を繰り返す
蒸発したそれらは上空で実を結び
わんわん降って積もるだろう

記憶は綿々と綿々と
忘れられることなく受け継がれる
系譜は一個に終結したら
永遠は生きとし生けるものを見放すはず

たちのぼる煙を見ている
降り注ぐ音を聞いている
不可視の毒を吸い込んでいる
味わうものは何もない
触れているのはまやかしそのもの

終わりの向こうで葬式があった
参列するのは黄土色の人たち
悲しむように音が降る
煙をどこかで眺めている

永遠が永遠がすべてを見放す
いくつもいくつも生えてくる
青々とした葉を茂らせた木々に
触ることもできなくなった
積もるのは音で埋もれるのは人
しとしとわんわん積もり重なり
上書き保存
上書き保存

見えなくなった先祖の山
内側から燃え盛る木々の向こうで
ゆうらりのぼる煙の色は
近くで見てもきれいに見える
気体となった怨嗟の音は
どうせ循環して降ってくる

永遠は見放した
永遠に見放した
永遠を味わって
延々と見て聞く

参列する黄土色の人たちは
もっと近くで見れば粒子の塊
目に近いくぼみから
にょろりと舌が這い出した

ほぐして絡む

2012-12-23 | -2012
ひとりめのぼくはわたし
おきていくらかでうまれ
ねてすこししてしんだ

ふたりめのぼくはきみ
いつのまにかいきていて
しらないあいだにしぬ

さんにんめのぼくはぼく
はじめからそこにいた
おわりはまだわからない

よにんめのぼくはそれ
うまれもしなければ
しぬこともない

ごにんめのぼくはない
うまれるのかもわからないけど
しぬかどうかもわからない

ろくにんめのぼくはおれ
わざわざうまれてきたけれど
しんだってだれもかまわない

ななにんめのぼくはいきもの
ずっといきつづけて
いつもいつもしんでゆく

はちにんめのぼくはかれ
いきているらしいといわれても
しんでいるかもしれないもの

きゅうにんめのぼくはかれら
うまれてたくさんのひとにいわわれた
だけどしぬときはひとりぼっち

じゅうにんめのぼくはいない
うまれたくなければうまれなければいい
なにしろしぬのはとてもこわい

じゅういちにんめのぼくもいない
うまれたくないからうまれない
しんでもいきてもとてもこわい

じゅうににんめのぼくもいない
じゅうさんにんめ
じゅうよにんめ

だけどたくさんのぼくはいる
じゅうごにんめ
じゅうろくにんめ

いくつもいくつもうまれている
じゅうななにんめ
じゅうはちにんめ

そうしてまたまたしんでいく
じゅうきゅうにんめ
にじゅうにんめ

いたいいたい
ぼくがいたいぼくらがいたいわたしもいたいみんながいたい
うまれたのはうまれたかったから
そうしてしにたかったから

ぼくはきゅうにんのぼくたちでなりたつ
だけれどぼくはもっといる
かぞえることができないくらいに

そのどれもがうまれてしんで
だけれどきゅうにんはいなくならない
ぼくはしぬからうまれてきた
だけれどきゅうにんはいなくならない

燃え盛る燃えたぎる灰になる

2012-12-20 | -2012
わたしの中には獣がいる
そう思うことで楽になれる
時には虎、時には蛇
なんだって構わないなんであっても
獣がわたしを食い千切るのなら
むしりむしりとむしりとって
ぼたぼた血とはらわたを撒き散らし
頭から爪先まで丁寧に丁寧に食べてくれる
獣がそう食い千切ってくれるのを思い描き
わたしはわたしの獣を落ち着かせ
わたしそのものに衝動をぶつける
なんだって構いやしない
わたしの中の決して実らない寂しい樹木
真っ黒な目の奥に不気味を宿した鹿
根までかじるのは土を好む鼠
飽食の蟻食いは惨めたらしい残骸に群がる蟻を舐め尽くし
みんながみんな破壊を尽くす
わたしの獣たちは最初にわたしを殺す
だからわたしの中にわたしはいない
だから心など動くこともない
そうであるならなんだって
なんだって構わない
今日は蛇で明日は虎
明後日は山羊で明明後日は猪
そうだ、わたしは
人にはなりたくなかったのだと
そう思うことで楽になれる
痛みとともにやってくるのは
咀嚼される喜びではなく
憎悪に焼かれる苦しみで
獣とともにある幸せではなく
どろどろと零れ落ちる呪いのはらわた
わたしは蛇だ、虎なのだ
人たるわたしは食べられた
人たるわたしはいやしない
楽になれる、楽になれる気がしている
たとえ善良の羊を装っても
それこそが人の証だというのに

