暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

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2023-06-29 | 自動筆記
群発してなりやまぬ思考の塊が
同時多発ではないが極めてそれに近い速度で
瞬間的に点在しては閃いて
収束を見届ける間もなく
やがて衛星には程遠い思界では
観測不能になっていく
それらは私という観測者のもとに
存在を確かに認められているが
しかし客観性事実というものは
第三者という私以外の観測者なくしては及ばず
これはあくまで私的な認識に過ぎない
口を噤む限り事実は事実にはならない
手のひらから無限に砂が生まれているようで
砂は固めねば砂のままにしかなりえない
比喩ならいくらでも思いつく
全ては繋がっていると表現するのは容易い
しかし実際には
言い当てるための的を見いだせていないただの無能
生まれるばかりで制御がきかない
ブレーキが時々壊れてしまう
生存の境界線を考え続けている、
正常も異常も善と悪とは何の相関もない
言葉はただの言葉に過ぎないが
そもそも群発するこれらは五感のいずれに当たるのか
正しい言葉
正しい言葉を探している
つまるところこれらの言語と思考の爆撃は
無益なトライアンドエラーに他ならず
性能の悪さが露呈された結果に過ぎない
ブレーキの壊れた車に誰が乗りたがるだろう
爆心地に誰が近寄りたがるだろう
けれども私は降りることもできなければ
そこから離れることもできない
しかし口を噤む限り事実は事実でないのなら
暴走する車はなく
星は落ちることもなく
爆心地は存在しない
破壊によって生み出される創造を
手を動かすだけで得られる報酬系の充足を
破滅を願う生産活動を
車の上でおこなっていれば
第三者という観測者は
それらを正しいと
善であると裏付けるだろう
客観的事実とは
所詮ヒトというたった一種によって依拠される
利己的な価値の納得のために過ぎないのだから

HONOR

2022-12-20 | 自動筆記
わたしがかつて手にしていたものを
ひとは名誉と呼んでいた
わたしもそれを名誉と知りつつ
見えないふりをし続けた
驕らぬように 良く見えるように

わたしがかつて手にしたものは
ひとが名誉と呼んだだけ
わたしはそれを名誉と誤り
見えないものをに背を向けた
空を掴んで良く見せようと

もしも手に何もないなら
わたしは空を掴んでいる
わたしは何も持ってはおらず
光ばかりがうわずっている

ひとも容易くそれを忘れ
かれらはそれを過ちとして
今日もたのしく暮らしている
ただ生きているだけで良かった

ただ生きているだけで
それがどれほど困難か
わたしの培った霞の城は
わたしという全てを費やしていた
奥ゆかしさが美徳と言うなら
わたしの玉座はどこへ行った
見えぬふりをしたせいで
わたしは空を掴んでいる
最初から何も無かったのだと
認めるにはあまりになまあたたかい
わたしは空を、掻いている

今日も冷凍庫の中

2022-10-07 | 自動筆記
昨日の宇宙にこんにちは
神の手なんていらないから
手のひらに収まるだけの小鳥をください
大きな鳥も沢山の小鳥もいりません
嫌いになりたくない

(だきしめられてほしい)

今日の宇宙におかえりなさい
神の手はもう売り切れましたか
手のひらの小鳥が動かなくなりました
大きな鳥も沢山の小鳥もだっこしたい
嫌いになることがないのなら

(つめたくなることもなく)

明日の宇宙にさようなら
神の手だけが残りました
小鳥は元気に空を飛んでいます
大きな沢山の鳥が羽ばたいています
血の焼ける臭いがする

願いの通り

2022-09-14 | 自動筆記
古びたあかるい音楽
踊る、歌う、人形劇
ふつりと途切れた糸
思い出に踊る人形劇

(いとのきれたにんぎょうを、ごみばこにすてました。もううごかせないから。そうしたらおかあさんがすごいかおをして、わたしをおこりました。わたしはなんでおこられたのかわかりませんでした。でも、いけないことだとわかりました。だからわたしはごみばこにはすてないようにしました。ごみばこにすてなかったらいいんだとおもって、しにそうなねこをらくにしてあげたあと、つちにうめました。もううごかないから。なんでころしたんだっていっておこられました。らくにしてやりたいって、いってたから、らくにしてあげました。でも、いけないことだとわかりました。なんでいけないのかはわかりませんでした)

