暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

うそ

2008-08-25 | 明るい
机に朱色をまぜて
スタートエンジンを加速させようと
してみたところで馬はわらい
ころころころ早計な
灰皿は燃え盛るたばこを撒き散らして
走者の手綱をはなれて去る

きたない
地下で
はしっても
四方をわたるのは
亡霊ばかり

つよくなりませんようにと
灰皿の煙草を
腕に押し付け爛れたあと
どうかだれも
否定しませんようにと
公園の砂場みたいに
唾を吐きかけた残骸

雑多な音が
支配するまえに
自分にもならない
かみさまにいのる
どうかねむることのない
疾走をください
見えないかみさまが
わらったような気がしたとき
どこかで耳をつんざく音がはしった
煙草は光をくゆらせる

ランプのせい

2008-08-21 | -2008
おばあちゃんが死んだのは
ランプがそこになかったせい
おじいちゃんが死んだのは
ランプがそこにあったせい
みんなみいんなランプのせい
だから燃えてぜんぶ燃え尽きてしまっても
ランプはただゆらゆらしているだけで
責任能力 とか
義務権利 とか
もってもないし望みもしない
だったらみんなみいんなランプのせい
これでみいんな安心して
ランプのせいにして自分はきれいに生きていけるね

な、が、く

2008-08-20 | -2008
増えていくきのこの苗床
ぼくのそだてた木の下の
腐葉土はしめっていくばかり
あそこに大切なものを埋めたんだ
だけど根っこが絡まって
あとどこに埋めたか忘れてしまって
ずっと掘り出していない
いつか必要になる
そうおもっていたのに
もう存在までわすれてしまう
きのこはどんどんふえていく
どれもおなじくらい大切で
忘れたくないのにどれかを忘れるのだとしたら

もうわすれているかもしれない
まだわすれていないかもしれない
しれない

きのこのすきまから
穴を掘ってたしかめる
掘っても掘っても
のぞんだものは出てこない
いつまでたっても湿った土からは
虫の幼虫と黒い虫と細長い虫
切れ切れの根が出てくるばかり
腐葉土はあとからあとから落ち葉を分解して
細菌がよろこんできのこになっていく
伸びる、伸びるきのこ
苗床は木がそだつぶんだけひろがる

あそこに埋めたものを
忘れてはいないんだ
ただそれは今必要なもの
ぼくがぼくに託したちいさなもの
ささいな
そまつな
くだらない
大切なものだ
木は自分で栄養をつくる
だけどぼくにそれはできない
だからとても気になるだけ

ひとの残酷さがきらいだった
ぼくはきのこを蹴散らし土を掘る
虫を殺して土を掘る
根を切り落として土を掘る
それでもただ指先がひりひり痛むだけで
かたい赤土が終点だと言う
なにもみつかりはしない しない
指先がひりひり痛むだけで
忘れたものは思い出せない
二度と

2008-08-19 | -2008
空気のなかから
わたしをえらびとる
それはとてもおそろしいことだ
不必要でもないが必要でもなく
存在するということをゆるされるわたし
それはとてもおそろしいことだ
考えることをやめ
いきものであることにわたしはすべてをゆだねる
それはとてもおそろしいことだ

死にたくない理由を考える
見つけられる理由を考える
目の前に
しあわせな煉獄のひろがっている理由を
(考える)

わたしは知らずえらびとり
当然のいのちを生きていき
最終的に原子にかえる
このような考え方は
どうやらとてもおそろしいことだ
死体の立つ社会でわたしは生きて
知らない選択をしながら消費される
それはとてもしあわせなことだ
他人の笑顔のために死ぬことなどできず
即物的な何かばかりを求めている
空気のなかからひとつずつをつまみ上げ
わたしがわたしたる証拠を配置する
それはとてもたのしいことだ
だからわたしは生きてはならない理由を
(考える)

入道雲へ

2008-08-18 | 暗い
だれも助けてはくれないんだ
なんて
なんて甘ったれ
ケツも拭けない肥満体
だけどそれはたぶん
おれのよく知っている
真っ黒な髪のあいつだろう

助けてくれ
だれか助けて
なにかもわからずとりあえず
喘いだなら
次は根性焼きの出番ってもんだ
苦しいのなら泣けばいい
そうして傘は開かれるなら
雨でやけどを焦がしてしまえ
だれかどうか
助けてみてはくれないか

孤独を抱えるおれはいつも
ベッドで指を吸いながら眠る
死にたくない
ただ生まれ直したい
そうしたなら
またママのオッパイを吸うことができる

投げ捨てた缶に唾を吐きかける
そいつはなぜか腐ったビールの臭いがした
灰皿代わりの腕が痛い
そんなことを問題にしろって
一体誰が言ったんだ

誰かが助けてくれるのならば
そんなもしもは無意味だそうだ
それならやっぱり
ママのオッパイは最高に甘い

四季

2008-08-14 | -2008
春にわたしはいのちのとうとさを知り
夏にわたしはひとのあいを知る
秋はあなたのぬくもりを知り
冬はあなたとの決別を知るだろう
夢を見ればこころはちいさな風が吹き
幻を拒絶することでわたしはわたしということを知ろうとする
人はあまりたくさんのことを知りたがらない生き物で
何かをむすびつけるためにたくさんの犠牲をはらう

季節をめぐらせていくなかで
わたしは何かを知り何かを忘れていく
けれどそれはおそらく
思い出せないだけでずっと脳に刻み込まれ
わたしといういっこの人間をつくりあげる土壌となる
わたしはまだ春を知らず
わたしはまだ夏を見ない
わたしはまだ秋を超えず
わたしはまだ冬もすごしたことはない
赤子が空を見上げるように
無垢ではないのに無知のまま
けれど無知を知ることで
つぎに訪れるであろう季節の肥しをつくる

わたしはまだ季節を知らない
人間となるためのめぐりめぐる季節を
夢幻もおそらく霧のなか
わたしはまだ人間を知らない

夜に

2008-08-07 | あたたかい
帰り道では気にも留めていなかった
電話ボックスで
女の子が楽しそうに喋っていた
わたしとそう変わらない年ほどの
女の子

そうだ
たとえば喋る相手を持ち歩かなくとも
みんな彼女のように笑うことができる
わたしはたぶん
通話時間ばかりを気にするけれど
その合間でも笑うことはできる

悔しい
あったものを見過ごしていたこと
嬉しい
あったものを見つけられたこと
話す相手はいないけれど
そこにある、となんだか安心
女の子も安心しつつ
誰かへ電話をしたのだろうか