暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

不具の象徴

2023-01-11 | 
子供の頃はよく砂利を噛んでいた
今じゃめっきり味わうことのない感触
砂と砂利と
ほんの少しの土の匂い
歯にぎちりと食い込むあの感触が嫌いだった

あれによく似ているんだ
白くて脆い砕けた歯のような塊が
喉の奥から溢れてくる 次から次へと
とめどなく
痰を吐き出す時みたいに
鼻水を喉から出すみたいに
搾り取ってやるんだけど
それでもひたすら溢れてくる

いくら出し切ったと思っても
喉のどこかでそいつは残っていて
すこし経てばすぐに口を埋め尽くすんだ
吐き出すとざらざら音がする
唾液は多分どこにもない
乾いた白くて脆い砂利が
砕けた骨の抜け殻が
ただただぼろぼろざらざらと

歯で歯を噛む感触に似ているんだろうな
どこから出てきたのかもわからないし
どこかが失われているかも知れないし
出てくるなら吐き出すしかないだろ
でなければ気道も食道も詰まるんだから
ああ、嫌だ とても嫌だ
すっかりなくなってしまえばいいのに

嘔吐の後にはこんもりした山ができる
白い砂利の山を見ると どうにも
笑いが込み上げていけないんだ
誰がこれを吐瀉物と思うだろう、と
馬鹿馬鹿しいし滑稽だし
それでも砂利はざらざらあふれる
あるはずのない土の匂いが
鼻腔を子供の頃に返させる
終わりなんてない
砂と砂利と土の味

凍える夕暮れ

2023-01-10 | かなしい
暮れゆく陽を追いかけて
迫り来る夜から逃れるように
足早な歩みを続けている
凍える夕暮れ

流した涙を顧みられることはなく
路傍の花が一輪静かに枯れるだけ
何者をも産まず
何者にもなれず

過去の果てに今があるなら
私はそれでも構わない
過去は過ぎ去ってしまったもの
今、通り過ぎた彼らのように

私には立ち去ることが出来ず
止まっている、歩きながらも
有り体の幸せを得られなかった過去は
たとえ未来に励もうとも

傷を埋めることは出来ない
涙を拭うことも出来ない
追いかけた陽は無情に沈み
花がまた一つただ枯れる

何者にもなれず
何者をも産まず
何者をも愛せず
何者にも望まず

夕暮れはやがて凍える夜になり
私の残した雫の跡を
ひとつひとつ追いかけるだろう
私は融ける日を待っている