暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

蜘蛛、二分の一

2009-12-29 | -2009
息が白い
だけどこれはたばこの煙
肺にたっぷり満たされて
ゆうらり波に揺られている
だけど手足は冷えきっていて
ゆうらり波に沈んでいくようだ

有機体といえばぼくくらいのもの
四つ目の光が
なんだか追いかけているらしい
それはどうやらぼくのようだ
ゆったり足を回らせて
横から前へ通り過ぎる

空気をいくら吐いたって
肺にたゆたい燻す煙
白い白い燃えた跡を眺めていると
もうそろそろ地面が見えてくるはず
四つ目ではない二つの光
けれど無機物
少なくとも今のぼくには

巨きな鉄の蜘蛛に踏みつぶされる
そんなぼくを想像する
ばきばきと咀嚼の音
目に見える赤はぼくのあかし
だけどたばこの火を消す前に
そいつに道をゆずるはずだ

いつの間にか葉は燃え尽きて
だけど肺にはとどこおる煙
蜘蛛を殺すには足りないほど
白い息は排気ガスにまじり
空に浮かぶのはたった一つの星
蜘蛛よ、きみはなんのために
八つ足を捨ててしまったのか
前なら白く後ろなら赤く
目を光らせて威嚇する蜘蛛よ、
きみたちはなんのために
道を走っているのだろう
ぼくに光る目はない
ろうそくより小さな一個の火を除いて

酸の味

2009-12-28 | -2009
甘みを期待してかじった林檎は
青春の渋い汁を滴らせた
けれど熟れた林檎は舌が痺れる
内側で脈打つ血の色が
まだ孤独を引きずっているらしい
外殻はそんな片割れを笑っているのに

内臓まで貫けたのならどれほど
悲しみを舐め合うことができただろう
悔しさは酸の味に似ていたとして
けれどたとえ檸檬をかじったところで
味わうことなどできるはずがなかった
内臓まで貫いたときの
犠牲を知った目を本当に理解していたなら
舌は痺れなくとも悲しみを感じることはできなかったはずだ

内側に囚われて
渋いだけの林檎をかじる
熟れれば痺れ腐ればえづく
早熟は時に蜜より甘い
その後の痛みは舌を刺しても

硬い内側が暴れている
肉が露出すれば息絶えるだろうに
硬い内側が暴れている
けれどもお前に何ができるだろう
孤独を知ったふりをしながら
守り続けたふりをしながら
その実腐り続けてきた
お前に何ができるだろう
わたしはお前を笑っている
酸の味を恐れて生きて
誰一人傷付けず孤独にこもり
その実傷つけ続けてきた
わたしはやがて腐りゆく
つながるお前に引きずられ
わたしはじきに腐るだろう
わたしは林檎をかじりながら
いつも酸に痺れている

花びら

2009-12-27 | -2009
僕が迷路を抜け出たとしても
君はまだ迷っている
永遠だと嘯くことはたまに罪だ
だって僕たち一瞬の細胞の塊だから

きっと覚えていてと
僕は誰の責任にもならないことを約束する
永遠だと嘯くことで君と僕とは確認した
この気持ちしか永遠にはならないのだと

僕は迷路を抜け出たけれど
また次の迷路でさまよっている
手を繋いで歩けばよかったのかもしれない
今が一番いいのかもしれない
たぶん君は僕のことを忘れながら
迷路とともに朽ちているはずだから
僕は約束なんてできはしなかった
きっと許されないと知っていたから
許される痛みに耐えることも

誓いをお互い知らなければ
僕はそれ以上でもそれ以下でもない
手はたまにひりひりと冷えるけれど
きっと隣に君を連れるよりは罪深くないだろうから
僕は知らない迷路で朽ちるのを待っている

2009-12-20 | -2009
明日はどうか
ぼくを殺せますように
祈ったあとのぼくは
かあさんにおやすみを言わない
明日になれば
かあさんはぼくを起こしてくれるから

馬車馬

2009-11-26 | -2009
暗くもない夜の灯りに
影は色濃く路面を濡らしている
あなたは顔が見えないほど疲れたのか
休むことのない時間に流され続けて

あなたの影が打ち消されるほどの逆光は
星の瞬きまでをも殺してしまった
閃いては消え行く逆光を遮れば
もはやあなた自身さえ確かではなくなる

光のない空、
澄み切った夜空に月はさみしく浮いている、
光に照らされれば孤独を晒し、
裏へ回れば孤独に潰れ、
あなたは一体どこからがあなたなのか、
境界線はゆらゆらと揺れている、
時間に置き去られたたった一つの精神は、
きっと消えかかる星の中にいるのだろう、
あなたはただ一瞥するだけの傀儡、
わたしもまた逆光に埋もれる傀儡ならば、
なぜわたしにはわたしの影が見えないのか、

