暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

ここで死ね

2015-12-24 | -2014,2015
風がごうと吹く。
私の体は風に煽られ、
ぐらりと向こうへ傾ぎかかる。

あなたは言った、
運命とは紙切れのようなもので、
ひらりと風がふいた時、
橋へ残るか。
川へ落ちるか。
決定は呆気ないものだと。

私の体は揺らぐ。
手摺につかまったその先で、
木の葉が濁流に呑まれていく。

あなたは言う、
呆気ないものだと。
足元の花束を、
すっかり枯れた花束を、
つま先で弄り回しながら。
見てごらん、

この花束こそ私の縮図。
風に吹かれればこうもたやすく、
そうあなたは花を蹴落とす。
花は同じ色をした濁流に呑まれ、
わたしとあなたの背後から、
ごうと大きな風が吹いた。

風景

2015-12-03 | -2014,2015
曇天の道を風は吹き
枯葉がごうと舞い落ちる
枯葉のように舞い上がるのは
寒さに膨れる雀の群れ

橋脚は揺れ
はるか隣を列車が走る
淀んだ川には泡のひとすじ
橋の陰から逃れるように
鴨は幾重に屯して
王の河鵜を取り囲む

光なき世に枯れた木が
川のほとりで気高くそびえ
曇天晴れた隙間から
差し込む光が死を照らす
生者の歩む橋の上では
風に吹かれる襤褸が煽られ
淀む川へと落ちていった

ライン製造

2015-12-02 | -2014,2015
オレンジ色の光がきらめく
ぼくの目の中にくすぶる残像は
緑色の闇となって
ベルトコンベアを流れていく

たくさんの
たくさんの死骸に触れたよ
ひんやりと冷たい果実たちは
氷を舐めるように
ぼくの温度を奪って行く

真っ白になった指先を見て
ささくれだった指先を見て
出る吐息はおかしいほどになまぬるい
ぼくは炭を思い出す
ほとんど灰になった炭を

オレンジ色の光は
ぼくを肉から人に変えてくれる
彩り豊かな生き物たちを
死骸へ変えることを代償に
そしてぼくを変えてくれる

人から肉の塊へ
炭から灰の塵芥
緑色の残像はまだくすぶり
ベルトコンベアを燃やしていく
ぼくの指先は灰の色

蟋蟀

2015-11-19 | -2014,2015
生首と生脚を集めるのが私の仕事です
最初こそせめて綺麗にと考えていましたが
仕事となってからは効率が第一になり
生きた彼らを見ても
首をもいでなおもがく姿を見ても
無残に引きちぎられた首と胴体を
しぶとく繋ぐ消化器官がずるりと出ても
いつしか特にこれといった感情らしき感情を
持たなくなっていきました
まず脚を折るのです
逃げないように
手だけを使い逃げる彼らの首をつかまえ
強引にねじ切ってしまう
思い切りさえあればかんたんなことで
最初は彼らの体にさえ
触れられないほどの罪悪感に苛まれ
終わったあとには手のひらが
冷たく震えることさえありましたが
いまはごくごくかんたんなこと
よく逃げる彼らがめんどうだなと
そう考えてはおのれに悪寒も走ります
最近はそれすら麻痺してしまいました
大義名分と慣れさえあれば
人は何だってこなせるようです
そうでなければ争いなど
どうやって生まれるというのでしょう
集めた首と脚を積み重ねた肉山から
蛆も大量に生まれていますが
消費された彼らの生命というものは
蛆に還元されるなどとは思えません
それらは濁った目をこちらへ向け
きっと呪っているのだろうと
およそ非科学的なことを考えます
けれども死体を食うことで
魂が還元されるなどと考えるよりはまだ
少なくともわたしの行為は罪深い
いくら慣れたといったところで
漏れでた消化器官を打ち捨てるなど
およそ許されるべきでもない
いくら彼らを人ではないと言い聞かせても
二本の脚に生首を載せて
私を食い尽くすであろうという妄想は
きっと消えることなどないのです

いっそ粗大ゴミとしてでいい

2015-11-15 | -2014,2015
オレンジ色の薄あかりのなか
液晶はたしかに目に刺さる
カバー越しの柔らかな電球の投げかける光
濁った水面を仰ぐ魚のよう

肺のなかをひんやりつめたい水で満たし
ものいわぬ石のように沈んでいく
濁った水ではいくばくかののち
まっくらい水底にたどりつく

砂と泥が舞い上がるそこは
このベッドよりいくらか柔らかく
砂利でいささか居心地が悪いのだろう
あるはずのない切れ込みを探す

これは豆電球にすぎず
人は魚どころか猿にもなれず
ここは安寧のベッドの上
濁っていることだけは変わりない

私は魚になりたかった、
いっそ命のない石でもよかった、
汚濁する河でもかまわなかった、
水底に沈むなにものかになれるのなら

灯るアーチの電灯は、
湖底からのぞむ水面のようで、
これから生まれゆく兄弟の卵にも似ていた、
ただほろびるだけの肉体だというのに

憧憬は日に日に現実味をなくし、
汚濁した疲労が末端から痺れを生み出し、
現実味のない現実は汚濁をさらに加速させ、
歯車の歯が欠けていく ぼろぼろと

魚になりたい
石でもいい
水底から水面を見上げ
かれらの映像を楽しむのだ

いつ死ぬかな?

