暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

泥濘のプリズム

2013-01-31 | -2013
ガラス色の水玉が
ふわりふわりと落ち転ぶ
仲間がかれを呼んでいる
おいで、おいで
われらと一緒に泥になろうと
仲間がかれを呼んでいる

踏みにじられるこの世など
這いつくばらねば生きられぬ
業火を潜って時には浴びて
されども後退などは許されぬ

透き通った木の幹が
ざわりざわりと葉をのばす
仲間をかれは呼んでいる
おいで、おいで
わたしと一緒に屍になろう
仲間をかれは呼んでいる

聖らかな歌声を尊ぶ男たち
あらぶる神とまぐわう女
祈りと浄化の名の許で
撒き散らされる不浄のかたまり

照らされ虹は空を駆ける
されど目覚めは訪れず
透過は落ちて泥となり
透過は揺れて灰となり
無数の腕は手を招く
おいで、おいでと手を招く
水玉は泥の烏合と成り果て
木々は灰の堆積と化し
這いつくばってしまえばよいのだ
どのみち水は土に落ち
枝も灰も業火に燃える

後退すればかれがいる
顔もわからぬかれらがいる
虹は空を駆けてはいるが
空などくすんだ青い色
そ知らぬ顔をする衛星は
紛れもないほどまやかしだ

這いつくばればそれで良い
浮上を頭に被ったとして
また水玉は落ちてくる
右も左もわからぬ顔なら
中央もまた烏合にすぎぬ

楽園に巣食う

2013-01-25 | 
雪に似た塵がちらついている
きみはそれをきれいだと言って
あちら側へと引っ張っていく
吐き気は悟られるものでもないと
わたしはそれを知っているふりをして
なおかつ知らないふりをして
かがやく虚無の向こう側
塵の降りしきる向こう側へ
なんとはなしに流される

すばらしくきれいなものを見て
きみはほうとため息をつく
たとえようもなくすばらしい世界だねと
わたしは胃袋の痙攣を我慢して
ひとつきりの涙をこぼした
きみはうっそりと微笑んで
わたしの手を握りなおす
降りしきるのはほんとうの雪
そして狂おしい花びらたち

あちら側はこちらになった
こちら側は向こう側
蝶々の舞うこちらの楽園では
どうやら怪奇はないらしい
それを呼び起こす畏れさえ
わたしはきれいだきれいだと呟く
きみもきれいねきれいねと呟く
雪は積もり
花は枯れることなく死を撒き散らし
虫も獣も愛を育む

わたしはこらえきれない筋肉の痛みを感じながら
幼い頃を思い出す
まっさらな雪に足跡をつける喜び
濡れた地面に落ちた花を汚す喜び
蝶々の羽を透明にする喜びは
きっと下世話なものだと思う
だけれど思うことは簡単だ
わたしがきみといるように

世界はかくもうつくしいものかと
雪に似た塵を思い描く
きれいだきれいだ
卑屈なほどに

醜いものを許さない世界で
わたしは粘膜の塊を吐き出した
叫んで逃げ惑う人はなく
ただただこころやさしいまなざしで
わたしの罪を確固たるものへ変えていく
許されることで膨らんでいく
きみはわたしの汚物にまみれた手をとって
やさしく背中をさすってくれる
もう大丈夫だからと頭を撫で
吐瀉物は花びらと雪に覆われる
そう、それは汚いものだから
この現象なんて当たり前のこと

わたしはもういちど
きれいだと呟く
きみもまたきれいになったわたしの手を握り
きれいねと返す
わたしの涙は花びらがぬぐってくれ
わたしの足跡は雪が覆い隠してくれ
わたしときみとであちら側のこちら側
雪と花びらはいっそう強く降りしきる

幼い頃の歪んだ欲望
つまりそれは恒常的なもの
まっさらな雪と花びらの続く道
向こうでは塵でも積もっているのか
汚いものはけがれない
きれいなものもけがれない
けがれてしまうのは可変性で
つまりはそれこそこのわたし

雪が雪が降りしきる
塵でも灰でもないあたたかな雪
花びらが花びらが舞い落ちる
決して汚れない孤高の桜
積もり積もったきれいな世界で
きみはまだきれいねと言う
きみは何を待っているのか
それとも待っていないのか
きれいなきみはあるいは
待ち続けているのかも

きれいなものはけがれない
まっさらな雪に足跡がつくのも
それがきれいでないからだ
変わりのないきれいな世界
そこは何一つ変わりない
だって汚い可変性など
薄汚れた恒常性など
すっかり覆い隠されたから

善人は笑わない

2013-01-24 | かなしい
角も牙もなくなってしまえば
おまえは善き人でいられたのだ
何が悪いと言うならば
それを持って生まれたことと
それを持たせた神が悪い
おまえもわたしも誰もみな
あればあるだけ堕落するのは当然のこと
捨てることは容易くない
わたしもよくよく知っている

おまえはとても優しいのだね
だけれどそれは恥ずかしいことだ
だからおまえの靴の下で
いろんな虫がいたとして
ちっとも恥ずべきことはない
虫は虫で人は人
おまえはおまえでわたしはわたし
仕方のない
仕方のないことなのだ
おまえに足がある以上は

もっともっと強くあろう
おまえが穏やかでいられるように
わたしはとうに諦めたが
おまえはきっと捨てられる
そのためにもっともっと強くあろう
善き人は弱くてはいけないのだから

コカイン

2013-01-17 | 
Rydon、おまえの吐息は
腐りかけた林檎のようだ
草を燃やし、稲を棄て
なぜおまえは笑えるのだ

Rydon、あれほどまでに
皆が止めよと忠告したはず
おまえは愚鈍さを嘲っていたが
何よりもおまえの目に愚鈍は巣食っている

Rydon、わかっているだろう
どんなハーブもおまえを楽にはしない
ただただ奈落へ滑っていく
誰しもがおまえに失望している
もちろんおまえもまた同じこと

Rydon、わたしはもう何も言わない
香草がおまえを苛むなら
次は人類の叡知を称える番だ
愚鈍の先に見える光明も
稲を棄て、草を燃やしたおまえを助けない
おまえの墓を今から掘ろう
墓碑には何も刻まないから

褒賞

2013-01-07 | 暗い
君に笑いを与えよう
楽しむ心を引き換えに

君に涙を与えよう
ただし悲しさは代償だ

君に怒号を与えよう
代わりに怒りをもらっていく

たくさんたくさん与えよう
ひとつひとつを奪うけれど
君はたくさんのものを得る
私もたくさんもらい受けて
私は幸せな気持ちを得たが
君は楽しそうに笑っている

君が望むものすべて与えよう
すべてはイコールプラスマイナス

君が欲しいものならなんだって
値は欠けず人として欠けていくだけ

事象が重要だと思うのならば
君はもう立派な人格者だ

たくさんたくさん与えよう
与えきっても君は求め続け
その度に私は一つずつ奪う
君は笑うが楽しさをわすれ
いくら泣いても悲しまない
怒号をあげても心は空っぽ

私はとても満足している
なのに君はまだ求めるのか

君に満足を与えよう
全ての心を置き去りにして