(鎖を使って死者にさえ口づけよう)
(囚える必要もないのになぜ鎖が要るのだろうか)
(安心は各々の罪悪感を優しく包み込む)

羽虫はいつまで舞い続けるのか
走り去る光たちと
地上に瞬く星たちに
影があなたを塗りつぶし
光がわたしを孤独にし
目覚めないことを知る最期まで

2009-11-05 13:31:24

2009-11-05 | -2009
腐敗する泥寧の中にいるわたしを
あなたは岸辺より手を伸ばす
沈んでいく顎はぷかぷかと浮き沈みを続けるが
動くことはできぬと酔いしれるわたしには
あなたの指先など肉にすぎない
あなたに何がわかろうか
わたしに何がわかろうか
纏い絡み粘りつく
紫色の泥の心地よさ
(わたしの足は何かの骨を踏んでいた)
きっとあなたにはわかるまい
その岸辺から手を伸ばすわけを
知り得ぬのと同様に
救けたいと望んだとても
そことここは天地ほど遠い
わたしは岸には上がらないが
あなたも沼へは潜らぬだろう

成長

2009-10-02 | -2009
私は悔しさを知っている
けれど忘れたふりをしている

私は痛みの兆しを知っている
目を閉じることは知らない

私は人の善良さを知っている
この胸にあるものはいつかに埋めた

あなたが笑っているのが憎い
あなたのひたむきな努力が憎い
あなたの弱さを知る強さが憎い
けれど目を閉じることはない

私は自己嫌悪を知っている
いつしか陶酔へ変わったことも

私の我慢は幼さだと知っている
反抗を知らなければ行うだけの

悲しみが肺を満たすたび
脳は妬みに犯される
卑劣さは腹に隠し
喉をきつく締めてしまう
見て聞くが喋らない

愚かしさを許すあなたたち
私はその善良さを知っている
けれど深く知る度に
悲しみは肺を満たしていく
私は私の価値を知っている
くすんで見えなくなったけれど

涙の理由を

2009-10-02 | -2009
時は刻みをつけることなく
質量のない流れを続かせる
現在の一瞬さえも過去であるなら
到達のない過去と区切りない現在
それらの先は流れない

破滅を唱うベルが鳴れば
私は時を殺すだろう
予測でしかない予知であるなら
鳩は空を舞ってもいい
先を知るベルは静寂を裂く
時の終わりもまた知っていれば

耐えしのぶ理由も見つからず
放蕩する根拠もわからないまま
ただ現在の続きをこなすのだろう
もしベルなどないと言うのなら
途切れた線路も見つからない
けれど私の肉体は
時から外れることはない

かご

2009-09-03 | -2009
いきをころさなくてもいいんだよ
あしおとたててもいいんだよ
わらっていてもいいんだよ
きみたちはぼくのたからもの
となりのこわいひとはおこるけど
そんなことはどうだっていいさ
わらってないてかなしんで
ありのままにいきてごらん
いまかんじていること
きもちをありのままはなしてごらん
すうっとらくになれたなら
となりのこわいひともみえやしない
ひつようでないのなら
みえなくていい
きこえなくていい
かんじなくていい
ぼくのためのきみたちは
ざんこくにこどものままでいていいんだよ
くつうなんてみえやしない
ひめいなんてきこえない
くるしみさえもかんじない
ゆりかごでねむったなら
ふかいふかいゆめをみよう

理解する

2009-08-14 | -2009
一を知るなら二も知るだろう、
そうしてあなたは間違いを犯す。
一を知れども百なら知らぬ、
それならあなたにもわかるであろうに、
ひとつひとつの段を数え、
数とは連なる一つであっても、
あなたに百はわかりますまい。
あなたの求める十だとて、
あなた以外にわかりはすまい。
おのれが段をのぼろうとも、
となりにだれかがいようとも、
あなたののぼる段を知らねば、
求めるひとはともにはいない。
一を知れば二をも知れよう。
手を引きともにのぼらねば、
あなたの十などわかりはしない。
段をのぼり百に着けば、
おそらく無量もあるだろう。
あなたに無量があるのならば、
かれにも無量があるのだろう。
一を知るなら二も知るだろう、
ならば三はどうであろうか。