暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

思い出してしまった

2017-10-25 | -2016,2017
たとえば、誰かが私を見ていたとき。
涙を流す私を見ていたとき。
光を嫌う姿を、
聖人君子のように仕える姿を、
誰かを見ていたその視線を見ていたとき。
私はよくよく理解していた、
ただ蓋をしていただけで。
私はかれらを怪物と称していた。
ほんとうの異物は、怪物は、
他ならぬ私に違いないと。
誰かが私を見つめる視線は、
まるで異物を見るようだ。
私は人間ではない、私は
淘汰されてしかるべきなのだ。
蓋をしていた、忘れていた、
忘れているふりをしていた。
なぜ生きているのだろう、
人間の皮をかぶってまで。
私には確かに、誰かはすべて、
まるで怪物のように見えている。
だがそれは私の見方でしかない。
私は紛れもない一個の異物で、
排除されてしかるべきなのに。
生きてていいよと言われるたび、
おのれが人間でないことを思い知らされる。
許可されねば、私は、
生きることさえ許されないのだと。
優しい社会は泥の形をして、
気道をじわじわと塞いでいく。
うまくできているでしょう、
なんだかんだやってきたけれど、
私は正真正銘の人間です、
高いところから出ていた声はひび割れて、
蓋はたやすく割れてしまった。
私が私であるのならば、
私は私でないべきだ。
空隙を、隔たりを、
ただただ思い知らされるだけならば、
なぜ生かされているのだろう、
なぜこうまでして、
人間のかたちをまでして、生きねばならないのだろう、
そう思い知らされるだけならば。
私は私でないべきだ。
そうある道を選んだ以上は。

振替輸送

2017-09-22 | -2016,2017
罪のない善良な羊たちが
のろのろと群れをなして歩いている
歩むべき道を忘れ
従うべき導を忘れ
罪のない善良な羊たちが
のろのろと群れをなして歩いている

そう、彼らは
善良なのだ
なぜなら彼らが
そう言っているのだから
羊の社会では羊こそが善とされ
羊以外はそうでないものと看做される

彼らの仲間がいま
車輪に飛び込み死んでいった
それはもはや羊ではないのだ、
口々にそうでなくなったものを囃したて
羊たちは今こうして歩いている

めえめえと口々に鳴きながら
彼らは死んだ羊を覗き込み
大きな口を歪ませる
見よ、羊たろうとしない者は
かくも愚かに死んでいくのだ
ああ、なんとかわいそうなわれらが羊よ

なれば哀れな善良たるわれらは
庇護されて然るべき、
歩むべき道を忘れようと
従うべき導を忘れようと
われらは庇護されて然るべきだ
のろのろとめえめえと群れをなす
群れであるなら安全だ
羊であるなら善良だ
善良でないなら羊ではない
そうしてかれらの善良さは保たれる

断崖に飛び降りることはしない、
一匹の山羊につられるようなこともない、
なぜならわれらは羊ではなく
善良なすこやかな人間であるからだ
そうしてかれらは道を外れ
多数決の善に酔いしれながら
かよわきそれ以外を踏み潰すのだ
誰が踏み潰したのかもわからない
ならば誰にも罪はない
潰れたそれらは紛れもなく
人の形をしている