光が踊る
光が踊る
一人残る
ただ独り

(せんせいが、じゅぎょうで、みんないきているといいました。いきているから、たいせつにしないといけないんだって。わたしはよくわかりませんでした。でも、そういうものなんだとおもいました。わたしのあざのことを、からかってきたこの、ふくにひをつけました。そうしたらせんせいもおかあさんもおとうさんもすごいかおをして、わたしをおこりました。わたしはなっとくがいきませんでした。いきているから、たいせつにしないといけないっていっていました。だから、ともだちがしなないように、ひをけしてあげたのに)

あなたがいる
わたしがいた
だれもいない
だれもいない

(生きている存在が生きていると証明する手段は今のところありません。一般的には、我思う故に我あり、つまり自分の生存証明だけは殆どの人が信じているようです。しかし主観による見解を事実と同列には出来ません。私及び貴方、自己と他者の生存証明は不可能です。自分の生存でさえ疑わしいのに、より一層定義の曖昧な生命に対し、どうして尊重する必要があるのでしょうか。私は傷つく事が無いのに、どうして理解も共感も及ばない他者の感情を慮る必要があるのでしょうか。生命は活動を停止すると肉の塊となります。それらにどうして感傷する余地があるのでしょうか)

私は:
生きて当然だと思わない貴方が好きです。
けれど生き続けようとする貴方が好きです。
出来るだけ、貴方に生きて欲しいと思います。
貴方の██だけは願わくば受け取りたくないと

思って

いました。

不安の液垂れ

2022-09-02 | 自動筆記
 細やかな傷のういた容器のふちから、不安が液漏れをしている。蓋を確りと締めたはずなのに、泡をふいて、こぼれている。
 不安の液漏れはどろりとしていた。触れると手に纏いつき、さながら洗剤を思わせる。しかし洗えども落ちるきざしはなく、清涼な水をけがし、増殖をして、いつまでもいつまでも粘ついて離れない。掌にべたりと不安がこびりついた。
 拭けば良いのだ。手元にあった布は何日も何週間もそのままで、既に不安の滓が蔓延っていた。薄ぎたない黄ばんだ布はいっそう煤け、掌はもはや取り返しのつかないものになった。
 なみなみと入った積年の不安は、幾度となく液漏れを起こした。漏れては、試み、拭えず、途方に暮れたはずだった。閉じたまぶたの裏側で眼球を何度も左右に動かしながら思い出そうとする。忘却を試みながら。
 誰かになすりつけたのかもしれなかった。不安は人の肌を好むのだから。外へ出て、約束を告げた人と握手を交わす。不安の液漏れは果たして彼にも伝播した。けれども掌の汚れは決して失せず、むしろ益々、滲んできた。
 数え切れぬ者たちと触れ合っていく。けたたましく耳障りな笑い声をあげて、肩を抱き合い、慰め合い、互いの傷を舐めるふりをしながらも、互いの不安の液漏れをなすりつけ合った。
 再び帰宅して鏡を見た時、もはやこの顔は顔とも呼べぬ有様と成り果てていた。疲れ果てていた。満遍なく覆い尽くした不安の塊が、気道をも鬱いでいるかのように感ぜられた。
 もはや人らしい活動など不可能だ。絶望し、不安に押しつぶされた背中は丸まったきり戻らない。一歩すすむ毎に床が底なしに沈んでいく。木の板でさえない、まがい物のフローリングのやわらかさが、ひたすらに苦痛と呼ぶよりなかった。
 這う這うの体でベッドへと横たわる。薄汚く、すえた臭いのする不衛生な寝具は、かえって心が安らいでいく。びりびりと麻痺していく。何もかもが。
 眠る。幾日も、動けぬ日々を貪り尽くす。やがて起きることのできた日、ようやくわたしは思い出した。
 不安を詰めた容器はすぐそばにある。今も、どこにいても、いついかなる時であろうとも。液漏れを起こした傷だらけの容器に、わたしは手を伸ばした。

