暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

死の穴

2021-02-25 | 暗い
真っ平らな大地
私はどこにいるのでしょう
行けども行けども果てはなく
けれど声が聞こえるのです、
前に、前に進みなさいと
飢えども齧る果実はなく
渇けども啜る水もなく
ただ茫洋と広がるだけの
道すらない平地を歩くのみで
私はどこにいるのでしょう
どこへ向かっているのでしょう
声は答えてくれません
ただ進めと促すばかりで
蹲って人を待ち
ただいたずらに喉を震わせ
どこまでも見える果ては残酷です
戻る場所さえとうに見えなくなりました
死ぬためのロープさえもなく
頸には手の形の痣だけが
いたずらに堆積してゆきます
掻きむしった腕から滲む血では
死など到底望めやしません
私は、私は何のために
何のために生きて死ぬべきなのか
目的のない生は狂おしい
無益な死さえも許されない
ひび割れた爪の先が腐る頃には
痣だらけの頸が弛む頃には
死の穴が祝福してくれるでしょうか
何も見えないのです、何も
ひとりきりの声は虚ろに
進め進めと囃し立てます
真っ平らな大地は残酷に
私を生かし続けるのです

最愛の人よ

2021-02-17 | 狂おしい
好き
好きよ
醜いものを見ることのない
目の潰れたあなたが好き
どこへも行かずとどまってくれる
足のもげたあなたが好き
耳はわたしの声を聞くため
腕はわたしと手を繋ぐため
かみさまが残してくれたのね

恐れることは何もないの
こわい人はみんな消えた
わたしとあなたのふたりきり

好き
好きよ
慎ましい声を出すだけの
喉の潰れたあなたが好き
みだりにふしだらに誘惑させる
欲のもげたあなたが好き
わたしはそんなものに惑わされない
こころはいつでもあなただけのもの
かみさまもそう言ってくれるわ

悲しむことは何もないの
ここはとても優しい場所
ふたりで幸せに生きるのよ

どうかどうか泣かないで
涙を流すことなんてないけれど
どうかどうか叫ばないで
声はとうに枯れ果てたでしょう
抱きしめて、愛しいあなた
わたしが抱きしめ返してあげる
立ち去ることなんてできないわ
その姿で誰があなたを愛するというの

好きよ
わたしの願い通りに在るあなたが

ここはとても安全です

2021-02-12 | 狂おしい
青いままに灰へと変わる
善良な人々が歩いている
見てごらん、かれらは
今まさに唾を吐き捨てた

見てごらん、向こうに見える
真新しい飛び出し注意の看板を
あそこで誰かが轢き殺された

側溝を流れる汚泥と同じだ
紙くずを捨てたその指先を
先っぽからばらばらに切り落として
泥と一緒に流れれば良い
ああ反吐が出る、反吐が出る
見てごらん、ここもあそこも
どこにいるのも善良な人々
きれいな目をして子の目を焼いて
涼やかな声で悪人たちに裁きを下す
体裁だけはご立派な墓標を並べ立て
なんと美しい夕暮れだろう
なんの色も見えやしない

吠える犬は踏み殺せ
浅ましい鼠にくれてやれ
その腕が足が善良だと言う口も
一センチ四方の肉の塊

夕暮れは赤く染まろうともせず
赤くなったなら流せば良い
ああ反吐が出る、反吐が出る
なんと善良な人々だろう