暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

うつろう

2019-10-02 | -2018,2019
しあわせそうにうごめくものよ
おまえの口は喋るためではなく
食らうためにのみ開かれるだろう
おまえの手は愛するものを
虐げるためについてはいまい
おまえの足は這いずりまわり
さまようためにのみ動かされるのだ

獣がかなしみを感じるとするならば
おまえに抱くべき心はない
虐げたものたちより更に下へ
落ちたことを喜ぶがいい
しあわせそうにうごめくものよ
永遠はおまえにどううつろうか

何も考えることはない
脳もしょせんは肉の塊
これは救いにほかならず
おまえによくよく似合っている
謗りを受けども声は届かず
報いを受けども心は響かず
心もしょせんは肉の塊
おまえは毎日生まれて落ちる

口は心をとなえるために
手は愛するものを抱くために
足は土を踏みしめるために
脳は悔いてあがなうために
心は祈りをささげるために
時は罪をつぐなうために
すべてを奪われたおまえはなんと
しあわせなしあわせないきものだろう

これを報いと呼ぶのなら
おまえはきっといまより前には
さぞや潔白だったのだろう
だが前などもはや無い
何も知らず朽ちもせず
永遠をおまえはうつろうだろう

悪意の壺

2019-09-05 | -2018,2019
落窪んだ蠱毒の穴に
指を入れれば腐り落ち
身を投げた尊ぶべきひとは
都合が良いと誹られる

なんて善き人々だろう!
自らの身を挺してまで!
我らを救けてくれたのだ!
彼らの犠牲をたたえよう!

剥き出した骨は洗われもせず
次の穴を満たす水が
水たる証拠を待ち望まれる
浸された足首の鎖は落ち

私にできないことをして、
ああなんと素晴らしいひと、
あなたがいるから私はこうして、
五体満足でいられるわ。

指が落ちれば次は腕
腕も消えれば次は足
足も溶けたら次は鼻
その次、次を、次を

なぜ苦しそうな顔をするの?
どこへ行こうとしているの?
誰に助けを求めているの?
あなたは我らの救い主

誰にも出来ないことを成す
尊い人は消費され
賛美歌が朗々と歌われる
臓腑の欠片が配られる

かの者の死を讃えるべく
地中深くへ埋められた棺は
骨も肉も髪の毛さえも
一片の細胞片すら残されず

なんて善き人々だろう!
尊い英霊をけして忘れず!
毒は毒だと証明された!
血肉は皆の一部となった!

いつか染みゆく巫蠱の毒よ
骨身を臓腑を食い破れ
尊い人はすべての者に
等しく与えられるべき称号だ

壺の中の毒虫は
いつの間にか消えている
善き人々よ、あなたはいずれ
英霊の道を辿るだろう

黙祷

2019-07-29 | -2018,2019
大切な人を亡くしたとき
あなたはこう言うだろうか
彼はきっと天の上から
こちらを見守っているのだと

私に彼の者の姿は見えない
与り知らぬ誰かにとっても
姿を見ることはないだろう

天上へのぼる彼の姿は
あなたにしか見えないものだ

彼の庇護を感ずるべくは
あなただけに齎されるものだ

誰かはきっと言うだろうか
彼が天から見守っていると
あなたをきっと見守っていると

彼を知らない誰かのことばで
たとえあなたが救われるとしても
私は救いの言葉を口にはしない

いつか大切な人が喪われたなら
私の天には訪れるだろう
彼の 彼女のまぼろしが
それは私だけに視えるものだ

あなたの天はあなたの上にあり
私の天は私の上にある
それ以外にはどこにもない
天はあなただけのものだ

だから私は口にはしない
どうかあなたの天上が
眩いものでありますようにと
黙して祷る以外には

わたしだけの虹

2019-07-22 | -2018,2019
健やかに生きる君よ
君に綺麗なものだけを
見せていたいと思うのは傲慢か
ガラス玉のその心を
汚さずにいたいと思うのは独善か
純粋に生きている君よ
跳ねた泥さえ許したくない
泥を作ったそいつを殺して
ついた血糊を洗うのは私
そうして護っていきたいと
心から願うのは欺瞞だろうか

澄んだガラスは光を通す
きらきらとプリズムを乱反射させて
新雪を汚したがる輩は君を
穢す喜びの贄にしたがるだろう
私は君を育むためなら
いくらでもいくらでも骨身を穢そう
その虹色に輝くスクリーンを
少しでも長く見ていられるのなら
もしそのためにほかの生き物
すべてを殺さねばならないのなら
私はそれらを滅ぼしてやりたい
そして最後に残ったいちばんおおきな
穢れをこの手で消し去ってやりたい
健やかに生きる君よ
はらはらと落ちる涙はさぞや
美しく私の肌に落ちるだろう
君にかかる虹を間近で見るために
穢れない君を生かしておきたい
穢れなく生きる君を保たせてやりたい
私の望む君の姿だけを
見ながら死んでしまいたい
曇ってしまったガラス玉を
磨く術など知らないのだから

