暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

地底の産声

2010-07-20 | つめたい
井戸の底には穴が空いていて、
そこはどこへ通じるのだろう と
ぬめる穴ぐらを進んだ先が
知らぬ間に埋もれていて知らぬ間に掘り進んでいて
けれど決して上に登ることがないのなら
果たしてその横穴はいったい誰が
そしてなぜできたのか
どこへ行こうとしていたのか、
わかりもしないことを考えることでしか
屍すらない沼の穴を進むための
力を得ることができず
もとの井戸へかえろうにも
進む後ろで土は隙間をつぶしていき
「わたし」はゲル状のカプセルにつつまれた
胎児のように産道を探しているようで
柔らかで鋭い泥土をかきわけ
ぐうるりと引力に導かれた確実な曲線で
ついには井戸へと生まれるのか、
それともふいに上を目指し
支えをうしなった横土に窒素させられるのか、
いやきっとその前に朽ちてしまうだろう と
ぼろぼろに汚れた右手を暗闇で見つめ
いつしか井戸に落ちた記憶を探ってみるものの
たとえば次に掘り進んだ瞬間に
さらなる井戸が「わたし」を待ち受けることをおそれ
そうしてここに屍のない理由を
ごくごくわずかに見いだし始めた

だから「わたし」は胎児のように
丸まってすすんでいるのだ