滑る水面
はためく髪
冷えた風
ガソリンの臭い
あの頃のことを思い出している
鼻の奥をつんと湿らせ
静かに波はたゆたい
濁った水面を覗き込んだ
わたしの顔はゆらりと歪み
淀んだ瞳が見返していた
鳥がばたばたと飛び去っていく
残されるのは波の音
帰る、帰るのだ、あなたの家へ
わたしの居場所はどこにもない
優しく微笑むあなたの隣で
どうにか胸を描き毟らずに済んでいる
「とてもたのしいいちにちだった」
「ああ、おわってほしくない」
ぬかるんだベッドに横たわる時
なめらかに過ぎる水面を見た
飛び去っていく鳥たちをよそに
濁った底へわたしは沈む