暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

汝隣人を愛せよ

2022-12-23 | あたたかい
股関節がぐらぐらと揺れる
歩いてはいけないと言われても
歩かねばどこへも行けやしない
自分を大切にせよと人は言う
なぜそうしなければならないのだろう

休みなさいと忠告される前から
私はずっと休んでいる
本当は動かなければならないくらい
怠惰でも体はすり減っていく
目は年々何をも映さなくなってきた

声が
声が聞こえるか
私の声は聞こえているか
お前の耳に届いているか

やらねばならない事が山積みで
それは己の怠惰による
私の不肖が生んだ事
すり減っていくのが摂理ならば
安易な自愛はただの浪費だ

動くうちに見えるうちに
動かなくなれば見えなくなれば
私に残されたのはたったの一つ
声を頼りに這いずって

声が
声が聞こえるか
お前の声は聞こえているか
私の耳に届いているか

自切ごっこ

2022-12-21 | 錯乱
頭の中を覗いても
何にもないよ空っぽだよ
欲しいものは全部遠くにあるし
歩いて行くには疲れちゃったし
あるもの全部捨てたから
一つだけ残ってるのは小さなねじ
からりころり音が鳴ってて
おもちゃにでもなったみたい
なれればよかったのにね
手を取ってくれる誰かなんて
期待するだけ分不相応なので
こうして横になっているよ
一つだけ懸命なのは内臓器官
どくりもぞり音が聞こえる
今なら標本になれそうだね
目に見えるものに意味なんてないし
触れたから何だっていう話
生きているだけで価値があるなんてのも
空虚さを慰めたいがための欺瞞だ
空っぽなのは事実なんだから
排泄するだけ害悪だと認めればいい
動物には生産を奪っておいて
自分たちは非生産を容認して
他者には役割を強いておいて
自分たちの無価値は否認して
無為で無益で理不尽なことを
個性だとか何とかいい感じの言葉にまとめて
なんとなーく許容してなんとなーく拒絶する
だから全部捨ててもいいんじゃないかなって
だってこれも個性のひとつだから
でも
今言ったことは全部嘘
からりころり鳴るねじの
どくりもぞり蠢く臓器の
奇跡のハーモニーが奏でた幻聴
気にしなくていいよ
ぜーんぶ気にしなくていいんだよ
大切にしないやつが
大切にされるわけがないんだから


HONOR

2022-12-20 | 自動筆記
わたしがかつて手にしていたものを
ひとは名誉と呼んでいた
わたしもそれを名誉と知りつつ
見えないふりをし続けた
驕らぬように 良く見えるように

わたしがかつて手にしたものは
ひとが名誉と呼んだだけ
わたしはそれを名誉と誤り
見えないものをに背を向けた
空を掴んで良く見せようと

もしも手に何もないなら
わたしは空を掴んでいる
わたしは何も持ってはおらず
光ばかりがうわずっている

ひとも容易くそれを忘れ
かれらはそれを過ちとして
今日もたのしく暮らしている
ただ生きているだけで良かった

ただ生きているだけで
それがどれほど困難か
わたしの培った霞の城は
わたしという全てを費やしていた
奥ゆかしさが美徳と言うなら
わたしの玉座はどこへ行った
見えぬふりをしたせいで
わたしは空を掴んでいる
最初から何も無かったのだと
認めるにはあまりになまあたたかい
わたしは空を、掻いている

タンパク質

2022-12-12 | 狂おしい
私は変性した
不可逆的に、恒久的に、顕在的に
あなたは不変のまま存在する

顕在的に変性した私を
あなたは観測可能である
しかしながら
あなたは事実を認識することはない
何故ならばあなたは不変だからだ

あなたは偏執している
私の不変性を求めている
普遍的な価値観に基づいて
私に不変性を求めている

あなたがあなたとして組成される
要素の一つに晒されたことで
私は変性してしまったにもかかわらず
それは顕在的だが
物理的な変性とは言い難い

あなたは不変のまま存在する
だからこそ私に希求する
あなたの不変性は側面に過ぎず
熱を加えれば物理的に変性するだろう

私は変性した
不可逆的に、恒久的に、顕在的に
あなたがそれを理解する時
あなたもまた変性するだろう
不可逆的に、恒久的に、顕在的に

コタール症候群

2022-12-09 | 錯乱
外形をなぞることで空間を把握している
外形をなぞるだけでは密度は把握できない
縦に割ると空っぽだとしたら
空間の占める割合は増加する
重量をもし量ったとして
濃い密度の輪郭線により形成されているなら
縦に割るとやはり空っぽだ
空間の占める割合は増加する
あのビルひとつひとつも
ざわめいている木々も
蠢く人の群れも
縦に割ると空っぽだとしたら
縦に割りたい
縦に割りたい
確かめるのが怖い

小さくなってしまった君へ

2022-12-06 | 心から
心拍数が上がった時、私は努めて深呼吸することにしています。
大きく息を吸い、肺に空気を満たし、
ゆっくりと、時間をかけて息を吐き出すのです。
近頃は寒くなりましたから、空に向かい息を吹きかけたなら、
それは白い靄となって高くぼやけた天へ上ってゆきます。
眺めていると、ほんの少し落ち着いたような気がするのです。生き急ぐ鼓動にかかわらず。

私は思うのです。
大きく息を吸って、吐き出したとき、
魂もそのまま抜けていってしまえたらいいのに、と。
私の魂は私という肉体を棄てて白い靄となり、
自由きままに天という虚空へ上ってゆき、
そうして掻き消えていく。
どれだけ幸いでしょう。
どれだけ、楽になることでしょう。

ですが、絵空事は当然絵空事に過ぎません。
私の愛したものたちは誰もが魂を吐き出し、上ってゆきましたが、
たとえその間際が、まるで深呼吸をするかのように容易く行われたように見えたのだとしても、
彼らと私の間には天よりも遠い隔たりがあります。
私の肉体は重い。心臓は懸命に生きている。
私は、私を見捨てられないのです。
彼らに憧れながら、天へ掻き消えていった彼らの魂に焦がれながら、生きていくしか出来ない能無しです。
もしも私がそれを成せたとして、
私に愛を遺してくれた彼らへの侮辱に他なりません。

だから、夢を見させてください。
空に絵を描かせてください。
心拍数が上がったとき、肺に満たした、私のありったけの魂を、
かりそめでも天へ送らせてください。
重くなっていく体も、悲鳴をあげる心臓も、
そうすれば、少しは楽になる気がしているのです。

穏やかな摩耗

2022-12-06 | かなしい
スチームとダクトの音に負けじと
白々しく充満するクリスマスソング
不安を塗りつぶすように、
侘しさを押し隠すように

目の眩む電飾のあかりと眩んだ視界は
果たしてどちらが現実なのか
わたしは決め兼ねている

安寧を抱いて眠りたいだけだ
温かいものに触れて安らぎ
安寧に抱かれて眠りたいだけだ

安寧をかれらはせっついてくる
しあわせであれ、ひとびとよ、
しあわせであれと急かしたてる
ひび割れたスピーカーの音
いくつもの死に体を抱えるフィラメント
浮腫んだ足の指の先

眩んだ世界は元に戻らず
ふらつきながら帰り着く
帰るという形容が相応しくなくとも
ここしか戻る場所はない
安寧を抱く、ひんやり冷えていても
それでもわたしの安寧だ