暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

無言の合唱

2012-08-27 | -2012
今日、私は
虫を殺しました。

そんなつもりではなかった。

机の上にいたその小さな小さな虫は、
何かするには邪魔だったので、
そっとすくって別の場所に置くつもりでした。

だけれど汗ばんだ私の手は、
無事すくうことができた虫を張り付かせたようでした。

別の場所にとやった時、
小さな虫の尻がつぶれてしまいました。

どうにかしようとしたら、
今度は羽がちぎれてしまいました。

足を空にもがかせる虫。

助からない虫ならば、
殺してしまうしかないのだと感じました。

虫がかわいそうだというつもりはありません。

私が、その責任を負うべきだと。

罪を感じるべきだと思いました。

つぶすための紙を見つけたとき、
虫はもう動かなくなってしまいました。
たったの数秒で、
虫は息絶えてしまい、
私はごめんねと言いながらそれをつぶすしかありませんでした。

窓を開けた私の部屋には、
たくさんの小さな虫が飛び交っています。

彼らは何の警戒心もなく、
私のそばを歩き、羽を休めています。

私はそんな虫たちを裏切った。

敵ではないという顔をしておきながら、
あっさりとその命を奪ってしまった。

かわいいかわいい、白い羽虫。

紙にへばりついた無惨な死骸は、
思ったよりも白くありませんでした。

無い

2012-08-18 | -2012
三人が二人になった
二人でも笑うことはできる
それでも二人分の幸せ
もう一人はどこへいったのかと
知っている頭は考える
どちらもそれを口に出すことはしない
時にはもう一人の思い出を語るけれど
寂しさを共有すれば三人分の
悲しみがやって来る

いずれ二人も一人になる
それは気が遠くなるほど不透明で
やはり考えることに蓋をする
からっぽだと思うのはまやかし
二人のあいだには確かな関係がある
それは決してからっぽではない
もう三人分を味わうこともない

一番悲しいのはきっと最後の一人
もう知る術はなくなってしまった
悲しいと思う間もなく 跡形もなく
消え去っていればどれほど幸せで
どれほど苦しいことだろう

嗚咽は一人で漏らし続け
二人の喜びだけ貪って
離別を恐れて片割れを求める
最初から恐れていれば
最初から離れていなければ
最後まで引き止めていれば
血が出るほど殴っても構わない
それでもう一人がここにいられたなら

あのときは楽しかったと
過去を思い出す会話が増えていた
決して二人で不幸ではないし
二人でも笑い合う気持ちは正しい
知らず過去を見ているのでは
教訓は生かされることもないだろう
二人から三人には増えない
減ることはあっても
決してもう一人が増えることはない
空いた席には花を添え
まるでいもしない三人で共有するように
中途半端な空白を埋める

最初から恐れていれば
最後まで引き止めていれば
あのとき
冗談を冗談と思わなければ

わからないよ

2012-08-05 | 錯乱
挨拶しない人は嫌いです。
挨拶しても返さない人が嫌いです。
私は想像をします。
にこにこしながら。

やかましい音は嫌いです。
有象無象で立てる音が嫌いです。
私は考えます。
にこにこする目を見つめながら。

あなたたちはどうして、
そんなにも無益に楽しそうなのでしょう。
考えることもなく、
嫌なものを見過ごして、
嫌なことに唾を吐いて、
なぜそうやってにこにこしていられるのでしょう。
私もにこにこしていますね。
だから私もあなたたちと同じなのです。
あなたたちとおんなじばけものなのです。
気がつけば根は骨の髄まで、
寄生して花を咲かせました。
鼻につく臭いにつられて、
今日もたくさんのあなたたちが寄ってきます。
わたしも寄ってきます。

だけど私は口を開けてものを食べはしないし、
できているかどうかはわからないけれど相手が退屈しないよう聞いたりしゃべったりを考えているし、
挨拶は少なくともされれば返すし、
そうやってつけこまれてもそれを理解したとしても気にはしません。
嘘です。
本当はたくさん想像します。
口だけの歩く椰子の化け物たちが、
どうでもいい飾りに躍起になって、
おったてた性器を見せびらかすように隠しながら、
ごてごてといらないものをつけるくせに、
そのくせ果汁さえ入っていない、
根っこを動かすこともできない、
そう想像するから私はにこにこできるのです。
香水の匂いよりも、私は、
食べ物の臭いのほうがこわいのです。
あれらは私たちに食べられるからこそ、
私たちを殺すことができる、
しかも誰も考えやしない。
誰も誰も誰も考えない。
口を開けて食べて、
ざわつく狭い箱のなかで私は折り重なる飾られた死臭に、
それをおいしそうだと考える自分に、

