あなたは猫みたいね、とだれかが言ったので
そんなこたないよ、と謙遜をしてみた。
返事はない。
ビルの中というのはどうにも空が抜けているようで、
開放感と閉塞感っていうのは極端な話どちらも似たような
ものなんだってね。
誰もいっていないことを、さも伝聞したかのように
隣の知らない人に向かって自慢をする。
あいつはちょっとアレだからね。
小馬鹿にした声を無視するのだから、頭は悪くはない
自分に向ってそう言い聞かせることの何とかなしいことか。
元気出せよって知らないお前に言われたところで
ちょっと嬉しくなってしまうばかり。
ざわざわして落ち着かないから、街中はあまり好きではない。
でも静かなのにざわざわする田舎もあまり好きではない。
真っ暗な中に暮らしたいと言えば
(あなたは猫みたいね)
「ああいっぴきでせまっくるしいへやにとじこめられてあたまおかしくなってへやんなかぐーるぐーるしてがんばってがんばってこびをうるいえねこみたいな」
(にゃんにゃん)
みんな頭がおかしくなるよ
ぜったいに後悔するよと囁いてくる。
後悔する頭があると思うならなぜ罵倒するんだ。
もうこめかみで指をまわす動作も
ともだちと会話をして笑われるのも
マイクを突き出されていろいろ聞かれるのも
うんざりしている。
妖精さんなんて信じちゃいない、幽霊だっていないと思っていて
それでもってただ聞こえるだけだ。
ビルの中は抜けるように青い。
トイレの水はなんだかちょっぴり甘かった。