暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

振替輸送

2017-09-22 | -2016,2017
罪のない善良な羊たちが
のろのろと群れをなして歩いている
歩むべき道を忘れ
従うべき導を忘れ
罪のない善良な羊たちが
のろのろと群れをなして歩いている

そう、彼らは
善良なのだ
なぜなら彼らが
そう言っているのだから
羊の社会では羊こそが善とされ
羊以外はそうでないものと看做される

彼らの仲間がいま
車輪に飛び込み死んでいった
それはもはや羊ではないのだ、
口々にそうでなくなったものを囃したて
羊たちは今こうして歩いている

めえめえと口々に鳴きながら
彼らは死んだ羊を覗き込み
大きな口を歪ませる
見よ、羊たろうとしない者は
かくも愚かに死んでいくのだ
ああ、なんとかわいそうなわれらが羊よ

なれば哀れな善良たるわれらは
庇護されて然るべき、
歩むべき道を忘れようと
従うべき導を忘れようと
われらは庇護されて然るべきだ
のろのろとめえめえと群れをなす
群れであるなら安全だ
羊であるなら善良だ
善良でないなら羊ではない
そうしてかれらの善良さは保たれる

断崖に飛び降りることはしない、
一匹の山羊につられるようなこともない、
なぜならわれらは羊ではなく
善良なすこやかな人間であるからだ
そうしてかれらは道を外れ
多数決の善に酔いしれながら
かよわきそれ以外を踏み潰すのだ
誰が踏み潰したのかもわからない
ならば誰にも罪はない
潰れたそれらは紛れもなく
人の形をしている

こわくないよ

2017-09-19 | -2016,2017
何に怯えているのかはよくわかりませんが、常に何かしらに怯えています。
しかしながら怯えてばかりでは生きていけないので、明るい物事によってとりあえず蓋をしています。
そうすると何となく大丈夫になって、きっともう大丈夫、だから大丈夫なのだと明るくなった気になるのです。
けれどもふとした拍子に蓋が外れ、中のものがこちらを見てきます。
なぜ蓋が外れるのでしょうか。蓋が軽すぎたのかもしれませんし、あるいは中のものが大きくなりすぎたのかもしれません。
しかしおかしいことに、蓋をしているものが肥大化するはずはないのです。
なぜなら蓋をしているのですから。
原子はひとりでに増殖するはずもないのです。増えるならば体積くらいのものです。
あるいは中にあるものは、腐敗しているのだろうと考えます。
腐敗しているならば、膨満したガスが飛び出しても不思議ではありません。
しかし、しかしながら、ちらりと見えたものは有機的に蠢いているようでした。
ならば生き物とも言えるのでしょうか。
あるいはそれそのものに、これまで怯えていたのでしょうか。
人間は理解を超えたものに恐怖を抱きます。
いくら考えても結論の出ないものはつまり、理解を超えているとも言えます。
中をきちんと覗き込みさえすれば、ともすれば怯えから逃れることができるのではないでしょうか。
何に怯えているのかもわからないのです。その根源に蓋をしたのです。
根源とは何であったか、理解できないのです。
発生の原因があるのであれば、中のものはそれ、あるいは類するものであるはずです。
楽しいことを思い出しましょう。そうすればまた蓋を閉じることができます。
重ければ重いほど封印は強固になります。
ただし中のものが有機的な生物に近いものであるならば、いずれは成長し蓋を持ち上げることでしょう。
そうするとより大きな重しが必要になり、だんだんと求められる重量が増えていきます。
常に幸福を貪るのは果たして、正常な状態と言えるのでしょうか。
怯えています。今は蓋の中のものに怯えています。
それ以外にも怯えていたものはたくさんあります。たとえば、無数に聞こえてくる音であるとか。誰かの口の中であるとか。脳に突き刺さるような巨大な有象無象の意識であるとか。
それらが集約されて生命を得たとするならそれはとてもおそろしいことです。
答えは中にあるのです。ならばなぜ見ないのでしょう。
あるいは、いいえ知っているのだと、ひとつの意見が言います。多数の可能性。多様性。客観的な視点。カメラはいくつも設置されている。
かわいそうな子犬が中にいるのです。おそれとは時にそういうものです。
怯えています。今は蓋の中のものに。
中を覗かないのはそれに怯えているからです。本当にそうなのでしょうか。
あの中身を知っている。
知っているのだ。
楽しいこと、嬉しいこと、明るいことを思い出します。大きな蓋ができたので、ぎゅうぎゅうに詰めて封印しました。
よかったね。これで大丈夫だね。
ひと仕事終えたとき、あたたかい声と拍手がするのです。
振り返ればやさしい人たちが、背中に手を添えて輪の中に招き入れてきました。
蓋からごとりと音がします。また大きくなった音がしました。
常に何かに怯えています。何に怯えているかはもはやわからなくなってしまいました。
まったくわかりません。まったくもって何一つ全然皆目これっぽっちもわかっていません。
だってこんなにも楽しいのです。大丈夫。大丈夫なのです。だから大丈夫に違いありません。