だけれど理解もしています。
私はその実化け物たちにさえ劣るのだと。
腕は細く頭でっかちで、
なんにもできやしない、ただ害にもならない毒を吐き出すだけの、
あなたたち化け物にさえ憐れまれるような、
とてもとても醜いものだということを。
私はにこにこしているけれど、
あなたたちをまんべんなく殺してしまいたい。
泣きわめく姿を見ながら、
丹念に丹念に外側から削って、
罪深さを噛み締め死にそうな焦りと恐怖を味わいながらにこにことしていたい。
だってあなたたちは忘れているからこそ気付いていないからこそ、
むやみに騒ぎ立てては小さな箱庭を大切にしているのでしょう。
私はとても羨ましい。
そしてとても許せない。
毛が生えていなければ悲鳴をあげ、
毛が生えていても疎ましい顔をし、
知った顔には見栄を張って、
知らない顔を無視し続ける。
一人でさえも携帯にすがりついて、
誰かといればやかましく騒ぎ立てて、
好きなものの本質を知りもせず、
嫌いなものを見ようともしない。
きれいなものは諸手をあげてとびついて、
きたないものを軒並みゴミ箱に押し込み、
私にはいい顔をするくせに、
あの子に向ける視線は侮蔑。

あなたたちを生かすすべてを知りもせず、
ただただ正直に無益ににこにこと笑うのでしょう。
たったの一言であなたの隣にいた、
醜くとも心優しい蛙は死んでしまいました。
あなたが唾棄したことがらも、
本当はもっと幸せであったはずなのに。

私はあなたたちが嫌いです。
化け物じみた想像のあなたたちも、
現実のお優しいあなたたちも嫌いです。
だけれど私はにこにこと笑うしかありません。
あなたたちをおそれる私こそ化け物なのですから。
あなたたちに悟られぬよう不粋な想像で自らの欲を昇華しようと躍起になっている、
私こそあなたたちの最も嫌悪するぬらぬらとした毛のない毛の生えた化け物なのですから。

どうしても悪くないと言いたかった

2012-08-04 | つめたい
連なるように思いはこぼれた
あなたの残した爪痕は
まだまだ癒えることはない
それを愛しいと思っているなら
私はなんと無知なのだろう

そう、あなたは
私など歯牙にもかけやしない
私もまた一番大切なものは
この爪痕であるはずもなく
乾いた風はやんだけれど
ずいぶん湿った雨が降る

なぜ泣くのかと言うあなたは
ひどく戸惑い苛ついていた
無慈悲な牙が肌にめり込み
冷酷な爪が肉を裂く
私が抱いていたこの思いは
あの時でさえも不可解だった

こぼれた思いはぐずぐずに融けて
嫌な臭いを立ち上らせる
きれいなものなどとうの昔に
自分で汚してしまったけれど
あなたの醜いものも一緒に
押し付けられるのが嫌だった

思い出して愛しいなどと
きっとあなたは考える
賢しくなった頭を持てば
符号もきっと理解するはず

あなたの残した爪痕は
私が覆い隠すべき恥部
洗い流したい汚点
私が泣いている理由など
どうせいまだにわかりやしない
どろどろ融けた連なる思いも
それが私のすべてというだけ

心が失せてしまったよう
あなたのせいではないにしろ
引き金は大きな爪痕にある
だらだら流れる静脈血に
乾いた風はやんだけれど
なまあたたかい雨が垂れる

のゆくすめ

2012-08-02 | -2012
落ち葉の下で
君は口を開けている
僕はこわくて土をかぶせた
そうすると君は笑った
「さあもっと土を」
夜に僕は君を埋めて
昼の間に君はゆっくり咀嚼をする
そうしてまた帰ってくれば
君は大きな口で僕を迎える
哀れなねずみもちょうちょうも
土と落ち葉の下の君へと
僕は懲りずに君を埋め
君は愚鈍な僕を笑う
「それでは死なないもっと殺せ」
僕の小さな庭の片隅
大きな口で僕を待つ君
うっかり足を滑らせた子供は
もう二度と歩けやしない
がじり、がじりと音が聞こえる
君は僕に見せつけるように
土以外はみんな吐き出す
ぐちゃぐちゃの骨と肉はまるで
新しくできた君の死体
君の死体
「おいでおいで土をおくれ」
土と唾液にまみれた嘔吐物
それらは生きていたものだったんだ
命のないものは食べるくせに
小さな虫さえ許さないのか
口を開けてただ笑う君は
君自身を作れるほどに咀嚼して
今は彼らの塊は分解を辿っている
魂なんてありはしない

