暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

傭兵

2011-12-30 | 暗い
空高くそびえる巨塔があるというのなら
私たちはただそこに突撃していくだけ
この地に足をつけている限り
血で塗れた水を飲まなければならないのなら
私たちはただそこを離れ飛び立つだけ
それが何かの罪に問われるというのなら
私たちはただ、死んでいく
紙切れ一枚の存在証明
それさえも求めてはいない

ただ突撃し散っていきたい
ただ飛び去って散っていきたい
ただぼろきれのように散っていきたい
それに何の不自由があろうか
もはや私たちは
とれることのない血を手に滴らせ
生きるためにその血を飲まねばならない

どのような命令でも聞いてみせる
突撃か
飛行か
死刑か
どちらにしろ死んでしまうなら
どのような命令でも聞いてみせる
殺しか
殺しか
殺すのか
その罪はいずれ支払うことになるだろう
どのような命令でも聞いてみせる
私たちはただの紙切れ一枚
歯車のなかのひとかけらの歯
だが血を飲み続けるのはたくさんだ
血に塗れたまま生き続けるのはたくさんだ
どのような命令でも聞いてみせる
だから
空を飛び
突撃し
ぼろきれのように

群れの孤独

2011-12-20 | -2011
神様は上にいて
鬼たちは下にいる
きれいな空は上にあって
みにくい屍は下にある
まんなかにいる人間は中庸で
きれいでもなければきたなくもない
神様は直接手をさしのべてはくれないし
鬼たちは地面を掘るのでせいいっぱい
人間は空を超えることを夢見ている
きれいになろうともがいている
もがくものさえないのに

善いことをするひとはきれい
悪いことをするひとはきたない
どの世界もどちらかしか書いていないなら
きれいでもなければきたなくもないひとたちは
やっぱり地上を彷徨わなくてはいけない
だって空は落ちてこないし
屍はつめたく眠るだけ
どちらでもない魂は
ぐるぐる魂を彷徨って
のぼってきなさい
おりてきなさいと
無責任な言葉を囁かれ続ける

罪を負うのは右耳から
罪を消すのは左耳から
けれども右から左へ通過して
左から右へも通過して
消えた罪はまたけがれ
負った罪はまたきえて
空へも地下へも潜れない
きれいでもきたなくもないのなら
救いも破滅もありはしないんだって
言い聞かせていつだって夢を見る
人を殺す夢や
空を自由に飛ぶ夢を
みんなみんな孤独なんだから
わたしたちここにいるだけね と
言い聞かせるんだ

ひとは孤独なんて当たり前
かみさまも鬼もずっと孤独だから
仲間を見つけてひっそりと
上や下を見るしかない
ひともけものもみな孤独
上はきれいで下はきたない
そう善悪の摂理に従って
ものを食べる 食べる 食べる

ひとたちはこうも言う
空はわたしたちが汚してきたない
土は深く深く澄んでいる
神など居はしないのだ
鬼などただの幻想だ
わたしたちはたったのひとり
たったひとりの生き物なのだ
因果も運命もありはしない
生きる使命などとうに忘れた
進化を忘れた獣たちを
ただ食らう 食らう 食らうのだ

ヘドロのベールをまとったかみさま
マントルの海にたたずむ鬼たち
怒りは土も大気も焼きつくして
えがいた夢を現実にする
上はきれいできたなくて
下はきたなくてきれい
彼らはどこへ行きたがっているのか
どこへも行きたがっていないのか
右から入った屍の数だけ
左の同胞が歓喜をあげる
左の同胞がなぐさめるたび
右の敵を殺していく

かみさまは決して直接手をさしのべてはくれないし
鬼も地上にはきてくれない

兎は逃げていった

2011-12-16 | -2011
私は樹です
先ほど、足が生えました
なんともいえぬ違和感が
なぜだかへんに心地よく
ちょっと一歩を踏み出します
うまく力は入らなくとも
一歩前へと進みました

歩き出すということは
なんと楽しいことでしょう
ずっと見送るばかりだった
獣や小鳥とともに歩み
疲れたならば足を曲げ
知るはずもなかった地のことを
知ったのです

けれどもよいことばかりでは
ないのだと思いました
私の体はひどく重くて
いつもいつも置いてきぼり
前まで見向きもしなかった
手の届かない場所への欲望も
日に日に膨らんでいくばかり
獣はいいなあ
小鳥はいいなあ
欲が 欲が 膨らむのです

私は樹です
樹は樹であるべきなのです
けれども足が生えたのです
生えてしまったのです
そうして気付いてしまったのです
今までいかに自分がきれいであったか
今の自分がいかに汚れていっているか
けれどもそういった感覚さえ
昔は持っていなかったのですから
私は悩んでいます
歩きながら悩んでいます

仲間も足が生えました
生えない仲間もまた います
みんなみんな 悩んでいます
何のために必要なのか
必要でないならなぜ生えたのか
ながくながく考えたあと
足のない仲間たちは言いました
おまえたちはもう
われらの仲間ではないのだと

動けないなら樹であって
動けるならば私は
私たちはなんだというのでしょう
何を食べるわけでもなく
歩き回る必要さえないのに
私たちは樹ではなくなってしまった
なんでもないものです
ただ歩けるというだけの

欲を持て余して
私はどうしたらいいのか、わからなくて
仲間でいたいというきもち
元に戻りたいというきもち
まだ歩いていたいと
いつか駆け回りたいと
いろんな欲を持て余して
ひとつ、涙をこぼしました

悲しいということを知りました
そうしてまた変わってしまうのです
ものを見る目も
おとを聞く耳も
駆け回る足も
掴み取る腕も
次々に得ていくのは
もう戻れないと知っているからです
その度わたしは変わっていきます
けれども悲しみは
たくさんの欲に埋もれて忘れていきます
仲間の声はいつしか届かなくなり
仲間であったということさえ
今は忘れそうです

だけれどそれでいいのです
もう 戻れはしないのですから

のけものけもの

2011-12-08 | 狂おしい
私は殴られ、
雑草のように倒れ伏す。
目の前では一匹の蟻が、
一瞥もくれずに匂いの道を辿っている。

平等な、
平等な世界などどこにあろうか。

噛みあわさる違和感は、
砂利か奥歯かわからない。
わたしの目は潤んでいる、
舌はからからに乾いている。

烏が鳴いている。
猫が後ろを振り返る。
夕食の匂い。
喧騒。

わたしは、
わたしはここにはいないのだ。

もはやわたしを殴り倒した者は、
笑いながら消えてしまった。
夕暮れだけがわたしを許し、
彼らは彼らの当たり前を消費する。

世界は当たり前に回っている。
それは、わたしを差し置いて。

真っ白、真っ黒、見ない聞かない喋らない。
血など証明にすらなりはしない。
口にたまったものを吐き出したところで、
砂も奥歯も一緒くただ。

おいしいごはんをつくっている。
おいしいごはんをさがしている。
おいしいごはんをたべている。
おいしいごはんをたべおえた。

平等な、
平等な世界などどこにあろうか。