過ぎたことを

2012-12-17 | -2012
xyz
こんなにももどかしい隔たり
二乗になるのは揃った時だけ
いくら数式を並べ立てても
ねじれた位置は動かない
わたしはいつかに諦めて
ただその隔たりを見つめる
一つはここ、xyzの上
もう一つも同じ、xyzで成り立っている
だけれど無がそこに存在し
向こう側へもこちら側へも
届くことはない
もっと早くに正していれば
だけれど数式は定数ばかりで
それ以上の可変を知らない
時間はどれに含めればいいのか
たとえわかったところで
xもyもzすらも
定数にはなり得ない

認印

2012-12-14 | -2012
角が削れて糸が出た
糸はみんなに繋がっている
細くて強くてぬめった糸
あったかいから寒くなる

たくさんのたくさんの角が削れた
横たわる角はみんなの証
丹精込めれば大喜びで
糸がぼろぼろこぼれ落ちる

誰も気付いてくれないなんて
そんなのただの嘘っぱち
糸はみんなの角から角へ
あったかいから痛くなる

こぼれ落ちた糸の先は
たくさんのたくさんの角に着く
振動は何度も伝播して
嬉しい楽しい 悲しい辛い

横たわるのはみんな以外
糸がぶつぶつ途切れては
伝播して伝播してねじまがって
だけどその先は土の上

ぬかるみを歩いて鼻唄をうたう
糸と角とを自慢して
削れたかけらはうずたかく
寒いなんて嘘っぱち

みんな以外のぬかるみは
糸の終わりのぬかるみは
角を削ったありがたいごちそう
寒い時にはたくさん食べる

角が削れて糸が出た
糸はみんなに繋がっている
繋がらなければぬかるんだ
たくさんのたくさんの電波伝播伝播
ちゃぷちゃぷ遊ぶ子供の角は
それを見守るだれかの角は
糸がたくさん延びている
どこに行くかはわからないから
伝わらなければ根本を切る

あったかいから寒くなる
寒い時にはたくさん食べる
食べたあとには後片付けで
それからぐっすり眠って育つ

角の削れたかすとぬかるみ
切れた糸を引きずっても
伝播すれば楽しいに変わる
ぬかるみを歩くのは楽しい

楽しい嬉しい
悲しい辛い
暖かい寒い
おなかが空いた

糸が切れた
角が削れた

みんなはみんな
切れればみんな以外
糸からこぼれた滑り気
ぬかるんだ土

成長期

2012-10-29 | -2012
きらびやかなまぼろしが
ちらりちらりとまたたいて
ぬるりと飛び出す小鳥の群れに
ぼくはときどきはっとする

ゆめとうつつをくりかえし
うつらうつらとゆめうつつ
彼らは群がる羽虫のようだ
必要もないのに寄りかたまって

ベッドを抜け出す時が来た
(さあ、ぼうや、ママにキスをしてごらん)
しこりを残す眠気を振り払って
(ほら、ぼうや、パパの上は高いだろう)

夜のとばりが降りるころ
朝の日差しがそそぐころ

ぼくはときどきはっとする
ぼくはときどきはっとする

きらびやかなまぼろしは
いつまでたってもまぼろしだ
するりと体をすりぬけていく
小さな猫とおんなじに

ベッドを抜け出す時が来た
それが朝でも夜中でも
そろりとベッドを抜け出して
(さあ、ぼうや、私たちに挨拶を)

押さえつけられた腕と腕
癒着しどろどろ混じりあう
それはやっぱりまぼろしなのか
ぼくはベッドを抜け出した

ふわふわ飛び交う羽虫の群れは
静かな地獄を地上に持って
それがもしも彼らであるなら
地獄はどこにあるのだろう

さあ、ママにキスをしてごらん
優しい優しいまぼろしの声
ほら、ぼうや、パパの上は高いだろう
優しい優しいまぼろしの声

ぼくはときどきはっとする
朝でも夜でも関係なしに
ベッドを抜け出す時は終わった
それでもときどき、はっとする

無言の合唱

2012-08-27 | -2012
今日、私は
虫を殺しました。

そんなつもりではなかった。

机の上にいたその小さな小さな虫は、
何かするには邪魔だったので、
そっとすくって別の場所に置くつもりでした。

だけれど汗ばんだ私の手は、
無事すくうことができた虫を張り付かせたようでした。

別の場所にとやった時、
小さな虫の尻がつぶれてしまいました。

どうにかしようとしたら、
今度は羽がちぎれてしまいました。

足を空にもがかせる虫。

助からない虫ならば、
殺してしまうしかないのだと感じました。

虫がかわいそうだというつもりはありません。

私が、その責任を負うべきだと。

罪を感じるべきだと思いました。

つぶすための紙を見つけたとき、
虫はもう動かなくなってしまいました。
たったの数秒で、
虫は息絶えてしまい、
私はごめんねと言いながらそれをつぶすしかありませんでした。