こわくないよ

2017-09-19 | -2016,2017
何に怯えているのかはよくわかりませんが、常に何かしらに怯えています。
しかしながら怯えてばかりでは生きていけないので、明るい物事によってとりあえず蓋をしています。
そうすると何となく大丈夫になって、きっともう大丈夫、だから大丈夫なのだと明るくなった気になるのです。
けれどもふとした拍子に蓋が外れ、中のものがこちらを見てきます。
なぜ蓋が外れるのでしょうか。蓋が軽すぎたのかもしれませんし、あるいは中のものが大きくなりすぎたのかもしれません。
しかしおかしいことに、蓋をしているものが肥大化するはずはないのです。
なぜなら蓋をしているのですから。
原子はひとりでに増殖するはずもないのです。増えるならば体積くらいのものです。
あるいは中にあるものは、腐敗しているのだろうと考えます。
腐敗しているならば、膨満したガスが飛び出しても不思議ではありません。
しかし、しかしながら、ちらりと見えたものは有機的に蠢いているようでした。
ならば生き物とも言えるのでしょうか。
あるいはそれそのものに、これまで怯えていたのでしょうか。
人間は理解を超えたものに恐怖を抱きます。
いくら考えても結論の出ないものはつまり、理解を超えているとも言えます。
中をきちんと覗き込みさえすれば、ともすれば怯えから逃れることができるのではないでしょうか。
何に怯えているのかもわからないのです。その根源に蓋をしたのです。
根源とは何であったか、理解できないのです。
発生の原因があるのであれば、中のものはそれ、あるいは類するものであるはずです。
楽しいことを思い出しましょう。そうすればまた蓋を閉じることができます。
重ければ重いほど封印は強固になります。
ただし中のものが有機的な生物に近いものであるならば、いずれは成長し蓋を持ち上げることでしょう。
そうするとより大きな重しが必要になり、だんだんと求められる重量が増えていきます。
常に幸福を貪るのは果たして、正常な状態と言えるのでしょうか。
怯えています。今は蓋の中のものに怯えています。
それ以外にも怯えていたものはたくさんあります。たとえば、無数に聞こえてくる音であるとか。誰かの口の中であるとか。脳に突き刺さるような巨大な有象無象の意識であるとか。
それらが集約されて生命を得たとするならそれはとてもおそろしいことです。
答えは中にあるのです。ならばなぜ見ないのでしょう。
あるいは、いいえ知っているのだと、ひとつの意見が言います。多数の可能性。多様性。客観的な視点。カメラはいくつも設置されている。
かわいそうな子犬が中にいるのです。おそれとは時にそういうものです。
怯えています。今は蓋の中のものに。
中を覗かないのはそれに怯えているからです。本当にそうなのでしょうか。
あの中身を知っている。
知っているのだ。
楽しいこと、嬉しいこと、明るいことを思い出します。大きな蓋ができたので、ぎゅうぎゅうに詰めて封印しました。
よかったね。これで大丈夫だね。
ひと仕事終えたとき、あたたかい声と拍手がするのです。
振り返ればやさしい人たちが、背中に手を添えて輪の中に招き入れてきました。
蓋からごとりと音がします。また大きくなった音がしました。
常に何かに怯えています。何に怯えているかはもはやわからなくなってしまいました。
まったくわかりません。まったくもって何一つ全然皆目これっぽっちもわかっていません。
だってこんなにも楽しいのです。大丈夫。大丈夫なのです。だから大丈夫に違いありません。

開設3900日だそうです

2017-09-19 | -2016,2017
空の隙間を縫うように
無数の小さな蠅たちが
葉と葉の間で飛び交っている
見上げるだけでは醜いものも
けして駆逐されはしない
地面を見ればさも当然に
死骸はごろごろ転がっているが
わたしもまた土に転がり
泥の層で呼吸している

心臓は蟻が動かしているし
声は蟋蟀の翅を借りている

小蠅よ、かれらの目の色は
なんと美しいものだろう
対しておのれの目の色の
なんと濁っていることか
天を仰げば下水にも似た
視線がわたしに降りかかる

美しいと呼ぶものは
いつでも叩き潰される
醜いと唾を吐くものは
いつでも諸手で褒めそやされる
心臓の蟻は働き者だ
なきがらが絶えずこぼれ落ち
ぽろぽろりいころ音を立てる

わたしは土のこちら側
あなたは天のあちら側
唾を吐けば天に棲まう怪物が
大きな口で心臓を食らう
スイミー、スイミー、かれらは強く
わたしはまるで塵芥
小心な蟋蟀は鳴くことをやめ
縋りついて天を仰ぐ
葉と葉の間を飛び交う小蠅は
おおきな落雷にみまわれて
わたしの頬へ落ちてきた

需要と供給

2017-07-04 | -2016,2017
私は望むわたしであろうとした
あなたはご満足いただけただろうか
顔をのぞき込む私に唾を吐いて
汚いことばを浴びせるあなた
謝れど謝れど貴方の炎はとどまらず
涙を流す私をせせら笑う
あなたの望むように振舞ったのに
まだご満足には足りないという