2021-12-15 | 自動筆記
きのう食べた蟹の爪が
目玉をかりこり引っ掻いているらしい
まだ生きている、しぶといやつだ
おかげで世界は終末だ
ご覧あそこを
自転車の籠に脳が乗っている
はは愉快愉快

ほらほら星が落ちてくる
随分派手な死装束を携えて
終わりなのだから折角だから
盛大に散っていくつもりらしい
写真を撮るなら今のうちだ
どうせ既に死んだ星
看板も残らず割れてしまって
どうせ既に死んだ星

どらどら一丁見てやろう
滅びた後の世界の味を
腐って乾いた蟹の身より
きっと少しはマシだろう

肉親

2020-07-03 | 自動筆記
繰り返し繰り返ししゃべり続ける
もういいんだ、もう逃げよう
そう言い聞かせている間に
月日は年に繰り上がる
耳を塞いで音は聞こえず
吐く息だけがこだまする
吸い込む音は聞こえないくせに
吐く息だけがこだまする
繰り返して繰り返して言い聞かせ
声、音、振動、震え、
浅ましくも逃げ出したいと願うのに
年もいくつか繰り上がった
あなたから逃げ出したい
けれど足が動かない
あなたの声は聞きたくない
けれど耳はまぼろしを拾う
どこまでもどこまでも
繰り返して、繰り返して、
どこにいるのか堂々巡りで
影のようだと言い切るのには
日差しは強く降り注ぐ
四方八方、上にも下にも
影の余地など残されてはおらず
なぜあなたでなければならないのか
なぜあなたが残り続けるのか
逃げさせてくれ、どうしたら
逃げることができたのなら
声もうまく出せるだろう
ことばもうまく出せるだろう
呼吸を止める必要はないと
息を吐き出すこだまのように
逃げることさえいらなくなりたい
ちらつくまぼろしはなぜ、
繰り返し、繰り返し、
同じところを回り続けるのだろう

奴隷

2020-02-03 | 自動筆記
なぜ震えているの
寒くはない ちっとも
寒くはない
汗がどばどば溢れてくる
なぜ何もできないの
動くことはできる
指はこうやって動いている
尋ねてくるのはいったい誰だ
ゆらりふわふわ漂って
着地した時泥になる
形をとどめることができない
なぜ形を
とどめることができないの
笑っている
笑うことならいくらでも
汗が止まらない止まらない
舌が歯に張り付いている
泥を動かすことは苦痛だ
なぜ苦しいと
うるさい黙れ
おまえはなぜ尋ねてくる
わかりきっていることを
どうしていまさら尋ねてくる
何度も何度も何度も何度も
同じことを繰り返して
息を吸って吐いて吸って吐いて
(震えている、視界が)
(うまく固定されないまま)
その繰り返しこの繰り返し
繰り返して繰り返して
反復、漂って、泥になって、
また何とかして形を作って
動けるのだと言い聞かせたなら
ゆらりゆらり繰り返し
再生、戻して、再生、早送りして
リプレイ、リプレイ、リプレイ、リプレイ
いつまで経っても震えはやまない
そんなことは気のせいだ
なぜ繰り返すとわかっていて
理由を取り除かないというの
人間であるために
人間でいるために

不眠

2019-07-22 | 自動筆記
吐き気がするほど疲れている
じっとり濡れたシーツを握り
待てども鐘は聞こえてこない
瞼のうらでぎゅるぎゅる蠢く
けばけばしい芋虫を潰せたら

(骨はまるで鉛だし)
(肉はいったん挽いて戻されたんだ)
(詰め物の鳥)
(つくねの焼き鳥)

消えた芋虫、増える梯子
階段を登れど上がりもせずに
だらだらと転がり落ちていく
奈落の底に落ちてしまえば
そこが楽園と呼べるはず

(どんなオチをつけるつもりだった)
(何を考えていた)
(何しろ脳みそが足の下まで)
(攪拌されたものだから)

