暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

食彩館

2010-08-24 | -2010
ぴんく色なら腸の色
き色の汁を吐き出しながら
黙って蠢く腸の色

きみどり色なら皮膚の色
殴られ蹴られて砕かれて
それでも生きているなら皮膚の色

まっちゃ色なら肝の色
潰れて元に戻らない
きっと美味しい美味しくないの肝の色

やまぶき色なら舌の色
食べるも食べられるも任せなさい
縮んで汚れた舌の色

色の世界はとっても不思議
いろんな色が潜んでいても
いろんな色は無いなんて
人の体に潜むいろいろ
体の具合で変わるいろいろ
鼻の先からお尻の穴まで
いろんな色を覗かせて
いろんな色を教えてよ
きっといろんな色がある
いろんな色はないけれど
色の世界はとっても不思議

友人の裏

2010-08-24 | -2010
ポールが横へすべるように
金網が透き通り横縞をえがくように
やがて、を知る前に消えていくもの
見えるだけのほとんどが知る頃には忘れるが
過ぎ去るものは不動だとは限らない

(見えざる手と目前に見えるものとの対比)
私はあなたをおそれていた
まぶたの裏ではまだあなたが、
朽ちた影法師がちらちらと光をよこしながら、
歪んだ残像のままこちらを見ている
あなたは私をおそれていただろうか
私はそんなことで
そんなにも細やかなことで
あなたへのおそれを騙している

弔いの儀式

2010-08-24 | つめたい
青黒い炎がぱちりぱちりと弾けて燃えていた
横たわる牛のまなこも
揺らめきにあわせそちらこちらを舐めまわし
光にまとう虫の一匹一匹は
弔問のはじまりに小さなどよめきを
起こしているらしい

冷ややかな風を流す地下の霊廟の先に
黄泉のくにがあるのだと
けれどそこには蛆の湧き
醒い口をだらりと開けた牛が一頭
肉も食われず皮も剥がれず
ただ腐っていくだけの畜生が安置されたきり
どこであろうと虫が湧く
黄泉から来た使者はひとかけらずつ
そいつを送ってでもいるのだろうか

うつくしき神々のくにへと続くみちは
腐敗臭で満たされている

静かな霊廟には腐った牛が一頭きり
お前たちに黄泉を渡すものかと
青黒い炎と瞳をぎょろつかせている
結局は死のうが死ぬまいがおなじこと
食われれば糞になり食われなくとも糞になる
苦しみを受けたぶんだけの幸福が来ることもない
だんだら坂をくだり続けた先は
誰もかれもが一部屋のみの霊廟へ繋がる
ならばお前たちに
なぜ黄泉を渡さなければならないのだ
最後のせりふを喚いたあと
蛆は舌を食いつくし
その目玉を突き破り
食い尽くしたものは羽を生やし雄と雌はまじりあい肉の塊に産み落とし力尽きれば落ちていく
青黒い炎は生き物に埋もれ消えるだろう
彼は黄泉へ送られた
霊廟は消えうなり声だけが
いつまでも耳にこびりつく

ヘンゼル

2010-08-05 | -2010
私は流れを忘れてしまった
取り残されたと思いながら
冷たい気流の中にいる
ちらばる小石は私の小石
ぼろぼろ落ちては見えなくなった
見ることさえも落としたのだろう
ぷかぷか浮いているようで
たぶん流れをさまよっている

時計が止まれば息は詰まり
時計が進めば息絶える
逆に回すねじはない
それはおそらく小石とともに
どこか遠くへ流された
それは私が知らない遠く
知っていたなら近かったはず
けれども私は今は知らない
止まった流れの中にいる
流れていても止まっている
肌が流れを感じないなら

私は流れを忘れてしまった
大事な大事なものでさえ
ポケットなんかに入れていたから
するするすると出ていった
私はぷかぷか流れている
流れていると考えている
流れていないと感じているのに
流れていると考えている
けれどもきっとそろそろ終わる
時計は止まりもしなければ
逆には決して戻らない
一本一本刻みながら
けれども刻まずうごめきながら
絶対に 絶対に進んでいく
私はポケットにすべて詰め込んだ
底に残った大事なものも
最後の最後の大事なものも
私のあずかりしらないところで
ふわりと舞って去っていく
たぶん流れをさまよう私は
時計が進めば息絶える

熱中症

2010-08-02 | -2010
じわ、じわ、じわ
大気の熱が血流を沸騰させる
痛みのない光は干からびた木々を焦がし
くすぶる火種に降りそそがない滴
あるはずのない炎は燃え盛らないはずだった

断続的な悲鳴も知らぬ間に途切れ
今度は近くから耳をくすぶる
転がり落ちるちいさな死者もまた
そこからでもどこからでも

声を聞いている
あるいは耳を塞いでいる
力ない指先が固まっていくさまを
かさついた唇がそれきりにつぶやいた言葉を
見ることなどできないと目を伏せれば世界が消える
目と耳と口と鼻を塞ぎ
くぐもった悲鳴が消えることを望んだとしても
じわ、じわ、
死者を殺すことはできない
死者をえらぶこともできない
丸まった背中には泡立つ血潮がながれている