窓を開けた私の部屋には、
たくさんの小さな虫が飛び交っています。

彼らは何の警戒心もなく、
私のそばを歩き、羽を休めています。

私はそんな虫たちを裏切った。

敵ではないという顔をしておきながら、
あっさりとその命を奪ってしまった。

かわいいかわいい、白い羽虫。

紙にへばりついた無惨な死骸は、
思ったよりも白くありませんでした。

無い

2012-08-18 | -2012
三人が二人になった
二人でも笑うことはできる
それでも二人分の幸せ
もう一人はどこへいったのかと
知っている頭は考える
どちらもそれを口に出すことはしない
時にはもう一人の思い出を語るけれど
寂しさを共有すれば三人分の
悲しみがやって来る

いずれ二人も一人になる
それは気が遠くなるほど不透明で
やはり考えることに蓋をする
からっぽだと思うのはまやかし
二人のあいだには確かな関係がある
それは決してからっぽではない
もう三人分を味わうこともない

一番悲しいのはきっと最後の一人
もう知る術はなくなってしまった
悲しいと思う間もなく 跡形もなく
消え去っていればどれほど幸せで
どれほど苦しいことだろう

嗚咽は一人で漏らし続け
二人の喜びだけ貪って
離別を恐れて片割れを求める
最初から恐れていれば
最初から離れていなければ
最後まで引き止めていれば
血が出るほど殴っても構わない
それでもう一人がここにいられたなら

あのときは楽しかったと
過去を思い出す会話が増えていた
決して二人で不幸ではないし
二人でも笑い合う気持ちは正しい
知らず過去を見ているのでは
教訓は生かされることもないだろう
二人から三人には増えない
減ることはあっても
決してもう一人が増えることはない
空いた席には花を添え
まるでいもしない三人で共有するように
中途半端な空白を埋める

最初から恐れていれば
最後まで引き止めていれば
あのとき
冗談を冗談と思わなければ

のゆくすめ

2012-08-02 | -2012
落ち葉の下で
君は口を開けている
僕はこわくて土をかぶせた
そうすると君は笑った
「さあもっと土を」
夜に僕は君を埋めて
昼の間に君はゆっくり咀嚼をする
そうしてまた帰ってくれば
君は大きな口で僕を迎える
哀れなねずみもちょうちょうも
土と落ち葉の下の君へと
僕は懲りずに君を埋め
君は愚鈍な僕を笑う
「それでは死なないもっと殺せ」
僕の小さな庭の片隅
大きな口で僕を待つ君
うっかり足を滑らせた子供は
もう二度と歩けやしない
がじり、がじりと音が聞こえる
君は僕に見せつけるように
土以外はみんな吐き出す
ぐちゃぐちゃの骨と肉はまるで
新しくできた君の死体
君の死体
「おいでおいで土をおくれ」
土と唾液にまみれた嘔吐物
それらは生きていたものだったんだ
命のないものは食べるくせに
小さな虫さえ許さないのか
口を開けてただ笑う君は
君自身を作れるほどに咀嚼して
今は彼らの塊は分解を辿っている
魂なんてありはしない

落ち葉の下で待ち望む君
日に日に君が増えていく
ごきりぐしゃりと聞こえても
ぼくは落ち葉を眺めるだけ
「土が欲しい土が欲しい土が欲しい」
昼も夜も君は口を開けている
むしゃむしゃしては吐き出して
狂ったように求めてくる
僕はただ明日の天気を心配して
小さなとかげに餌を与え喜び
夜の虫たちに耳を傾け
隣の犬の鳴き声にうんざりしながら
面倒だからと朝御飯を抜いて
ときどき窓の外を見下ろしてみるけれど
君がいるのは反対側だから
それでもいつだって声が聞こえる
いやないやな音が突き刺さる
脱走した小さなとかげが
虫たちの新たなすみかになった