明日は何をすべき
(あれとあれとあれ、あとあれ)
(まず起きること)
明後日は何をすべき
(その前に眠ること)
明明後日は
その次は
その次の次の次の次の次
(寝て起きて寝て起きて寝て起きて)
生きる手順:
目を開ける。手を動かす。時計を見る。二度寝をする。また目を開ける。目覚ましを止める。足を動かす。立つ。歩く。下着を下ろす。排泄をする。流す。コップをとる。水をひねる。うがいをする。コップをかける。はぶらしをとる。はみがきをする。うがいをする。重複に気付く。間違った。間違った。もうわからない。何もわからない。いいや大丈夫。巻き戻そう。
うがいをする。はみがきをする。顔を洗う。ごはんはいつ食べる。今か。後か。もっと前だったろうか。ごはんを食べる。覚えているうちに。思い出している。そのうちに時間が来る。家を出る。歩く。歩く。歩く。人を縫って。人を見送って。たどり着く。仕事をする。鏡を見る。化粧を忘れている。巻き戻そう。
顔を洗う。化粧をする。いや。巻き戻せない。仕事をしているのだから。会話をする。話をする。ひとと。話を。疲れている。鼓動が増える。最近自覚したことなのだが、いつからか会話をする際におのれの首に手を添える癖がついていた。添えるというより、力を込めれば絞められるような形に。首のカーブに沿って自ら手を添えている。あなたと会話をすることはまるで首を絞められているようです。
首を絞める。解放する。解放される。帰る。ごはんを食べることを忘れていた。巻き戻せないのでそのままにする。風呂に入る。そして目を閉じる。
目を開ける。
繰り返しているはずのことを、
(なぜ繰り返すことができず)
私は
(さも真っ当そうな顔をして)
お腹がすいた。

明日は何をすべきだろう
今日すべきことさえできないのに
明日のことを考えて
(紛れ込んでいるのか)
明後日のことを考えて
擦れ合う袖の数を憂いては
(こそこそ隠れている)
芋虫がひとりでに消えるのを願っている
(もう芋虫は)
消えた、芋虫は消えた
欠けた梯子を転がり登っている
挽き肉をぽろぽろこぼして
奈落はきっとあと少し
底に広がる楽園によって
ヒトの生活を許されるんだから

