暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

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2014-02-22 | 錯乱
お元気ですか。
最後に見たとき、あなたは蝋を流し込んでいましたね。
私は呆れたものです。よくもあれほどの蝋を飲み込めるものだと。
あの後、あなたがとても幸せに暮らしていると人から聞きました。
何しろ何も食べる必要がないのです、だいいち、動かなくたっていいのだと言っていた、と聞いた時、ああなんともあなたらしいと私は思ったものです。

最近は暑いですね。日に日に肌が灼けるようです。
あなたはお変わりありませんか。
何しろ体の内側からそっくり蝋になったのですから、溶けてしまわないか心配しています。
最近はあなたの話もめっきり聞かなくなりました。みんなあなたのことを忘れてしまったようです。
あなたはもう考えるのもやめているかもしれませんし、目も動かしていないのかもしれません。
ただ、蝋は簡単に溶けてしまうのだから、気を付けて生活しないと、あなた自身が蝋のように溶けていってしまいます。
できるならば私はまた、あなたと食事に行ったり、おしゃべりしたいと思っているのですが、あなたが選んだ道なのですから応援しています。
今は幸せですか。幸せであれば何だってかまいません。
蝋のかたまりでも、腐敗液の水たまりでも、あなたが幸せならば私は何だってかまいません。
ペンを持つことはできますか。よければ返事が欲しいのです。
元気にやっているかどうか、私にはわかりません。だから返事をください。
文字が書けたとしても億劫がりそうなあなた、私の手紙は嬉しかったですか。
もしかすると私のことを覚えていないかもしれません。

あなたの家まで行けたらと思うのですが、私はあなたの家も知りません。
あなたはこの手紙を見てくれるでしょうか。
最近は本当に暑くなりました。うだる空気はまるで、気化した蝋を吸い込んでいるかのようです。
見てくださいね。お返事ください。
幸せだったか、私はそれだけ、あなたに直接聞きたいのです。

慢心の中途

2014-02-10 | 心から
縋り付いて生きていくには
糸はあまりに細すぎる
太く強くさせるためには
草を摘み、糸を撚り、幾重も編まねばならなかった
気付けば年月は重く昏くのし掛り
ぎしぎしと腱は悲鳴をあげて
それでもなおも縋らねば
私は容易く捥がれてしまう
熟れた果実に程遠く
小さく渋く未熟なままで
養分にすらままならない
今なら、明日なら、いつまでならば
草はそこにあるだろう
目先は見えていられるだろう
手を思うままにできるだろう
巨木にそっと寄りかかる
優しき人を恨むより
縄を自由に行き来する
気ままな人を疎むより
脆い糸しか手に持たぬ
私の怠けを嘆かねば
糸はすり減り摩耗して
今にもすぐにも落ちてしまう
大丈夫、まだまだ、大丈夫だと
幼く縋り付いて生きるには
持つものばかりが重さを増した

凍傷

2014-02-07 | つめたい
どこかの誰かが言っていた
木の温もりを感じたいだなどと
素足に触れる死んだ木板は
鉄や水に比べれば確かに温かいのだろう

突き刺さる
突き刺さる
延々と白く靄のかかった空からは
血肉に刺さる槍が舞う
灰色の木陰で固まる塵芥は
ひと風吹けば霧散して
心安らかな風を吹かせば
次から次へと燃え盛る

寒くなりましたね
(ええ、これまでが嘘のようです)
温かくしましょう
(ええ、とてもとても寒いので)
温かいでしょう?
(ええ、肌はとても温かい)

(生焼けの方が好きなのですね)

骨に流れる氷水が
肉の隙間を這い出し染み出し
表層を焦がす温暖な風は
肌に白い粉を吹かせる
優しいあたたかいけもののぬくもり
突き刺さる
突き刺さる

赤く黒く冷たく熱く
いずれにしろ硬く固くどこまでも
塵芥たちはよく燃える
つめたい火の粉もよく刺さる