暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

いつもありがとう

2019-09-25 | 狂おしい
一呼吸をするたびに
たましいはゆるり抜け出ていく
目減りした器のメモリをかぞえ
深くふかく息を吐き出す
空白値をしめした時なら
おまえに臓腑をぶち投げて
使いもしないその器の
目盛りをのこらず奪っても
構いやしない、そう
ごくささやかな願いを持っている
たゆたうたましいは霞となって
そこらに撒き散らされている
かき集めるにはもう遅い
盆にかえらぬ覆水を
おまえはどうやら知らぬらしい
だからわたしはおまえの口に
ひよわな細腕をねじこませ
回路の乱れたメモリを示す
強いこころを引きずり出して
せいいっぱいに割ることを
こころの底から願っている
あと一息で、ひといきで
おまえもわたしも終わるのだ

偶像

2019-09-08 | かなしい
私の信ずる神は
私に何をも与えてくださらない
何を捧げるべきでしょうか、
祈りに対する答えはなく
ただあいまいな笑みをうかべて
じっとそばに佇んでいる
私の心が足りないのならば
この心臓を捧げても良い
与えてください、どうか私に
どのような命もやってみせます
あなたの信徒である証を
ほんのひとかけらの温もりで良い
どうか私に与えてください
私を私でいさせるために
あなたを信じた証のために

悪意の壺

2019-09-05 | -2018,2019
落窪んだ蠱毒の穴に
指を入れれば腐り落ち
身を投げた尊ぶべきひとは
都合が良いと誹られる

なんて善き人々だろう!
自らの身を挺してまで!
我らを救けてくれたのだ!
彼らの犠牲をたたえよう!

剥き出した骨は洗われもせず
次の穴を満たす水が
水たる証拠を待ち望まれる
浸された足首の鎖は落ち

私にできないことをして、
ああなんと素晴らしいひと、
あなたがいるから私はこうして、
五体満足でいられるわ。

指が落ちれば次は腕
腕も消えれば次は足
足も溶けたら次は鼻
その次、次を、次を

なぜ苦しそうな顔をするの?
どこへ行こうとしているの?
誰に助けを求めているの?
あなたは我らの救い主

誰にも出来ないことを成す
尊い人は消費され
賛美歌が朗々と歌われる
臓腑の欠片が配られる

かの者の死を讃えるべく
地中深くへ埋められた棺は
骨も肉も髪の毛さえも
一片の細胞片すら残されず

なんて善き人々だろう!
尊い英霊をけして忘れず!
毒は毒だと証明された!
血肉は皆の一部となった!

いつか染みゆく巫蠱の毒よ
骨身を臓腑を食い破れ
尊い人はすべての者に
等しく与えられるべき称号だ

壺の中の毒虫は
いつの間にか消えている
善き人々よ、あなたはいずれ
英霊の道を辿るだろう

愛とは与えるもの

2019-09-02 | つめたい
私の穴を埋めてくれ
大きく開いたこの風穴を
元のように綺麗さっぱり
一切の隙間もなしに埋めてくれ

ひゅうひゅう抜ける穴を見て
あなたは小さな人形をくれた
その心臓は私の穴へ
宛てがうのには小さすぎた

腕いっぱいのお菓子をくれた
隙間なく詰めたそのはしから
砂糖はぼろぼろ崩れて落ちた
トンネルは未だ続いている

あなたはあなた
たとえどんな姿でも
優しい腕で抱きしめてくれた
空洞をまるで避けるように

代わりのものなどありはしない
詰めたはしからぽろぽろ落ちて
風が体を突き抜ける
あなたを嘲笑うかのように

「心臓を肺を失くしたのなら、
人は生きてはゆけぬでしょう。
代わりのものなどありはしない、
元の臓腑を戻したとしても。」

私の穴を埋めてくれ
私の肉を返してくれ
私の肉を元の通りに
私の穴を返してくれ

ひゅうひゅう抜ける穴を見て
こぼれて落ちる菓子を見て
その腕でどうかこれに触れて
あなたが後ろに持っている

私の肉を返しておくれ
他のものなど要らないから
あなたは微笑んでやってくる
大きな大きな 愛を連れて