暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

不変

2011-03-30 | かなしい
つめたいつめたい視線の雨
皮膚にこころにまぶたに傷に
染みて深くで棘を出す
食い込み殻を突き破る

ごめんねわたしがわるかった
それで許す世界はなかよし
非暴力を貫いて
視線を槍に付け替える

突き刺し飛び出し朽ち果てて
それならどれほど平穏か
荒れた手のひら見つめては
熱い汗がにじみ出る

止めはできない視線の雨
血のない傷から血が噴き出し
棘はからだをひとめぐり
痛さに泣いても許しはしない

にんげん

2011-03-29 | 心から
おれの目のなかにはいりこんで
ぎょろぎょろ動かすやつはだれだ
見たくもないものを見せつけて
そんなにも楽しいものなのか
おれには命などはない
死を感じていないから
だのにこいつは目をぎょろつかせ
おれの命を見せつける
おれに死を勘付かせる

緩い坂をくだるように
おれの死はやってくる
そんはずではなかったもの
予定外のものなどは
おれは絶対に許さないのに
動くな、動くな、おれの目は
まっすぐ前を見ていればいい
まっすぐ前を信じればいい
見るな、見るな、おれの目よ
これは真っ赤な嘘なんだ
こんな真っ黒い肉体なんて

それは嘘だこれは嘘だ
おれは今なお生きている
あれも嘘だどれも嘘だ
あれとおれは違うんだ
ぼろぼろ剥がれていっているのは
おれの強く気高いこころ
塵に舞い上がって消えていくのは
おれの醜く傲慢なきもち
見るな、動くな、おれの目が
内側までも崩すのか
おれ自身を壊すのか

おれは死なない死にはしない
緩やかに緩やかに朽ちもしない
おれは気高く強かで
それでも普通に生きていて
まっすぐ前を向くかぎりは
潜む獣も見えやしない
だからおれは生きてゆける
だからおれは縋ってゆける
どうか見るな、おれの目よ
たとえほんとうを悟っていても

たそがれの夢

2011-03-25 | 
透き通った海に
大きな魚が泳いでいる
平穏という言葉を彼らは知らないように
わたしたちもまた彼らの平穏が
何たるかを知りはしない

透き通った海に
真っ黒な塊が浮かんでいる
波打ち際でゆうらり揺れているそれは
あるいは子も親も忘れ
かつて細胞を蘇らせていたものたち

触れてはいけないよ
人ならざるものになりたくなければ
街の丘に住む異様な彼ら
彼らのしもべになりたくないのなら

たそがれが永遠に続くここで
海は鮮やかに色を映している
人々は砂浜に座り込み
平穏な魚たちと
死した同朋とを眺めている
接地から徐々に毒を染み込ませながら
生と死の間でゆらめくおのれを
眺めている

流れ着いたものが鋭利な刃物でも
わたしは彼らに手をかけられない
たとえわたしは海風を吸い込み続けて
腐りながら死んでしまうとしても
たとえ彼らが丘の上で
清涼な空気を吸い続けたとしても

そうわたしは殺せない
善と悪の仕組みが変わったなら
境界さえもがなくなってしまったなら
魚さえも仲間さえも
敵でさえ羨むべきあたらしい人ならば

透き通った海が囁いている
染み込んだ光にのたうち回り
魚たちは優しくまどろんでいる
黒くなった足先を見つめるわたしは
きっといずれ海に帰るのだろう

被告の絆

2011-03-08 | 狂おしい
高い塔がそびえている
あそこへは行けない
なぜってぼくには

(手足も目もない)

いやだいやだやめて痛い苦しい死にたくない
ぼくの罪ぼくの罪ぼくの罪
ああごめんなさいほんとうに
わがままを言ってしまって
塔へ行ってしまって
最初は爪、それから毛が
痛い痛いやめて痛いからどうか
どうか神様ぼくを(神様はきっと塔のてっぺんで)(ぼくが許されるまで待っている)(見ている)(見ているだけ)(ぼくはこんなにもつらいのに)(あいつは見ているだけ)
殺してください、どうかどうか
死にたくない死にたくない
その釘は何のために使うの打ち込むためな使うの何のために何のためにぼくを(罰するために)
罰なんて嘘っぱちじゃないか痛い
ぎらぎら光る目とぼくの汗とぼくの血
ぼくの血は地獄へ染み込むんだぼくは悪いこんなにも
血を止めてやめてそれを出さないで
ぼくの世界が止まってしまうお願いだから
歩けないからやめて犬のようにけれど罪は犬以下になる
信じなければ救われないならぼくは絶対に信じない
おまえを許さない
抉るな捩るなつまみ出すな
「とうといぎせいのこひつじちゃん」
塔に行きたい、あの塔へ
神様はぼくのようなからだをしていて
ぜんぶぜんぶ憎んでいるそうに決まっているぼくにはわかるぜんぶぜんぶ憎んで神様になっている
おまえを絶対に信じないぞぼくは
誰か誰か助けて(声は)(出ない)(けど)

高く高くそびえる塔
今も変わらずあるはずの
ぼくは盲いた目でそれを見上げる
いもむし以下には食事なんて
ぼくは盲いた目でそれを
血は地獄へ行った
体は地に堕ちた
腑は海へ流れた
肉は下水を通っている
塔へ行きたい、あのてっぺんへ
歯のない口で神様をくわえ
大地へ叩き落とすんだ
ぼくは塔へ行きたい
ああ、もうやめて、これ以上
罪なんてあるはずない
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい

要修理

2011-03-08 | -2011
散らばった散らばってしまったから
片付けを手伝ってくれないか
ああそこにもあそこにもそこかしこ
片付かない全然終わらない
びちゃびちゃぼたぼた音が聞こえる
ばかふざけるなこのぐずしね
片付かない全然終わらない
さっきそこはきれいにしたそれだのに
びちゃびちゃぼたぼたこぼしている
散らばった散らばってしまった
おまえわたしのまえに来るなよ
わたしをまじまじ見つめるなよ
そろわないそぐわない片付けていても
片付けてから直したいから片付けている
びちゃびちゃぼたぼたしたたっている
わたしを見るなわたしを見るなしねしんでしまえ
死ぬより醜いこのすがたを見るな
ああでもほらまた散らばったばか
拾え拾えよびちゃびちゃぼたぼた
つなぎ合わせて戻しておくれよ
わたし肉なんかじゃないだから片付け
もうまたこぼしただろいいよもうしねよ
びちゃびちゃぼたぼた