暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

幻肢痛

2023-06-30 | 狂おしい
ごめんね
私は嘘をついたんだ
多分、君は知っている
私が嘘しかついていないことを
それでも謝罪しておきたいのは
君が知らない可能性に賭けてのことだ

ずっと想像をしている
頭の中にあるのはそれっきりだ
私はね
芋虫になりたかったんだ
美しい蝶になりたいわけではなく
芋虫になりたかったんだ
けれどこの言葉も虚飾だと言ったなら
君は私を見捨てるだろうか

見捨ててくれて構わない
ぜひそうしてやって欲しい
私の価値は私がきちんと知っている
私の真意は別のところにある
芋虫という表現は結果的な副産物だ

私は
私は無能になりたい
見捨てられてしまいたい
誰からも顧みられることなく
潰され淘汰されゆく無能になりたい
生物として不適格だと烙印を押されたい
けれど私はほら、有能じゃないか
誰も押してくれない烙印なら
自分で押してしまいたい

死にたいわけではないんだ
私は、死後の評価を恐れている
死後の評価は少なくとも君たちの中で
未来永劫固定されるある種の烙印だろう
今のまま死んだなら
もしかしたら私は 君たちの疵になり得る
私の価値は私がきちんと知っている
中途半端に有能なふりをしている私の咎も

優越感と劣等感にまみれたこの私が
自死という極めて理不尽な理由であるにもかかわらず
善人として未来永劫の疵となるかもしれない
私は君が好きだし君たちが好きだ
そして私に価値はない
私の価値を見誤られてしまうのが
それが最後の結果となるのが
私はとても恐ろしい

私は無能だ
私は無価値だ
人間として 生命として あまりにも
けれど優しい人間社会は実力主義だ
ともすれば私は評価さえ受けるよ
なんと優れた人物だろうと
だから私は名実ともに無能になりたい
両手両足を切り落として
その手足を食って生きながらえたあと
ふん尿を撒き散らしながら死ぬ最悪の芋虫がいい
蝶に成るだなんてとんでもない
ほんとうの芋虫にだって脚はあるんだから
私に彼らほどの価値すらないのは自明じゃないか

ずっと脳裏に居座るんだ
目玉を抉り、喉を潰して、鼓膜を突いて、鼻を削ぎ、歯を抜いて、舌を焼き
幻肢痛に呻く自分と、それを気にもとめない人々を
何食わぬ顔をして私の横を通り過ぎる君たちを
誰かにそうされたいわけでもない
そうなったら私は悲劇の主人公として
不特定多数にさえ疵を残しかねないからね
私はただ、そうありたいだけ
絶対にそうなることはない未来を幻視し続けているだけ
私の肉が腐敗するのを見ていたい
私という肉体が分解されるのを見ていたい
生物的な無能は自然界に何ら関係のないことだから

私は嘘をついていた
君は大切だ
君たちは大切だ
それは真実だと言ったなら
君は私を疑うだろうか
大切だけれど 私は いつも
君たちが私を大切にしてくれている可能性に
打ちひしがれてしまっている
そして私は ときどき
それを隠せない時がある

私の嘘はどうだったろう
君は
私を見捨ててしまうだろうか
見捨ててくれていいんだ
私の価値は
私がきちんと知っている

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2023-06-29 | 自動筆記
群発してなりやまぬ思考の塊が
同時多発ではないが極めてそれに近い速度で
瞬間的に点在しては閃いて
収束を見届ける間もなく
やがて衛星には程遠い思界では
観測不能になっていく
それらは私という観測者のもとに
存在を確かに認められているが
しかし客観性事実というものは
第三者という私以外の観測者なくしては及ばず
これはあくまで私的な認識に過ぎない
口を噤む限り事実は事実にはならない
手のひらから無限に砂が生まれているようで
砂は固めねば砂のままにしかなりえない
比喩ならいくらでも思いつく
全ては繋がっていると表現するのは容易い
しかし実際には
言い当てるための的を見いだせていないただの無能
生まれるばかりで制御がきかない
ブレーキが時々壊れてしまう
生存の境界線を考え続けている、
正常も異常も善と悪とは何の相関もない
言葉はただの言葉に過ぎないが
そもそも群発するこれらは五感のいずれに当たるのか
正しい言葉
正しい言葉を探している
つまるところこれらの言語と思考の爆撃は
無益なトライアンドエラーに他ならず
性能の悪さが露呈された結果に過ぎない
ブレーキの壊れた車に誰が乗りたがるだろう
爆心地に誰が近寄りたがるだろう
けれども私は降りることもできなければ
そこから離れることもできない
しかし口を噤む限り事実は事実でないのなら
暴走する車はなく
星は落ちることもなく
爆心地は存在しない
破壊によって生み出される創造を
手を動かすだけで得られる報酬系の充足を
破滅を願う生産活動を
車の上でおこなっていれば
第三者という観測者は
それらを正しいと
善であると裏付けるだろう
客観的事実とは
所詮ヒトというたった一種によって依拠される
利己的な価値の納得のために過ぎないのだから

誰かを重ねて

2023-06-25 | 暗い
海へ行きませんか
今ならきっと凪いだ海へ
波打ち際のレース模様が
風にたなびくくるぶし丈の
あのひとのスカートを思い出すから

海へ行きましょう 海へ
朝でも夜でもいいんです
潮騒の音を聴いていれば
まだ何も考えず笑っていられた
あの頃に帰った気になれる

海で落ち合いましょう
あなたがそんなに
海が嫌いと言うのなら
私は私で向かいますから
後からついてきてくださいね
約束しましょう

海で待っています
わたしの贈ったスカートは
あなたの脚によく似合う
細いくるぶしによく映える
波打ち際で待っています
約束しましたから