生き埋めの墓地

2019-07-08 | -2018,2019
ここは歯車の墓場です
とはいえ我々は生きている
あなたも連れて来られたのですね
落伍した気分はどうですか

何をすべきかと問いたいのでしょう
何もしなくても良いのです
たくさん働いて来られたのですね
ここはとても楽な場所ですよ

だらだらと余生を消費しても
誰も何も言いません
だって工場長が許してくれたのです
私たちだって生きているのだからと
ずいぶん冷たい目をしておられますね
けれどもうあなたも私たちと
同じ捨てられた欠陥品に過ぎない
動かない歯車は使えませんから
あなたは役立たずの楽園にいます

彼は事故で歯が欠けた物
彼女は隣の歯車と噛み合わなかった物
私は作り出されたその時から
生産ラインに弾かれた物

働いてはいけません
遊んでいてもいけません
私たちはただ生きることを
許されているに過ぎないのです

良かったじゃありませんか
あなたの余生は三十年
私の余生は八十年
生きていていいのです
生きていていいのですよ
どれだけ削れて壊れても
どれだけ欠けて不揃いでも
生きていればいいのです
呼吸さえしていればいいのです
楽しいとか辛いとかそんなもの
墓場に持ち込む必要はない

生きていればいいのです
生きていなければならないのです
いっそ鉄屑にして欲しいと
誰も願わなかったとお思いですか

ここは歯車の墓場です
おめでとう、ようこそ、楽園へ
落伍した気分はどうですか
何ともないと答えなさい

罪悪感

2019-06-20 | -2018,2019
謝罪の言葉など聞きたくはない
薄っぺらいせりふだと
言うつもりもまったくない
あなたは心から行いを悔い
私に許しを求めている
私に許せと言うのだろうか
許さないと言って欲しいのか
きっとどちらを選んだとしても
あなたはそれを享受するだろう
それほどまでにあなたは己の
してきたことを恥じている

あなたが施した慈しみは
あなたの過去を消すだろうか
あなたが流した手の汚れは
あなたの未来を照らすだろうか
今ここにあなたは居る
消しようのない過去を背負い
恥と苦痛の未来へ向かい
今ここにあなたは居る
あなたが向けたその笑みは
あなたの記憶から消えるだろうか
あなたが止めた他人の時は
あなたの影から薄れるだろうか

既にあなたの謝罪という
過去ももはや取り消せない
あなたの贖罪は立派だったと
人々は口々に誉めそやす
毎日泥と汗にまみれながら
花を咲かせた庭師には
誰も気にさえ留めやしない
あなたは何のためにその言葉を
わたしに向けて吐き出したのか
どうしてわたしに唾を吐き
居直ってはくれなかったのか
許すと許さないを突きつけられた
わたしの怒りはどうすればいい
あなたに哀れみを覚えていった
わたしの情けはどうすればいい
わたしが許そうと許すまいと
あまりに多くを喪った

わたしの行いを唾棄していれば
わたしのこの首を手折っていれば
わたしの花を摘んでしまえば
良かった、ただそれだけだ
あなたがいたからわたしが在る
あなたに育てられたわたしが居る
わたしの手足が汚れるたびに
あなたは体を濯いでいた

どうか、どうかお願いだから
わたしに牙を突き立てて欲しい
あなたをどうか憎ませて欲しい
わたしの心に罪悪感を
どうか落とさないで欲しかった

NATION

2019-06-18 | -2018,2019
あなたの創った生物は出来損ないだ
頭でっかちで歩けもしない
補助をおこなうわたしやあなたを
亡くしては間もなく滅びるだろう