「醜いなあおまえは本当に醜い」
君はとかげを吐き出して言った、
わたしが醜いだなんて笑わせる、他人を嫌うお前もまた糞尿を食らい無駄な命を生かし戯れに生き物を飼って無責任に他人を責めては毎日を無為に過ごしわたしという卑下すべき対象を無視することで優越感をおぼえながら糞尿を食らい糞尿をひりだしわたしにそれを投げつけて笑ってお前はわざと泣いてみせありったけわたしを馬鹿にしながらいらなくなったものやわずらわしいものを軒並みわたしによこしまた憎み安堵し錯覚し優越感を抱き歪み悲しみ蔑み嘲笑い続けてお前お前お前、
なにもかもお前が見たまぼろしと、
なにもかも都合のいいおとぎばなし、
「土が欲しい土が欲しい土が欲しい」
久しぶりに見下ろした君は
何一つ変わってはいなかった
僕はでもね
とかげを大切にしていた
だって彼は僕が死ねば
一緒に死んでくれるから
君はいつでも変わらないまま
土を食べようが食べまいが
ずっと大きな口を開けている
ただ気持ちが悪いだけの君を
僕はどう思うのが正しいのだろう

土なんてありはしない
あるのは落ち葉ばかりだから
君は排泄することもない
食べたものはどこへもいかない?
それなら君はやっぱり醜い
他のどんなものよりも
そして君はどこまでも汚い
君が吐き出したものこそ君の汚物だ
君が負うべき細胞の代償だ
あるはずのない魂の恨みの形だ
何よりも僕が抱く君への嫌悪だ
「お願い土をください土を土をあなたの」
落ち葉の下で大きな口を開け
君は僕の土を吐き出しているんだ
ここに土なんてない
あるのは汚物と汚物と汚物と僕
とかげはどうして先に死んだのだろう
僕がいなくなって苦しみながら死ねば幸せだった
死んだ、死んだ、みんな死んだ
みんな死んでしまえたならどれほど
どれほど簡単なことだろうか
子供も、犬も、みんなみんな
君が咀嚼してしまったよ
僕の価値はただそれだけだった
目がずいぶん痛むんだ
たくさんいろんなものを
見すぎてしまったから

「土が欲しい土が欲しい土が欲しい」
君は大きな口を開けて
じっくりとじっくりと土を食べる
たくさんの君の分身は
落ち葉と一緒に分解された
君の望みはわかっている
だけど僕は
とても目が疲れてしまった
君のことを見るのも億劫なほど
それに僕は
同じく耳も疲れてしまった
君の声はいつだって同じ
あの犬の鳴き声のように、
明るく笑っていた子供のように、
閉じ込められたとかげのように、
疲れたんだ
僕は土を買ってきた
たくさんの土を買ってきた
「土が欲しい土が欲しい土が欲しい」
僕は醜く愚かなんでしょう
だから僕にはわからないんだ
君の言葉の真意なんて
僕の気持ちの裏側なんて
「やめて」
だって気味が悪いじゃないか、
庭に君が口を開けているなんて

幸せな檻

2012-07-27 | -2012
紫色の体液が
どろり
どろりと
飛び散った

ああ、
汚れてしまった
わたしはそれを拭くでもなく
眺めていた

泣くのは誰なのか
わからない
知らない
わたしではない

それはあなた
紫色の体液が
どろり
どろり

泣くのはあなたでもなく
ならば誰が
涙は透明で
つまらないと思う

溢れる体液も
いずれ止まってしまう
どろりとした濡れたそれも
いずれからからに乾く

泣いている
飛び散った紫色が
すこしだけ潤う
また汚れてしまった

なんて悪い子
なんて汚い子
泣くのはあなたではなく
なら他に誰がいるのか

飛び散った体液と
向こう側の手足
どろり
どろり

簡単なことだよ
泣いているのは
わたしではない
わたしではない

あなたは悪い子
あなたは汚い子
また汚れてしまった
嬉しい

うれしい
あなたがまるで
わたしの世界を
包んでいるかのよう

わたしに謝っているんだね
償ってくれている
だけどもういいんだ
どろり

どろり
紫色の体液は
もうからからに乾いてしまった
いくら泣いてもだめなくらいに

くっつけても
あなたはどうせ悪い子のまま
悲しいけれど
わたしはそれを乗り越えよう

あなたの死を無駄にはしない
いろんな色の絵の具がある
どろり
どろり

悪い子
汚い子
それはだれだ
だあれだ

わたしではない
泣いている子
それはとても悪いこと
だから

わたしではない
わたしではない
わたしではない
絶対にわたしではない

たくさんの人に守られて
わたしはなんてしあわせなんだろう
虹の最後の一色は
いちばん大切な色にしよう