開設3900日だそうです

2017-09-19 | -2016,2017
空の隙間を縫うように
無数の小さな蠅たちが
葉と葉の間で飛び交っている
見上げるだけでは醜いものも
けして駆逐されはしない
地面を見ればさも当然に
死骸はごろごろ転がっているが
わたしもまた土に転がり
泥の層で呼吸している

心臓は蟻が動かしているし
声は蟋蟀の翅を借りている

小蠅よ、かれらの目の色は
なんと美しいものだろう
対しておのれの目の色の
なんと濁っていることか
天を仰げば下水にも似た
視線がわたしに降りかかる

美しいと呼ぶものは
いつでも叩き潰される
醜いと唾を吐くものは
いつでも諸手で褒めそやされる
心臓の蟻は働き者だ
なきがらが絶えずこぼれ落ち
ぽろぽろりいころ音を立てる

わたしは土のこちら側
あなたは天のあちら側
唾を吐けば天に棲まう怪物が
大きな口で心臓を食らう
スイミー、スイミー、かれらは強く
わたしはまるで塵芥
小心な蟋蟀は鳴くことをやめ
縋りついて天を仰ぐ
葉と葉の間を飛び交う小蠅は
おおきな落雷にみまわれて
わたしの頬へ落ちてきた

ゴルフに誘われそうです

2017-09-18 | 錯乱
自意識は遠い位置にあり
手を伸ばせどするりと逃げられ
わたしはただただ情動のままに
獣のように欲を貪る

(かつて恐れていた姿は)
(このような光景ではなかったろうか)

いいえ、いいえ、
自意識など遠くにあるのだから
わたしはただただ進むことのみ許される
手を伸ばすことさえ無駄なこと

(いつか息切れしてしまうよ)

手付かずの料理に嘆く母にも
大きく手を振ることさえできるだろう
わたしはかようにまともになった
こんなにもまともになったのだと!

(.)

腕をかきむしろうとまともなのだ
ことばが出てこないことこそ理想の姿
わたしはみなみなさまと同じように
情動を貪り喰らい喰らい喰らい喰らい

そう今こそが正真正銘真人間
ついに人間になれたのだ
さあ今こそが喜ぶ時だ
けしてベッドに倒れる時などではない

(.)

何をしている、今は期待に
胸を躍らせ叫び狂い時間も弁えず友に
連絡をとりともに喜びを分かち
合い涙を流し抱き合うべき


(遠ざけているのは)

近いうちには恋人とまぐわい夜を語らい
生涯を誓い子を産み横の繋がりに感謝し
子の成長とテレビを見守り種の存続を喜
び仕事にも精を出し命尽きるまで真人間

(あなたのほうではないか)

として生きる、
止まってはならない、
止まってはならない、
止まってはならない、

(自意識を遠い場所へ放り捨てたのは)
(あなたのほうではなかったか)

止まってはならない