何なら氷上を裸足で踊ろうか
燃える石炭の風呂に入ろうか
のたうつ電線に飛び込もうか
どの高さから飛び降りようか
いつものように殴られようか
どこで土下座をすればいいか

何かが悪い、その答えを
あなたは決して教えてくれない
望むわたしであろうとした、
あなたは何を望むのか
死ねと言われるなら死んでみせよう
縄を用意する私を一瞥して
そうしてあなたはまた殴る
原型などとうに忘れた私の顔は
もはや傷ついてもわかりやしない
死さえあなたの望みでないなら
私は何になればいいのか
不出来さに涙を流して謝罪して
足にすり寄り爪先を舐める
顎を蹴りあげられてなお答えはなく
あなたは嘲笑で応えてくる
望まぬわたしなど私ではない
あなたは、なぜ、何も望まないのか、
(わたしは、)
そうだ今度は熱湯を
頭からかぶってみせようか
目の前で犬に犯されようか
罰を受けねばならないのなら
いくらでも罰を受けるのだと
歪んだ顔で微笑む私に
また唾が降りかかる
わたしは、なにも、望まれず、
ならば、
(私である必要は、)

ヤク中

2017-06-27 | -2016,2017
メロディを静かに口ずさむ
まるででたらめな旋律を
静かな部屋に反響して
それはとても心地がいい

僕はどうしてしまったのだろう
体がひどく汚れている
嘔吐しながら床じゅうを
転げ回ったかのようだ

茶色く濁った水を出し
浴槽に深く深く沈み込む
胃液と油が水面に浮かび
泡が体にまとわりつく

けれども僕は心地がよく
(ああ人生はかくも素晴らしい)
灼けた喉で口ずさむ
(何も探さなくていい)
水底の有機物をかき回し
(何も考えなくていい)
希釈した汚物で髪をすすぐ
(死すら阻むことはない)

汚泥で僕の体は濯がれた
垢もまるきり流された
僕はどうしてしまったのだろう
澱がすべて消えたかのよう

まるででたらめな旋律は
脳にじわりと突き刺さる
心地よい浮遊感に苛まれ
びしゃびしゃと胃液が水面を揺らす

ああなんて幸せなのか
(腸は暴れ、胃はもんどりうっている)
まぶしい光も昏い陰も
(ひどく頭痛がし、悪心はとどまることを知らず)
僕はすべてを祝福しよう
(目と耳と鼻と口からは汁が滴る)
死すら阻むことはない
(蹴っているのは床か壁か)

歌はますます調子はずれで
もはや僕の意志とは関係がなく
痙攣を起こし溺れながらも
祝福のメロディを口ずさむ

汚物を汚物で濯いでいく
胃も肺も祝福の秘蹟をたどる
最後のひと息を吐き出してなお
旋律は僕を祝福している

原点回帰

2017-05-22 | -2016,2017
わたしはにんげんになりたかったのです。
当たり前に日々を暮らし、
他愛もない話に興じ、
色恋沙汰に心をうわつかせ、
仕事をきちんとこなすような、
あたりまえのにんげんになりたかったのです。

そのためには今のままではいけないと感じました。
尽きない泥を掬っては壁に投げつけている、
心を疲弊させては喘ぐ今のままでは。
わたしにはにんげんたる資格がない、
精一杯な日常をいとなめるような、
創作にのめりこむあまり食事もろくに摂らず、
痩せこけながら、妄想をとりつかせながら、
呪いをかけた心のままではいけないと。

休むこともせず、勤勉にはたらき、
人の会話をすこやかに聞き、
すべてを肯定して生きるのだ。
そのためには創作を、
ある程度捨てる必要がありました。

わたしはにんげんになれているのでしょうか。
何をもってしてにんげんであるのか、
わたしにはいまなおわからないのです。
ときどき、わたしの称するかれらにんげんが、
おぞましい怪物に見えるのです。
わたしはこれになりたかったのでしょうか。
吐きそうになりながら会話を聞いています。
にこにこと笑いながら、おそれおののいています。
当たり前に日常を過ごしていても、
非日常にばかりのめり込んでいることに気付きます。