紛れもない妄想

2019-05-24 | 自動筆記
私は気付いた。焼け付く陽射しを浴び、光を嫌う油虫のように縮んだビルの影を縫いながら、歩きながら、これはいつもの道だ、いつもいつも通る道を歩きながら、私はある真理に辿り着いた。何ということだろう。今まで信じてきた常識はすべて覆った。北半球の太陽が西から登ることがないと信じてきたが、実はそうでないと知ったと仮定しよう。これまで在った常識が覆る衝撃、まるで冷血だと信じられてきた恐竜が実は温血動物で、しかも羽毛が生えていたということになり、恐竜がふさふさした羽毛をいっせいに生やし始めたが、どうやら全てがそうではないと覆され結局事実はなお有耶無耶になっている現在のような衝撃。そして困惑。事実という事象は自意識の見せる幻であり、物理法則もまた人類という一連のの神経細胞が見ている共通の幻覚に過ぎないのだ。ひしゃげた影は本当にひしゃげているのかもしれない。質量と実体をもった物質が光源に照らされた時、光の当たらない側が生じることによって落とされる単に光の弱い部位で、そこには影という事実しか存在せず質量はないとされてきた。しかし在ると言われたらどうだろうか。根拠を求めるだろう。しかし根拠とは幻だ。いくら並べ立てようとも根拠など存在し得ないのだ。なぜなら人間には意識というものがあり、その意識は不確定性にまみれている。その不確定性はある一定の同調性をも持っている。日本で描かれる太陽は赤い、実際にはまったく赤くはないというのに。いや赤くないというのも現在の学説で言えば誤りで、日光は赤くもあり青くもあり黄色くもある、つまりすべての色を含んでいるからこそ光なのだ。可視光線。人間にとり不可視の光線は紫外線あるいは赤外線などと呼ばれている。生物の中にはこれら人間の可視領域外の光を見出すものたちがいる。音域に関しても同様だ。人間には知覚できない領域は確かにあり、しかし不知覚領域を客観的に見出すために科学は今日まで発展を続けている。科学の力はとても偉大だ、然るべき手順を踏めばたとえ乳飲み子であっても同様の結果を得られる、万人に与えられるべき等しい事実の共有こそが科学だ。だがその科学は常に揺らいでいる。現在時点の現在座標における事実を仮に定め、科学者たちは真の事実とは何であるかを常に探し続けている。かつては大地を軸に天が動いているとされてきた。だが現在は反対にこの地が動き続けている、と、されている。宇宙を見た者だってごまんといる。もはや地動説は盤石の事実だと言ってもいいかもしれない。だがそれは人間の稼働領域における話に過ぎず、たとえばその影の隙間にある空間が見えるだろうか。見えないだろう。私にも見えはしない。しかしながら光の薄まったその空間は確かに密度が薄れているのだ。これは事実だ。光は粒子でもあり波でもある。だから事実なのだ、現在時点では。人間の知覚領域に存在しないものを、科学が証明できないものを、それらをどうして否定できるだろうか。もちろん肯定することもできない。でなければ科学という分野など必要ないからだ。すべては無為だ。すべては幻だ。根拠の無い話はすべて妄想と断ぜられる。暑すぎる地面。肌が焼けていく。そのような他愛のない会話を毎日続けている。ではこの自意識というものの根拠はなんだろう。根拠を提示することはできない。なぜなら自意識の在処というものは今日の科学でもなお証明できていない事象の一つであるからだ。根拠があるわけではない。つまり妄想だ。自意識は妄想。ならば自意識によって理論を構築し、自意識によって実験を重ね、自意識によって見識を共有していく科学そのものの根拠とはどこにあるのだろうか。根拠などない。そこにあるものが事実だと観測するには、自意識の量子はあまりに不確定性が過ぎるのだ。自意識とは魂と呼ばれることもあるだろう。自意識には、魂には質量があるのかないのか。非科学的な問いかもしれない、しかし科学的な問いもそもそも存在しない。根拠のあるものなど無い。逆に言えばすべてのものに根拠があるとも言える。どちらかわからないものはどちらでもあり、同時にどちらでもあるのだ。私は徐々に伸びていく影を見た。影に入る度に、知覚できないほど微量な私の質量がほんの少しずつ潰されていっている可能性はゼロではない。ゼロかもしれない。どちらでもない。常識とは根拠だ。私が今私という自意識でもってここに存在し、ありとあらゆる文化や知見を享受してきたという時空の積み重ねによる事実だ。覆されるのは私そのものだ。目の前にあるビルの質量は無い。道を歩く者に実体は無い。すべては自意識が見ているレンズ越しの、脳神経細胞による適切なデータ変換越しの結果に過ぎない。人間の処理領域はあまりに狭く、そして不確定すぎる。魂などない。自意識などない。私は存在しているが、これは電気信号によるデータの蓄積に過ぎない。あるいはそれもまた、科学という不確定要素を信じている現在時点での事実という名の妄想に過ぎないのかもしれない。妄想に根拠はない。しかし実在性にも根拠はない。ならば根拠などどこにも存在しない。あなたも私も彼も彼女も、人格を作っている魂とやらは無い。参照する先もなければ該当する場所もない。そう、この影に質量がないとされているのと同じようにだ。私はこの影によって押し潰されることが可能なのだ。理論上は。あなたはそこにはいないし、私はここにはいない。人間というエーテルの連なりが見せている蜃気楼。あるいは地球と呼ばれる原子の周りをめぐるさまざまな量子たち。電気が走っているように、人間も機能を正常にはたらかせるため蠢いているだけかもしれない。エラー。自意識はエラー。事実あるとするならば、私が在るのではなく、私が通過したということだけ。影は落ちきり、夜が訪れる。落ちていった光がぶつかり、世界も毎日滅びているのだ。