落ち葉の下で待ち望む君
日に日に君が増えていく
ごきりぐしゃりと聞こえても
ぼくは落ち葉を眺めるだけ
「土が欲しい土が欲しい土が欲しい」
昼も夜も君は口を開けている
むしゃむしゃしては吐き出して
狂ったように求めてくる
僕はただ明日の天気を心配して
小さなとかげに餌を与え喜び
夜の虫たちに耳を傾け
隣の犬の鳴き声にうんざりしながら
面倒だからと朝御飯を抜いて
ときどき窓の外を見下ろしてみるけれど
君がいるのは反対側だから
それでもいつだって声が聞こえる
いやないやな音が突き刺さる
脱走した小さなとかげが
虫たちの新たなすみかになった

「醜いなあおまえは本当に醜い」
君はとかげを吐き出して言った、
わたしが醜いだなんて笑わせる、他人を嫌うお前もまた糞尿を食らい無駄な命を生かし戯れに生き物を飼って無責任に他人を責めては毎日を無為に過ごしわたしという卑下すべき対象を無視することで優越感をおぼえながら糞尿を食らい糞尿をひりだしわたしにそれを投げつけて笑ってお前はわざと泣いてみせありったけわたしを馬鹿にしながらいらなくなったものやわずらわしいものを軒並みわたしによこしまた憎み安堵し錯覚し優越感を抱き歪み悲しみ蔑み嘲笑い続けてお前お前お前、
なにもかもお前が見たまぼろしと、
なにもかも都合のいいおとぎばなし、
「土が欲しい土が欲しい土が欲しい」
久しぶりに見下ろした君は
何一つ変わってはいなかった
僕はでもね
とかげを大切にしていた
だって彼は僕が死ねば
一緒に死んでくれるから
君はいつでも変わらないまま
土を食べようが食べまいが
ずっと大きな口を開けている
ただ気持ちが悪いだけの君を
僕はどう思うのが正しいのだろう

土なんてありはしない
あるのは落ち葉ばかりだから
君は排泄することもない
食べたものはどこへもいかない?
それなら君はやっぱり醜い
他のどんなものよりも
そして君はどこまでも汚い
君が吐き出したものこそ君の汚物だ
君が負うべき細胞の代償だ
あるはずのない魂の恨みの形だ
何よりも僕が抱く君への嫌悪だ
「お願い土をください土を土をあなたの」
落ち葉の下で大きな口を開け
君は僕の土を吐き出しているんだ
ここに土なんてない
あるのは汚物と汚物と汚物と僕
とかげはどうして先に死んだのだろう
僕がいなくなって苦しみながら死ねば幸せだった
死んだ、死んだ、みんな死んだ
みんな死んでしまえたならどれほど
どれほど簡単なことだろうか
子供も、犬も、みんなみんな
君が咀嚼してしまったよ
僕の価値はただそれだけだった
目がずいぶん痛むんだ
たくさんいろんなものを
見すぎてしまったから

「土が欲しい土が欲しい土が欲しい」
君は大きな口を開けて
じっくりとじっくりと土を食べる
たくさんの君の分身は
落ち葉と一緒に分解された
君の望みはわかっている
だけど僕は
とても目が疲れてしまった
君のことを見るのも億劫なほど
それに僕は
同じく耳も疲れてしまった
君の声はいつだって同じ
あの犬の鳴き声のように、
明るく笑っていた子供のように、
閉じ込められたとかげのように、
疲れたんだ
僕は土を買ってきた
たくさんの土を買ってきた
「土が欲しい土が欲しい土が欲しい」
僕は醜く愚かなんでしょう
だから僕にはわからないんだ
君の言葉の真意なんて
僕の気持ちの裏側なんて
「やめて」
だって気味が悪いじゃないか、
庭に君が口を開けているなんて