その頭に入っているものは
綿か、はたまた、脂の塊か
さぞや悲しげな鳴き声をあげる
手足を動かすこともせず

何の意図も持ってはいない
何の意識も持ってはいない
何の意図を以てして
あなたはこれを創ったのだろう

それは頭から生まれでて
後から足が生えてきた
滅びる時は頭から
やがて足も同じ運命を辿るだろう

この出来損ないの生き物を
あなたは何と名付けるだろうか
頭に圧し潰された四肢に
悲しげな悲鳴をあげている

この生き物の滅びは近い
蠢くばかりの可哀想なそれを
あなたは何と名付けるだろうか
旧い名前を置き去りにして

あなたのための歌を

2019-05-24 | -2018,2019
街路の片隅で歌う男は、
悲しげな声を響かせている。
足元に転がる空き缶には一匹の蛾。
小銭でもなく、紙幣でもなく、
大きな蛾がさみしく翅を揺らめかせる。
男の首から滲む汗が、
シャツを静かに濡らしていく。
足音は聞こえない。
がちゃがちゃ喚くBGMと、
どこまでも途切れない歌以外には。
真っ暗な街路にぽつねんと、
スポットライトを一人浴びて、
聴衆はたったひとりの蛾ばかり。
「私に払うものはないけれど、
 あなたの歌は素晴らしい。
 どうか私を好きにして、
 払えるものはこれくらい。」
シャトルのようなその翅を、
健気なほどに揺らめかせ、
ラブコールを送っている。
悲しげな声は続いている、
きっと永遠に続くのだろう。
足を止めれば男の眼差し、
わたしに光を見出すような。
永遠と思われた悲哀はしかし、
いともたやすく打ち破られる。
わたしのための歌を歌う、
たった一人のわたしのために。
がちゃがちゃ鳴るのは相変わらずで、
しかし朗々とした声が、
蒸した夜の道を渡る。
缶の中身は空っぽだ。
たった一人の真の信徒を、
彼は自ら手放したのだ。
ひとつっきりの街灯に、
ちらりちらりと蛾が踊る。
煌びやかなナンバーを背に、
物悲しげな翅が揺らめく。
わたしは缶には入れない。
あそこに体を収められるのは、
彼女以外にいなかったのだから。

人魚

2019-04-29 | -2018,2019
深い深い海の底から
おいで、おいでと招く声
夜の海には灯りもなく
砂浜から深海色の手が伸びる

きみはわたしをみているね
ふかいところにしずむわたしを
わたしもきみがよくみえる
もっとちかくでよくごらん

いつの間にか足をとられ
ぬるんだ水の中にいる
足を、腕を、頭を抱え
あぶくはとっくに遠くへのぼる

おかのうえはたのしいかい
うまれこきょうをすててまで
はいあがってきたそこは
きみをたすけてくれたかね

眠る魚を見送って
深く深く、暗く冷たく
澄んだ闇へ引きずり込まれる
ぱくぱく開く項の顋

たくさんあそんできただろう
さあ もうおうちへかえるじかんだ
わたしのことがみえているなら
きみのすみかはここということ

体を抱く手はとても優しい
触れた温もりを奪うほど
もがけばもがくほどあぶくは零れ
胚は潮に満たされる

にげなくてもいい はらからよ
いっしょにみなもをみあげよう
おかはたのしかったかい
さぞやいきにくかったろう

違う、私は陸のものだ
生まれ落ちて死ぬまでずっと
見えやしないし聞こえやしない
引きずり込まれたこの時までは

ゆめさ ゆめだとおもえばいい
これはおまえのあいするゆめと
なんてここちよいゆめだろう
めざめることがおしくなるほど

浸透圧に渇かなければ
水圧に潰れることもない
まさしく夢だ、でなければ
鱗の並んだ鼻梁をなぞる

だからあんしんしておいで
こちらへかえってくればいい
ねむっているわずかなときでも
ふるさとでゆらりたゆたえるのだ

深海色の手と手と手たち
かれらの熱を知った時
一匹の魚が目の前にいた
そいつは腕を振りほどき
ゆったり深くへ沈んでいく
何度も何度ももがいても
もはや気泡はのぼらない
これは夢だ、でなければ

(おまえの声はわたしの声だ)

クズ売り

2019-04-23 | -2018,2019
クズだ、クズはいらんかね
仕事もせずに寝てばかりのクズさ
たまに仕事へ行ったと思えば
3日4日は休むクズだよ

言えば愛も囁くよ
金の無心もよく嘯くが
こんなクズでもいらんかね
まさかいらんと言いますまいな

まさかいらんと言いますまい
誰しも平等な世の中さ
権利を欲すれば義務を果たせよ
言われども渡れる世の中さ
人はごねれば得をするだろ
クズはそいつを学んだクズさ
だからクズなど呼ばれておるのさ
のうのうと生きる他のクズも
ごまんと老いさらばえているだろう

金で買えぬものなどないよ
クズの命を買っておくれよ
買わなきゃそこらのどぶの中に
沈んじまうかもしれないよ

クズだ、クズはいらんかね
まっこと正真正銘のクズは
いらんと言うならあんたは聖人
さあこのクズを沈めておくれ