2015-11-12 | -2014,2015
明日にはきっと
明日には、
そうかみさまに願い続けた

だけれどわたしの見初めたかみさまは
善き神だなんて言わなかったのに
明日が経てば経つほどに
わたしは一心不乱で祈る

そうしてふと気がついたとき
わたしの築いてきたものは
祈りの時間、ただそれだけ
培った経験もなければ
あたたかい家族もなく
あるとすれば増えたしわ
不幸も日増しに積み重なった

わたしのかみさまは穏やかな微笑をうかべ
毎日わたしを見下ろしていた
きっと救ってくださる
これだけ祈っているのだから
かみさまはこんなにもお優しそうなのだから

これだけ心配しているのだからと
かつて同じことを言ったひとに
わたしは泥を投げつけたというのに
かみさまなら救けてくださると
かみさまはひとならざるものだからと

かみさまはわたしを救けてはくださらなかった
かみさまはひとならざるものだから
ひとなど1匹の虫にすぎず
そう、わたしがかつて
瓶の中に入れた蜂を餓死させたときのように、
かみさまはにやにやと笑っていただけ

けれどわたしは
瓶詰めなどではなかった
わたしの意志で祈りを捧げた
祈りだけを捧げてきた
学校をやめ、仕事をやめ、ひとづきあいをやめ
いっそ楽になりたいと思っても
絞首台さえも見えてこない
見えるのは
見えるのはあのかみさまの
かみさまの微笑だけ

好きに生きろよ

2015-09-25 | -2014,2015
なぜぼくは生きているのかと問うあいだ
淘汰のさだめを持つ虫は土に転がる
代わりにぼくが死ねばいいと悔やむとき
奇形の猿は見世物として持て囃される
何らかの目標を持って生き
何らかの達成感をもって死にたい
そう叫ぶぼくのそばには
特に理由のない生死がごろごろと転がっている
ぼくはかれらに唾を吐くのか
ぼくはかれらを蔑めるのか
目標を考える間もなく細胞は死ぬ
交尾を終えた魚に達成感を問うことはできず
けれどもかれらはかれらの生を全うし
かれらの淘汰は種の役に立っている
目標という名の呪詛を吐き出し
達成感を求め無為に時間を消費するだけ
ぼくの交尾は子を成さず
かといって淘汰されるでもない
ならばぼくはそれでも
それでも選ばれた人間なのか
ぼくのそばではいつものように
アルビノは食われメラニズムは喜ばれ
あるいはその逆も起こり
自意識過剰な誇りの間を通り抜ける
歯車にすらなれないと嘆く歯車を
摂理が鼻で笑うのだ

そうでないと否定することはできない

2015-06-22 | -2014,2015
今日はもう大丈夫
明日は何もしなくていい
明後日にはご飯をあげないと

間隙のある世話はしだいに
追いつかなくなっていった

朝と晩に世話をしなければならないような
手間のかかる愛おしい生き物
わたしなしでは生きられない
かわいそうなエゴの被害者

(そう自ら呼ぶことで
 少しでも罪悪感をへらそうとしている)

間隙のある世話では
ふっとそれは訪れてしまう

だからもっと手のかかるもの
わたしなくしては生きられぬ
生き物を大事に育てるのだ
わたしはかれらのために生きる
それ以外のことなど考えられぬほど
せわしなく生きることができる

そのあいだは死ななくていいと
免罪符をでっちあげるために

無意味さ

2015-03-08 | -2014,2015
腹肢を踏みしめ宙を仰ぐかれらは
祈っているようにも見える
天より降り来る恵みを喜ぶ
かれらは瑞々しい葉の味を知らない

虫さん、虫さん
私は正しい道を歩いているでしょうか

電球に誘われ舞うかれらは
ときどき熱に焦がされて死ぬ
かれらに残された時間は
すべて自身とは他へ捧げられる

虫さん、虫さん
私は正しい道を照らしているでしょうか

死ぬために生き
生かすために死に
転がる死骸すらも尊いかれら

私はまるで
みずからの皮に絡まり死んだ一匹のよう
だが上手くなんとなく生き残り
小さな神の手によって庇護を受けた

虫さん、虫さん
私は何のために生きねばなりませんか

羽化にさえ至れない幼虫は
ただただ天を仰いで祈るだけ
食べて祈って眠ることを繰り返し
臓腑は内側から枯れていく