わたしは怪物になりたかったのではない、
人間になりたかった。
かれらもまちがいなくにんげんであるはず。
だけれど、わたしは、
わたしのなかの人間とを履き違えていたことに、
あまりに遅く気付きました。

ひとを最初からばかにするような、
特徴だけで善悪を決めてかかるような、
そのようなひとたちをにんげんとするならば、
わたしはきっと一生、かれらにとってかいぶつに見えるのかもしれません。

わたしは人間になりたかったのです。
ことばは、わたしを、人間にしてくれる。
あるいは、わたしが、かいぶつになりたがっている。
わたしは、人間になりたいのです。

冬に死んでいく

2017-03-28 | -2016,2017
肌の突き刺す朝を超え
雪も溶けだす昼を超え
またしんしんと冷えいる夜
おまえはどれほど寒かったろう

臓腑が凍えてしまったのか
ふくよかな尾はあっという間に痩せこけて
腹は膨満しているという
おまえはどこを見ているのだ

手のひらにたやすく乗ってしまうほど
おまえは変わり果てて小さくなった
寒かったろう、苦しかったろう
もはや知る由もなく

緩解していく、春が来る
それでも夜はいまだになお
しんしんと爪先を刺してくる
おまえはどれほど寒いだろう
狭く暗い箱はどれほど
おまえを凍えさせているだろう
はんぶん開いた眼の先は
わたしには何も見えないのだ

理解できない

2017-01-18 | -2016,2017
あなたはかつてわたしに言った、
あなたはひとりではないと
みんな同じ人なのだと
寄り添えば温もりを感じるのだと

寄り添いながら、歓談しながら、
いっそうの惨めさに満たされる
温もりは物理的なものに過ぎず
かえって凍えそうになりさえする

楽しくお話をしよう
何でもないことに笑いあおう
一緒に何かを見聞きして
肌と肌を重ねよう

あなたは幸せそうに笑い
わたしは愛想笑いをする
膜はどうあっても破れはしない
あなたがそれを感じないように

幸せに涙をこぼす
なぜわたしは、それらすべて
享受することもできないのかと
温もりが惨めさを募らせる

みんな同じ人なのだと
膜を隔てた声が聞こえる
寒々しい空気に刺され
しんしんと臓腑に突き刺さる

拒絶しているとあなたは言う、
わたしは愛想笑いを返している
温もりが増そうと消えようと
わたしはしょせん人ではない、
あなたの知っているような
優しき人にはなりえない

闘犬になりたい

2017-01-09 | -2016,2017
気がつけば壇上に立ち
踊れと囃し立てられている
ぶざまな踊りに手を叩き
倒れる姿に腹を抱え
すごすごと逃げ去る姿に野次を飛ばし
ああなんと楽しかったのだと
誰しも口々に賞賛していく

たとえば後ろから抱きしめられたなら
わたしは醜く暴れるだろう
たとえば好意を寄せられたとして
わたしは噛み付く他に術など知らず

壇上から降りることは許されず
今度は戦えと囃される
肉の引き裂かれる音は
さぞや心地よい子守唄だろう
ありがとう、ありがとうと口にするのだ
たとえ顎が砕けようとも

たとえば優しいキスをもらえたなら
わたしは忌まわしい唇に噛み付くだろう
たとえば呆れ遠のくのなら
わたしはよりぶざまに踊るだけだ

悲しみの涙は誰かの糧になり
怨嗟の声は誰かの共感を得る
怒りに踏み鳴らす足は誰かの拍手を呼び
絶望は誰しもの喜びになる
踊れ、踊れ、曲はすでに始まっている
気がつけば壇上に立ち
転んで挫いてくずおれて
踊れ、踊れ、皆の声を求めるのなら
泣くのも笑うのもわたしのもので
彼らのものにはなり得ない

たとえば壇上にのぼってきたなら
わたしはその者を殺すだろう
たとえば壇上から引きずり落とされたなら
わたしはもはや価値もないのだ