暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

空間上

2009-06-20 | 狂おしい
どうか私の手をとって
血肉を奪ってはくれませんか
僕とあなたは同じ生き物
それを忘れてあなたは縋る
きゃしゃな体はあぶらに埋もれ
黒く肥大するばかりで
幾度も家畜とののしられ
汚物にたとえられたりもし
あなたは僕を忘れていった
あなたの心のありどころは
もうあなた自身にしかなくなった
僕はいつでも用意している
あなたを包む毛布を持って
もしもあなたが望むなら
真にそうだと望むなら
毛布を魔法でナイフに変えて
要らないあぶらを削いでもいい
痩せて枯れゆくこの体を
死者と罵ったっていい
あなたの世界は遮断され
僕は認められなくなったけれど
僕はあなたとおんなじに
あなたに救いを求めている
私のことを見なくなった
それはあなたも同じこと

不安症

2009-06-17 | つめたい
遊び心が消えていく
猫の死体を一瞥する
ご飯は余ったら捨てる
排泄に嫌悪がなくなる

どうでもいいと思う
わたしのことなど

ただ毎日を生きる
違和感はその場その場でごまかしながら
日常をありていに生きるという幻想に
得られていないはずの満足を先に得た気になる
世界はどちらにしろ
わたしのものなのだからと

甘美な吐息は
いつしか内臓の腐敗臭に変わってしまった

猫の死体は腐る
ただ一瞥して過ぎる
腐る前に誰かが処分してくれる
コンクリートに焼かれる
消えるはずのない物体に
嫌悪感をおぼえる

嫌悪されるべきはどちらなのか
問いが無駄だと知ってしまっている

生きているとは腐らないこと
その程度にしか思えずにいる
すくなくともわたしの生は
生きるまでは腐らないこと
死ねば腐っていくということ
最後には溶けるということ
その前に燃やされて水になるということ
かずかずの死体のように
ただ一瞥されてしまうなら良かった

ぜんぶもえた

2009-06-05 | 狂おしい
大切にしまっていた
きらきら光る宝石は
おおきな炎に燃やされた

焼けた跡地は黒ばかりで
完全に死んだ世界が
そこで切り取られ残されて
小さな石を拾い上げると
いとも簡単に崩れて消えた

わたしの石はどこへ行ったの
探しても探しても黒い炭
あんなにきれいだったのに
探しても探しても黒い炭
誰もがわたしを慰める
誰も悲しくなんてない
わたしの石はどこへ行ったの!

ひと吹きの風が吹いたとき
宝石を含んだ死者の境界は
粉塵となり舞いながら消えた

きらきら光る宝石は
大切に大切にしまっていた
おおきな炎に燃やされて
わたしは死んだ彼らに祈る
きっと彼らより醜いわたしが
誰よりも醜いこころのわたしが
悪かったはず

無知

2009-06-02 | -2009
わんわん、
きゃんきゃん。

こいぬが
ないている。
はしりまわって、
かけまわって、
ぐるぐるまわって、
ないている。

わんわん、
きゃんきゃん。

けれども
おひさまは
しずんでいく。

わんわん、
きゃんきゃん。

こいぬが
ずうっとないている。
たべもしないで、
のみもしないで、
ぐるぐるぐるぐる
ないている。

わんわん、
きゃんきゃん。

またおひさまが
のぼっていく。
またおひさまが
しずんでいく。
なんてたのしいのだろう。
なんてまちどおしいのだろう。

だあれもこない。
いつかはくる。

わんわん、
きゃんきゃん。