暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

ペンデュラム

2019-01-18 | 暗い
ずっと考えてきた
すなわち生きる意味を
彼はぼくを
満足に買い物も出来ないぼくを
強かに打ち据えながら言った
生きる意味などあるものか
おまえの哲学にも反吐が出る
犬のクソを食うより酷いと

広いだけの大地を見ながら
なんと意味のないことかと思う
ぼくに選ばれた道は
もぐらの坑道よりも窮屈だ

瞬きをするような
ちらと漏れたあくびよりささやかな
ほんの一握の煌めきを追いかける
ぼくにはそれが生きる意味を
問うのとおんなじことだった

一握の煌めき
それはポケットに入ったコイン
それはぼくと同じ目をした女の子
それはカフェで知り合った
清流を生きてきたお婆さん
ぼくは狭い狭いけもの道で
それらを残らず拾ったつもりだ

背後で軋みが聞こえてくる
地獄の歯車の回る音が
どこにいても
誰と話していても
たとえどれほどの
幸福を感じようとても

ずっと考えてきた
すなわち生きる意味を
彼はぼくを
青白い舌を覗かせるぼくを
途切れた道を歩くのに
邪魔なのは一握の光そのものだと
広い地平線のほんのひとかど
しみったれたアパートの片隅で
ひっそりと揺れるぼくを見ながら言う
生きる意味などなかったろう
唾を吐きかけられたぼくは揺れる
地獄の歯車が回そうとしたのは
ぼくという名の振り子に過ぎない

凍傷

2019-01-07 | -2018,2019
震えるほどに寒いなら
羽織ればいいのだ、目深まで
足踏みをする蟻の群れ
耳だけ落ちた琵琶法師
墨の落ちたところから
死の足音はやってくる

薪をくべて炎を灯せ
青い青い炎を灯せ
油を撒いてもいないのに
あの樹はよくよく燃えている
暖かくなどなりはすまい
足踏み足踏み行軍は続く

単眼ぎょろりと巡らせて
物言わぬかれらの鈩踏み
燃えゆく樹々が炭となっても
法師の鼻に燃え移ろうとも
繰り返し繰り返す社会性動物

サムイネ、サムイ、サムイヨネ
ナンテサムイ、アア、キレイ
(ぎらりぎらりと閃く単眼)
ダケド、ナンテ、トテモサムイ
ホントニ、サムクテ、イヤニナル
(ざくざく、ざくざく、ざくざく) 
サムイネ、サムイ、サムイヨネ

鳴き声、あるいは念仏は
落ちた耳への弔いか
震えるほどに寒いなら
羽織ればいいのだ、目深まで
鈩を踏めば樹が燃える
燃えた樹を見て足踏みをして
ぎらりぎらりと閃く単眼
死の足音がやってくる
墨に染まった足音が

蟲の壷

2019-01-04 | つめたい
いやだわ
指がてらてらと光っているの
はしたないわ
脂は中々落ちないもの
舐っても舐っても
くちびるの刺が捲れるばかり
汗を拭った隈取が
垢黒いのも当然のことよ
だって指先がこんなにも
てらてらと光っているんだもの
いやだわ
はしたないわ
次はあなたが咥えて頂戴

明けても暮れず

2019-01-03 | 錯乱
カップの縁を滑るように
深遠の淵がこちらを覗く
ぶらぶらと垂れた爪先から
絶望がひたり染みてくる 

屈めば底へ落ちるだろう
仰げば外へ転がるだろう
できることは縁に立ち
爪先立ちで歩くことだけ

カップの手はとうに欠けた
真円がただそこに在るばかり
淵に立てばよく見える
割れた爪と肉の円環

垂れた爪先からひたりひたりと
雫はどちらへ落ちたものか
屈めば底へ落ちるだろう
仰げば外へ転がるだろう